ATARI TEENAGE RIOT ver.1.0

まさにスピード! 駆け抜けた90年代

[ver.1.0 メンバー]
・アレック・エンパイア(Alec Empire) – Programming,Shouts
・ハニン・エライアス(Hanin Elias) – Vocals
・カール・クラック(Carl Crack) – MC
・ニック・エンドウ(Nic Endo) – Noise Control

それまでソロとして〈Mille Plateaux〉や〈Force Inc.〉といった電子音楽レーベルから、テクノやブレイクコア、アンビエントの作品をリリースしていたアレック・エンパイア。まさか彼が自身の口からメッセージを放ち、それをBPM200(※BPM=1分当たりのビートの数で200というのは激早ッッッ!)の凶暴なデジタル・ビートに乗せたATRとして登場するとは誰も予測しておらず、それは衝撃以外の何ものでもありませんでした。

1995年に1stアルバム『DELETE YOURSELF』(当初のアルバム・タイトルは『1995』)をリリース。彼らのライブはさながらサウンド・デモと化し、政治や社会に対してやり場のないフラストレーションを持つ若者たちはどんどんと彼らを信奉し始めます。彼らが生み出した”デジタル・ハードコア”に賛同するアーティストも多く〈DIGITAL HARDCORE RECORDINGS(通称:DHR)〉としてレーベル化し、アレックを始めとした各メンバーのソロ作やEC8ORやSHIZUO、ロリータ・ストームなどによる過激な作品が世に放たれます。

彼らの話題はすぐさま海を越え、アメリカではビースティー・ボーイズが主宰する<チベタン・フリーダム・コンサート>に招聘されたり、そのビースティーズの立ち上げたレーベルである〈Grand Royal〉が彼らの作品をライセンスしたりとメッセージは世界へと広がり一世を風靡! 2ndアルバム『THE FUTURE OF WAR』(97年)を経て、同時代に隆盛したラウドロックのファンをも取り込んだ不朽の名作『60セカンド・ワイプアウト』(99年)がリリースされ人気が絶頂!

しかし激しすぎるその活動は長く続けるにはハードすぎたのかもしれません……。

Atari Teenage Riot –“Revolution Action”

■まさに彼らのアティテュードを表す「革命のアクション」というデジタル・ハードコアパンク・ソング。この頃はレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやスレイヤー等とのライブ競演や共作、本文で述べた通りラウドロックのアーティストやファンをもねじ伏せた彼らの代表曲。

突然の終焉 – 伝説の『LIVE AT BRIXTON ACADEMY 1999』

メッセージ性を創作源としてきた彼らの意図とは違う部分(思想性というよりは音のラウドさ)での人気も高まり“時代の孤児”となる彼ら。その人気とは裏腹にバンド内では非常に深刻な問題が山積みとなります。長期に渡るツアーによる疲弊、メンバー間の確執、そしてMCであるカール・クラックは重度のドラッグ中毒。

そんな中1999年には大きなチャンスが舞い込みます。それはナイン・インチ・ネイルズがUKブリクストン・アカデミーで行うライブへのオープニング・アクトとしてのオファーで、その頃のNINは同年に初の全米ビルボード1位となる『ザ・フラジャイル』をリリースしたばかりでした。しかもこれはATRを尊敬するトレント・レズナー直々のご指名で、この絶好なチャンスは、彼らの人気をさらに高めるにはまたとない大舞台……となるはずでした……。しかし、この重要なライブの当日、メンバーのカールとハニンは会場には現れず、残るアレックとニックは自暴自棄にステージ上で現存曲を使用した「破壊行為」をライブで行います。わずかに音楽の片鱗を感じさせるもひたすら冷たいノイズと化した楽曲を約30分間に渡り群衆に浴びせ、2人はその大舞台を降ります。

非難も多かったこのステージ以降、ハニンに至っては長きに渡りメンバーと顔を合わせる事もなく、カールはドラッグ中毒に加えて精神的にも衰弱し長期離脱、バンドは絶頂を迎えたと同時に空中分解することとなります。そして2001年にはカール・クラックの突然の急死、その死因は精神病からの自殺説やドラッグのオーヴァードーズ、右翼団体による殺人説など様々な憶測がされるほど衝撃的なものでした。これを引き金に休止中だったATRは事実上の解散を余儀なくされたのです。

Atari Teenage Riot – Live At Brixton Academy 1999

■ファンにはとっては伝説のライブ盤で邦題は『ノイズ・ライブ1999』。即興によるカオスでサイケデリックなリズムやサンプリングは、賛否両論もノイズ・ファンには高い評価を得ている。冷たくやはりこの時のバンド状態を表すかのごとく、どこか悲しげな印象がある。

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