最近、コアな音楽ファンの間で密かに話題になっているTwitterアカウント「AORのクソダサい帯bot」をご存知ですか?
浪漫はてなく、思いをはせて───
ブロードウェイの午下がり、マンハッタンの月明りにささやく”ドクターラブ”のテンダーヴォイス。
魅惑のひとときをあなたと。
(マイケル・フランクス/パッションフルーツ[1983]) pic.twitter.com/D1YvRpHe5g— AORのクソダサい帯bot (@AOR_obi_bot) 2018年3月14日
やがて 夢のように過ぎてゆく 青く、甘酸っぱい時期(とき)のかけらを シャイなジェントル・ヴォイスで サウンド・デッサン!!
(ティモシー・B・シュミット/プレイン・イット・クール[1984]) pic.twitter.com/zQdmOM7N8W— AORのクソダサい帯bot (@AOR_obi_bot) 2018年4月2日
「AORのクソダサい帯bot」はその名の通り、AORやフュージョンの日本盤LPの帯によく見られるクソダサい文章を、ジャケットの画像とともに紹介するという旨のbotアカウント。
最初にご紹介したのはほんの一部ですが、bot内で紹介されている帯の文章は、これがどうしようもなくダサい! そして、あまりのダサさに思わずププッとなってしまうような、そんなクセになる魅力が話題になっています。
昨年6月にアカウントを開設し、一年足らずで約4,500フォロワーを獲得している「AORのクソダサい帯bot」ですが、「中の人」はなんと、音楽ユニット ブルー・ペパーズにて活動中のアーティスト、福田直木さん。
ブルー・ペパーズは、レトロでありながらも新しいサウンドを発信し続ける「シティ・ミュージックの明日を担う若きポップ・スタイリスト・ユニット」。AOR、ジャズ、フュージョンなど様々な要素が盛り込まれたブルー・ペパーズ流AOR/J-POPサウンドは、今盛り上がりを見せている都市型ポップス・シーンでも一味違う存在として注目されています。
ブルー・ペパーズ – 秋風のリグレット (試聴動画)
70年代後半から80年代前半にかけて一大ブームを巻き起こしたAORですが、90年代以降は“ひと昔前のダサい音楽”として認識されることも少なくなかったとか。
そんな中、あえて今AORレコードの「ダサい帯」に注目する福田直木さんにインタビュー。
「AORのクソダサい帯bot」の運営、ダサい帯付きのAORを爆音で聴くイベント<AOR帯ナイト>の主催、CERA WEBの連載など、アーティストと「AORラヴァー」という二つの顔を持つ福田さん。インフルエンサーとして斜め上の視点からAORの魅力を発信する、新世代ならではの感性に迫ります。
また、春にオススメのアルバムやレコードの買い方、AORがかかるバーまで教えてくれました。AOR初心者のみなさんも、必見です!
インタビュー:ブルー・ペパーズ 福田直木
———まず、「AORのクソダサい帯bot」はどういった経緯で始められたんでしょうか。
もともとかなりCDで集めてたんですけど、レコードを買うきっかけになったのは、CDになってないものが結構あって、それを集めたいなって思ったのが入り口です。僕は音楽活動をする前は音楽ライターになりたいと思っていて、それもあって知識を集めるためにというのと、AORが当時どう思われていたかに興味があったので、国内盤に付属する解説を目当てに日本盤を買っていました。まあ買うたびに帯に変なこと書いてあるなとは思ってたんですよ。それで家でレコードを整理してるときに、帯の謳い文句を集めたら面白いんじゃないかとふと思って。で、集めてTwitterのbotにしたらどうかなと思って140字の中に文字起こししてみたら、ちょうど収まりそうなサイズだなと。単純に面白がられるだけでもいいし、レコードに興味を持ってもらったりとか、AORを聴いてもらえるきっかけになったりとか、結構入りやすい入り口になると思ったんですね。
———botを始めてから、AORへの認識や関心について反響は感じていますか?
Twitter上の反応では、AORについて興味を持ってくれるようになった方を見かけたときも嬉しいし、リアルタイムで買ってた人が棚からひっぱりだして聴いたら良かったという声もありました。僕の知り合いには、持ってるのにわざわざ帯付きを買い直したりしてる人もいます。あとは、当時レコード会社に勤めていて、帯のキャッチコピーを考えてた人とかが出現したりとかして。「これは誰々さんのコピーで……」っていうように解説して返信してくる人もいますね。
———それはツイッターならではの出会いですね。
本当にそうですね。
———それでは、AORの魅力について迫っていきたいと思います。まず福田さん自身がAORにハマるきっかけとなった一枚をご紹介していただけますか?
リー・リトナーの『Rit』です。小学校6年生くらいのときに友達とバンドをやろうってなって、ドラムを始めることにしたんですね。中学校に入ってYAMAHAの音楽教室に通いはじめて、課題曲としてTOTOの曲をやったときに、このバンドのドラマーがめちゃくちゃかっこいいなと思って。そのときはまだAORという単語は自分の中にはなかったんですが、中学生のとき授業の後に渋谷のレコード屋さんに行って、店員さんに「ジェフ・ポーカロ(TOTOのドラマー)にハマったんですけど、その人が叩いてるTOTO以外のものがあれば教えてください」って話したら、その人がAORというジャンルがあることを教えてくれて、「これがおすすめだよ」って持ってきてくれたのがこれです。初めてAORとして聴いたのがこのアルバムですね。
Lee Ritenour~Is It You
———ジャンルとしてのAORにはいろいろな解釈があると思いますが、福田さんなりの解釈や定義といったものはありますか?
AORは一般的には「Adult Oriented Rock」、「Album Oriented Rock」、「Audio Oriented Rock」の頭文字を取ったものとされていて、現代の日本では99%、「Adult Oriented Rock」のことだと思います。その「Adult Oriented Rock」としてのAORというのは、結構他のジャンルとの境目が人によって定義が違ったりするんです。ロックにジャズやソウルのエッセンスを取り入れたものをフュージョンと言って、少し語弊があるかもしれないですが、そのフュージョンに歌が乗った音楽がAORかなと自分では思っています。70年代の後半から80年代の前半に流行った、「ジャンル」というよりはむしろ「スタイル」に近いかな。そんなこともあって、レコード屋さんには「AOR」の棚は置かれていないことの方が多いです。基本ロック、ポップス、ジャズ・フュージョンとかの棚に混在していますね。
———ご自身の音楽ユニット「ブルー・ペパーズ」で楽曲制作をする際、AORやフュージョンからはどういった影響を受けていますか?
結構「こういう時代の音の質感」とかを忠実にやったりすることはありますね。洋楽AORのスタイルに日本語の歌詞をつけてなにかできないかなと思ってやってるところもあります。
———結構ポップな要素もありますよね。
そうですね。そういう曲もあれば、わりとアルバムの中の最後の曲のほうに趣味をいれてみたりとかはありますね(笑)。あとシングルとかだと、もうすこしポップに、J-POPのなかに取り込む、とか。
———演奏の仕方にも影響はされていますか?
そうですね。テクニックをひけらかすのではなくて、歌が良く聴こえるためにどんなアプローチをしたらよいか、という面では大きな影響を受けていると思います。
———福田さんはコアなAORリスナーだと思いますが、個人的なマニアな楽しみ方などはありますか?
自分の中でマニアになりすぎないようにしたいというのがあるんです。それでうんちくっぽくなってしまっている人を目にすることが多くて、そういう人たちが敷居を高くしているような気がしていて。もっと敷居を低くして楽しんでもらいたいと思うので、ちょっと笑ってくれるようなこととか、イベントでも(帯の文章を)朗読したりして、工夫していますね。だって、「AORのイベントやります」って言っても来にくいじゃないですか(笑)。興味を持ってくれた方が入りやすいようにしたいというところはありますね。
———ずばり、AORの魅力とは。
僕も92年生まれなのでリアルタイムでは聴いてこなかったんですが、小学校のときに耳にしていた現代のJ-POPのサウンドに慣れていたので、80年代がすごく新しく感じたんです。年配の方が聴いたら懐かしく感じると思うんですけど、僕はすごく新しいと思って取り入れたところがあるので。そういうところも魅力の一つだと思います。あとやっぱり、お金もかかってるし、いろんな人が集まって作っているので単純に歌もののポップスとしてかなりクオリティーが高いっていう魅力もありますね。
———春に聴きたい、おすすめのアルバム(LPレコード)を教えていただきたいです。
一番思い入れがあるのは、Al Jarreau(アル・ジャロウ)っていうジャズシンガーのアルバムです。1979年にグラミー賞をとったJay Graydon(ジェイ・グレイドン)っていう人(プロデューサー)が4枚くらいアルバムつくっているんですよ。ジャケットも春らしいですし。
ジャズの街から、愛の旅へ……
爽やかに心にふれる、アル・ジャロウのやさしさ溢れるメッセージ。
(アル・ジャロウ/ブレイキン・アウェイ[1981]) pic.twitter.com/4KA8UBsR90— AORのクソダサい帯bot (@AOR_obi_bot) 2018年2月17日
Al Jarreau – My old friend
———何曲目がオススメですか?
全部いいですよ。これは本当に、AORの中でベスト3に入るくらい好きなんです。特にジャズが好きな人だったら、入りやすいかもしれません。
———ジャズテイストが強いんですね。
一番ポップなのは、Christopher Cross(クリストファー・クロス)っていう人で、これはセカンドアルバムですね。一枚目もフラミンゴのジャケットで、爽やかなイメージとは裏腹に素顔は割と衝撃的かも(笑)。これはどこのレコード屋さんに行っても絶対あって、すごく安いです。
愁いを含んで、ほのかに甘く…フラミンゴのロマンスを再び。
青春のもう1ページをめくると、そこは果てなきパラダイス。
(クリストファー・クロス/アナザー・ページ[1983]) pic.twitter.com/HfJuC8iO21— AORのクソダサい帯bot (@AOR_obi_bot) 2018年3月19日
———かなり出回っているんですね。
レコードに興味のある方はこれから聴いてみるのもいいかと思います。
Christopher Cross – All Right (1983)
———では、入門編にも良いということですね。次のレコードはどんなところがおすすめですか?
コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック(CCM)というジャンルがあって、敬虔なクリスチャンの仲間内でつくる布教用の音楽というか、キリストを褒め称えるような歌詞にフォーカスを当てているようなものがあるんです。80年くらいのCCMの音はAORと同じような感じで、これはそのCCMのアルバムです。アメリカで発売されたオリジナルのLPはなかなか酷いジャケットで、日本で発売するにあたってこの爽やかな写真に差し替えられてしまっています。そんなところも面白いですね。
陽の照りつける昼下がり、快い音の流れに心を浸す……
(ロビー・デューク/ロング・アフタヌーン[1982]) pic.twitter.com/gjbwc3JtK3— AORのクソダサい帯bot (@AOR_obi_bot) 2018年3月21日
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AOR名盤のジャケットが日本仕様に 差し替えられてしまう納得の理由は?
内容はとってもよくて春にオススメです。ただこのCDを探そうとするとまず見つからないですね。一回CDになったんですけど廃盤となってしまったので、これ(レコード)は300円とかなんですけどCDを買おうとすると一万円くらいすると思います。
1. Love is Here to Stay – Roby Duke – Not the Same (1982)
———そうなんですね。傾向としてレコードのほうが手に入りやすいですか?
そうですね。レコードの方が平均して安いですね。ただその特定の一枚を探そうとすると大変です。中古でめぐり合わないと買えないので、足で稼ぐ感じですね。
———膨大な数存在するAORレコードの中で、知識がなくても良いモノに出会える確率が上がりそうな、福田さん流の買い方の極意があれば教えてください。
一番いいのは、店員さんに話しかける事だと思います。あとはレコード屋さんとかCDとかに行く前に、ディスクガイドとかを読んで気になるのをピックアップしてお店に行くことですね。基本的にレコードや特定のジャンルに興味がありますという人はすごく歓迎されると思うので。なので、店員さんに話しかけるのが手っ取り早いですね。
———どこかオススメのレコードショップはありますか?
僕がよく行くのは神保町の「EAST RECORD」っていうところで大きくないお店なんですが、AORの品揃えが豊富で、そこに行けば大体見つかります。AOR自体に興味を持ってるなら、CDですけど、1000円シリーズの「AOR CITY」シリーズとかはお手頃なので、そういう廉価版の再発シリーズやコンピレーションCDを買うのが早いですね。レコードに手を出してみたいなと思ってる人は、結構不安だと思うんですよ。すごい掘ってるDJの人とか、どうやって棚のレコードを見るのが流儀なのかみたいな、ラーメン二郎に近い入りづらい何かがあるんですよね。でも入ってみると全然そんな事ないので、普通に入ってゆっくり見てみるといいかと思います。一回入ってみると楽しいですよ。最近はプレイヤーも安く買えたりするので、敷居が低くなってきているのかなと思います。
———初心者も楽しめる、AORがかかるバーはありますか?
AORがかかるバーは、横浜の桜木町に「Breezin’」というお店があります。マスターさんはとっても詳しい穏やかな人で、かかってる曲を質問しても親切に教えてくれます。あとは西荻窪に「G7」っていうところがあって、そこもAORとかフュージョンとかに強い、綺麗でおしゃれなバーです。CDがいっぱいあって、もちろんリクエストもできますよ。
———意外とあるんですね。ではAORがよく流れるライブハウスやクラブはありますか?
あまり行かないのでよく分からないですね。でもそれをやったら面白いんじゃないかなと思って、たまにイベントをやってます。
———それは、福田さんご自身がやっていくという。
はい(笑)。
———4月14日(土)に第2回が開催される<AOR帯ナイト>はどういったものですか?
AORの曲をかけるイベントです。特に面白い帯は、読み上げる人がいるっていう。
———読み上げる人がいるんですか?
すごくリバーブのかかったマイクで読んでもらうんですよ。あとは普通のDJイベントで、AORを聴きながらお酒飲んだり。前回の開催時は割と若いAOR好きな人たちが集まってそこで仲良くなったりしてて、いいなと思いました。
———最後に、福田さんは「AORラヴァー」としてご自身の役割についてどうお考えですか?
AORを広めたりしてる人って今のところ、リアルタイムで楽しんでた方や音楽ライターさんとかが多いんですね。でもどこかで世代交代していかないと、語る人がいなくなるというか。そこは目指したいというか、広める窓口にはなりたいなとは感じています。イベントに遊びに来たりしてもらってもいいし、僕のTwitterから飛んでYou Tubeで曲聴くでもいいし、何か興味を持ってくれる人がいてくれたらいいかなという気持ちはありますね。
EVENT INFORMATION
<AOR帯ナイトVol.2 〜AORのクソダサい帯botプレゼンツ〜>
2018.04.14(土)
OPEN 16:00/CLOSE 22:30
カブキラウンジ
DJ
福田直木 (Blue Peppers)
波多P (Light Mellow Summit)
TOYO-P (Light Mellow Summit)
ラーヤン (Light Mellow Summit)
GUEST DJ
recoroma K
金澤寿和
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