エイジアン・ダブ・ファウンデイション(ASIAN DUB FOUNDATION、以下:ADF)が今年、20周年を迎えた。イギリス・ロンドンの南アジア(インド・バングラデシュなど)系移民コミュニティー出身者で結成されたこのバンドは、デビュー以来、現代社会に対する批評性の強いメッセージを先鋭的なサウンドにのせて訴えてきた。そんな彼らが今年、節目の年に、ニュー・アルバム『ザ・シグナル・アンド・ザ・ノイズ』をリリースする。今作のサウンドはまさに原点回帰と言えるもの。初期のメンバーであるドクター・ダス(Ba)、ロッキー・シン(Dr)、ゲットー・プリースト(Vo/DJ)らが久しぶりに復帰、新メンバーには、凄腕フルートボクサーのネイサン・リーも加入。そして、プロデューサーには、彼らの代表曲“フォートレス・ヨーロッパ”が収録されたアルバム『エネミー・オブ・ジ・エネミー』(03年)をプロデュースした、エイドリアン・シャーウッドを迎えたということもあり、彼らの黄金期を彷彿とさせるミクスチャー・ミュージックとしての強度を備えながらも、ダンス・ミュージックの潮流も同時に捉えたものになっている。彼らの痛烈な皮肉を含んだメッセージも勿論健在で、ヨーロッパにおける移民達の現状からシリア~インドに至るまで、舌鋒鋭く社会の矛盾を糾弾し、かつ、平和を心から愛する彼らの「未来への願い」も感じられる。今回、Qeticではアルバムの全曲解析を(勝手に)試みた! 最強のミクスチャー・サウンドの中身とアルバムに込められたメッセージを一緒に深読みしてみよう!
ADFの新作『ザ・シグナル・アンド・ザ・ノイズ』を深堀り! 楽曲を勝手に解析してみました!
1. ZIG ZAG NATION
ヘビーなギターリフと強いメッセージが飛び交うロックな一曲。ロンドン暴動の政治的主張の欠落、そして、それが結果的に若者達の無軌道な行動に繋がってしまったということに対する批判をストレートに歌っている。長年、人種差別・階級差別と闘い続けてきた、ADFらしい視点が垣間見える、彼らの暴動そのものに対する辛辣な言葉からは、次世代の若者に対する希望も感じさせる。
2. THE SIGNAL AND THE NOISE
昨年、アメリカ大統領選の結果をビッグ・データを用いて見事的中させた統計学者ネイト・シルバーの同名著書を彷彿とさせるタイトル。「有益なものと無益なもの」、「多数派と少数派」など、とかく二極化しがちな現代社会への揶揄が込められた楽曲。民族音楽風のパーカッションとベースのタイトなリズムに、畳み掛ける様なラップとバンスリ(インドのフルート)の響きが絡まり、陶酔感を覚える一曲となっている。
Asian Dub Foundation – The Signal And The Noise
3. RADIO BUBBLEGUM
簡単に消費されてしまう音楽ばかりが溢れる音楽カルチャーの現状へのフラストレーションと、英国の「事なかれ主義的態度」への批判が描かれた一曲。グローバル化という大をとり小を無視するという大きな流れがコンサバティヴな政治的態度を生み出し、社会はいつまでたっても変わる事はない…という、現状が批判されている。キャッチーなリフとリフレインがありながらも、それを掻き消すかの様にノイジーなギターがうなりを挙げ、リヴァーブの効いたドラムが不穏な響きを残す。
Asian Dub Foundation Ft. LSK – RADIO BUBBLEGUM
4. QUTUB MINAR
イギリスに侵掠された歴史をもつマニプールに、デリーにあるインドで最も有名なミナレット(塔)=クトゥブ・ミナールを背中に担いでもっていきたい…という寓話のようなストーリーをもつ曲。マニプールが未だ不当な扱いを受けている事に対する不満、そして、インドの現体制への批判を、インド東部にあるマニプール州の言葉でラップしながら風刺を結実させている。絶えず鳴り続ける、タブラの音が異国情緒を強調し、インドの風景を想起させる。
5. STAND UP
レイドバックしたスタンダードなダブ・ナンバー。響くビートは群衆の足音を思わせる。富裕層を優遇し貧困層からむしり取ろうとする政府・資本家達に対する怒りを呼び起こして、立ち上がり、共に闘おうと同胞を鼓舞する一曲。曲が進むにつれ、ビートがヒートアップし、ダブ特有のディレイを用いたサウンド・スケープが広がっていく。さながらそれは群衆がデモや社会運動を通して、変革を起こしていく様を描いているかのようだ。
6. HOVERING
シタールのシーケンス・フレーズがループし、「HOVERING」=浮遊というタイトルに相応しい瞑想的なムードを醸し出す。パーカッションのジャングリーなビートの下で、腹に響くベースの音は、ドクター・ダスの本領発揮といったところか。
7. STRAIGHT JACKET
タイトなリズムに、ベンガル語のラップが勢いよくフロウしていく楽曲。同胞への決起を呼びかけていた“STAND UP”とは異なり、自分達は搾取されているのだということに気付かない仲間への皮肉が「拘束衣=STRAIGHT JACKET」という表現には含まれている。不当な扱いを受けている現状に文句をいうことなく、迎合しようとしている仲間を挑発しながら、現状に目をむけるよう呼びかけるハードなナンバーである。カルカッタのラップ・グループ、ガンドゥ・サーカスも参加。
8. GET LOST BASHAR
シリアで独裁政治を行うバッシャール・アル=アサド大統領を批判する一曲で、退任を求めて反政府デモが歌った“Yalla Erhal Ya Bashar”を元にしたもの。歌詞にはアラビア語が用いられており、シュプレヒコール(かけ声)が曲全体を通して絶えずループしていくため、さながら実際に行われたデモを録音して、リミックスしたかの様な熱気が溢れている。「失せろ!バッシャール!」、「消えろ!バッシャール!」と非常にストレートな言葉で、シリアの自由と改革を求める一曲となっている。
9.BNADH BHENGE DAO
カルカッタのラップ・グループ=ガンドゥ・サーカスをフィーチャリングした一曲。インドとイギリスの関係を、触れればすぐに崩れ落ちてしまうトランプの家にたとえ、イギリスの優位な状況は永遠ではないと主張する。保守派が聞いたら卒倒しそうな過激な内容の歌詞だが、リフレインは自由を求める人間の普遍の意思が描かれており、決して、この闘争がイギリスとインドの関係に終始するのではなく、全ての国の階級闘争に当てはまる事であると気付かされる。極端に早いビートにのって、急き立てる様な男女混合のヴォーカルが、民謡のようなメロディーを奏でる。
10. BLADE RAGGA
電子音楽ヴァージョンのレゲエであるラガという曲名がつきながらも、ロックでパンクなASIAN DUB FOUNDATIONを思わせる一曲。ルート音を只管、刻み続けるベースが、確かにタイトル通り、切れ味鋭い刀の様な爽快さを感じさせる。
11. YOUR WORLD HAD GONE
おだやかでフォーキーなギターではじまる、デュエット曲。ダブのリズムを持ちながらも全曲の中で最も民族的な雰囲気が強い楽曲。変わってしまった世界を、心変わりした恋人に準えて、その悲しみを歌う。インドを取り巻く現状に対して、そこに実際に暮らしている住民達は諦観しか覚えていないということを嘆き悲しんでいる。
12. DUBBLEGUM FLUTE FLAVOUR
アルバムのジャケット・イラストレーションを思わせるスペーシーな一曲。「DUBBLEGUM」という造語が具体的にはどのような音楽を指すのかは不明瞭だが、プログレもビックリなリフに、日本の篠笛を思わせるインド・フルート=バンスリの響きが重なっていくサウンドには、彼らなりのオリジナルな音楽世界が結実している。
13. PSYCHOSAMBAS
日本盤だけのボーナス・トラック。「PSYCHO SAMBAS=狂ったサンバ」という曲名に相応しく、ノイズがかかった機械のようなギターの音と、リズム・マシーンの永続的な響きが陶酔感を醸し出すインストゥルメンタル・ナンバー。冒頭はサンバの明るいイメージからはほど遠い、ダブでドープなサウンド・スケープが作り上げられるが、後半から徐々にボイス・パーカッションなどのサウンドが入り、盛り上がりをみせる。
text by Jin Otabe
Event Information
ASIAN DUB FOUNDATION
2013.10.11(金)@渋谷O-EAST
OPEN 18:00/START 19:00
ADV ¥5,800
LINE UP:ASIAN DUB FOUNDATION、GOMA & The Jungle Rhythm Section
主催:SHIBUYA TELEVISION
企画制作:BEATINK
Ticket Information
先行発売:
BEATINK WEB SHOP “beatkart”[8月3日(土)~]、イープラス[プレオーダー:7月26(金)12:00~7月31日(水)18:00]、チケットぴあ(Pコード:207-181 )[いち早プレ:8月1日(木) 11:00 ~ 8月5日(月)11:00/プレリザーブ:8月2日(金) 11:00 ~ 8月6日(火)11:00]
一般発売:8月10日(土)~
BEATINK WEB SHOP “beatkart”、イープラス、チケットぴあ(Pコード:207-181)、ローチケ(Lコード:78831)
CD shop:
取扱店舗は随時発表。詳細はBEATINKにて。
Release Information
2013.07.31 on sale! Artist:ASIAN DUB FOUNDATION(エイジアン・ダブ・ファウンデイション) Title:The Signal And The Noise(ザ・シグナル・アンド・ザ・ノイズ) Beat Records BRC-387 ¥1,980(tax incl.) Track List |