名声さえも血肉化し、楽しんでいるフロントマン=ウィン・バトラー

2つ目のポイントは、成功と名声だ。アメリカ郊外の暮らしと、その夢や孤独について歌った前作『ザ・サバーブス』(2010年)でグラミー賞年間最優秀アルバムに輝いた時は、「アーケイド・ファイアって誰?」というツイートが飛び交い、ウィンも当時のスピーチで「僕らはアーケイド・ファイアと言います。ググってみてください!」と茶化していたように、彼らの音楽がまだメインストリームまで届き切っていないことが露呈した。だが、その後のツアーでは世界中のフェスティバルでヘッドライナーに抜擢され、HTML5の技術を駆使したインタラクティヴ・ビデオ「The Wilderness Downtown」が音楽以外のメディアでも紹介・評価されたこともあり、今やアーケイド・ファイアの名前はお茶の間レベルに浸透。急激な成功で自らのアイデンティティが崩壊してしまうアーティストはごまんといるが、ウィン・バトラーはむしろ名声さえも血肉化し、楽しんでしまっている(ように見える)。それは、同郷カナダ出身のザ・ウィークエンド=アベル・テスフェイにも成し遂げられなかったことのひとつだ。“Flashbulb Eyes”のアウトロで流れるテレビのザッピング音、“You Already Know”におけるトーク番組と思しき司会者の声などは、まさに「ポップ・スター」を皮肉ったもの。時に道化師かボノかマイケル・ジャクソンのようにも聞こえる彼のヴォーカルは、リスナーの心をかきむしり、昂ぶらせる。そして彼は、“Normal Person”で《分からなくなってきたよ/僕は普通の人なのか?》と嘲笑気味に自問自答する。最高じゃないか!

ディスク2は“Here Comes the Night Time”のダークサイドにして第二章とも呼べる“Here Comes the Night Time II”で幕を開ける。ギリシャ神話の吟遊詩人オルフェウス(“It’s Never Over (Hey Orpheus)”)とその妻・ユーリディス(“Awful Sound (Oh Eurydice)”)の名前をタイトルに冠し、さらにオーギュスト・ロダンによる彫刻をアートワークにあしらった彼らの意図はわからないが(あれは三角関係に苦しんだ上、男女が死別する物語なのだ)、お祭り騒ぎのディスク1から一転、ディスク2ではアトモスフェリックで内省的(=Reflect)なムードも現れる二面性が興味深い。全曲試聴時の映像としてウィンのお気に入りだと言うマルセル・カミュ監督の映画『黒いオルフェ』(59年)が使用され、海外インタビューではデンマークの哲学者セーレン・オービエ・キェルケゴールのエッセイ『The Present Age』も影響源に挙げられていたが、いずれも『リフレクター』の物語を読み解くヒントが隠されていることは間違いないだろう。問題作『イーザス』(2013年)で「オレは神だ」と宣告したカニエ・ウェストほどではないにせよ、ハイチで多くの理不尽な「死」に向き合ったこと、もしくはウィン&レジーナの間に待望の第一子が生まれたことも、この深く、美しいサウンド&コンセプトの根幹にあるのかもしれない。

Arcade Fire “Afterlife”

ニュー・オーダーを思わせる“Afterlife”を経て、アーケイド・ファイア史上もっとも優しく包容力のあるラスト“Supersymmetry”では遂にストリングスが解放され、強烈なノイズと共にフラッシュバック。光と闇、神と人、男と女、親と子、生と死ーー。これまで10万人規模のオーディエンスを相手にしてきたアーケイド・ファイアは、ここに来てグッとパーソナルな感情を表現しているように思える。それも、最大出力で。

(text by Kohei Ueno)

Release Information

2013.10.30 on sale!
Artist:Arcade Fire(アーケイド・ファイア)
Title:Reflektor(リフレクター)
ユニバーサル ミュージック
UICR-1106
¥2,980(tax incl.)