BBHF(ビービーエイチエフ)は、元Galileo Galilei のソングライティングと歌を担当していた尾崎雄貴(Vo.&G.)がバンド解散後、ソロプロジェクトwarbearと並行して始動させたロックバンド。同じく元Galileo Galileiの尾崎和樹(Dr)、佐孝仁司(B)の2人に、彼らのサポート・ギタリストを務めていたDAIKI(G)を正式メンバーに加えて2018年に活動をスタートさせた。その不変性溢れる歌世界を中心に、バンドサウンドと海外トレンドサウンドとのシンパシーさ溢れる音楽性を、同居させたり、使い分けたりするその柔軟な音楽性も魅力な彼ら。2018年にはPOP ETC のクリスチュウをプロデューサーに迎え1stアルバム『Moon Boots』を発表し、全国ツアーも成功に収めてきた。
そんなBBHFから待望の新作が届けられた。前作から約1年ぶり。6曲入りEP『Mirror Mirror』となる今作は配信限定リリース作品。よりDAW性の高いラップトップ的ニュアンスの強い楽曲が並んでいる。ウェーヴやバレアリックな要素も増え、よりトレンド路線へと向かった感がある今作。歌詞面での変化も特筆に値する。言葉のレトリックやその裏でテーマとして擁している何か。そしてこれまで以上に聴き手に歌詞が委ねられた感がある断片やメモ感の高い歌詞群は、繰り返し聴いているうちに所々打たれた点が線を結び、気づけば絵を導き出しているのも興味深い。
極めて現代ならではの時代性を擁した今作。これまで不変的な音楽性を提示してきた彼らだけに、そこにはかなり意外性を抱いた。これには何かありそうだ……。そして話を訊いて様々なことが腑に落ちた。
今作が何故このような端的な作品へと至ったのか?ソングライティングと今作制作のイニシアティブをとった尾崎雄貴に問う。
Interview:尾崎雄貴(BBHF)
──今作は配信限定でのリリースですが、尾崎さんの今のスタンスからすると、このリリース形態が、伝える曲数的にも制作からリリースまでのタームのスピーディーさも含め、合っている印象があります。
実は今回、作品を配信で、しかもEPとして発売するには、その「特に今の時代性に合わせた」というものではないんです。というのも、実は並行して同じく新曲を詰め込んだ6曲入りのEPを制作していて。こちらはフィジカル(CD形態)でのリリースを予定しているんです。この盤は今作とは全く異なった、ある種正反対のコンセプトと手法だったりで。そんな両極端な作品を2作つくり、それらを合わせて一つの大きな作品として成立させたかったんです。
──もしかしてもう一方はもっとバンド然としていたり?というのも、今回の『Mirror Mirror』は極めて作品性や構築性が高く、DAW要素の強い楽曲群に偏っていたもので。
まさにそこです!もう一方の作品も曲は完成しており、これからバンドでレコーディングに入るんですが。予め2つのテーマにセパレートし、あえてメッセージも対になるようなアプローチや手法にしてみたんです。
──では、今作の『Mirror Mirror』の方は……。
こちらは僕の中ではデジタル。例えばiPhone等のスマホだったりでコミュニケーションを取っている、今の時代を反映した作品といった趣きです。
──その「iPhoneやスマホだったりでコミュニケーションを取っていく時代性」というのは?
僕の世代がちょうどそれらに対して過渡期だっだと自覚していて。今では当たり前のようにそれらを使ってますが、元からそれがあった世代ではないわけで。後から世に現れてき、そこに立ち会えた世代というか。そんな世代から見た今の社会は、それらに特に懐疑心もなく、そこまであまり深く考えずに使っている。それは僕も同じで。今のスマホでのやり取りが世の中の中心になっていることに対して特に疑いも持ってませんから。そんな僕らなりの現代社会に対するコミュニケートを今作では描いてみたんです。
──それはある意味、このスマホ文化の功罪に対して何か物申す的な?
いや、それとはまた違っていて。単純に現代社会に於いて繋がるツールとしての音楽というか。例えば昔の歌によく、「電話」や「手紙」ってワードが入ってるじゃないですか。それは当時の肉体的な繋がりであって。いわゆる書いたり喋ったり、思いを伝える当時のツールであったと言うか。でも今の時代は、それらの代わりにテキストやデータでメッセージを伝えるわけで。その繋がりの変化や移行を普通に楽曲の中に取り入れたかったんです。それと今僕らの置かれている、この移り代わりの激しい時代を表現したかったし。それもあり、盤にはせず配信限定にしたんです。あえて実態のないものにしたかったことも含めて。
──存在はしているんだけど、形としては残らないものとして?
そうです。あえて物質的なものじゃない残し方をしたくて。
──意外です。逆に不変的なものを作り続けていくのが尾崎さんの命題だとばかり思っていました。
今の僕は既に不変的なものに魅力や効力は見出してません。それこそGalileo Galileiの頃から、関わる色々な人から「不変性」を唱えられ続け、求められ続けてきましたから。なので僕の中では、「不変性」は、もうとてつもなく空虚な言葉で(笑)。そもそも不変的なものを作ろうと思ってないし、でも自分が不変的なものを作ってないとも思っていない。その不変性自体、自分で決めるものではなく、みなさんが決めることですから。
──私は逆にこのBBHFこそ、より不変性を目指して始めたものだと映ってました。
とは言え、自分たちのやっていることが特殊でアーティスティックだなんて僕は絶対に思いたくなくて。そう自称してやっているアーティストって僕の中ではたいていあまり良くない (笑)。基本、僕は自分の作る音楽は凄くポピュラリティのあるものだと自負していて。もしかしたらそれが自分の中での不変性なのかも。不変性って基本、他人に押し付けられるものじゃないじゃないですか。自分が作っている音楽が人と人とのコミュニケーションであり共通言語である。そんな思いをもって初めて人に投げかける権利があるでしょうから。
──そもそも今作に至ったのには何かキッカケでも?みなさんのこれまでの音楽性や、多くの方々からの期待からすると、ややをもすると凄く裏切ってしまう懸念もあったわけで。
その懸念は全くありませんでした。自分たちが自分たちのイメージに固執していたのは、既にGalileo Galileiの際に終わっていた話で。その像を追い求めている人たちは、きっと以降の自分たちの活動からは離れていってしまったでしょうし。今では不特定多数の人たちプラス自分に向けて音楽をやっている自負があって。あまりこれをやっちゃいけないとか、逆にこれをやるべきみたいな使命感がないんです。曲を書いて、バンドをやって、音楽として人に伝える。ただそれをやってるだけのことで。そのコンセプトがたまたま今回はこれだったし、これを出さずにはいられなかった感じなんです。なので僕としては喋っていることと一緒。その喋り方を変えてみただけの話。なので戦略的なことは何もないです。逆にもうちょっと戦略的になった方がいいぐらい(笑)。
──対してもう一作の方は?
ちょうどいま制作中なんですが、こちらは対象的にバンドアプローチで。メンバー同士の肉体的な有機性から生み出される作品になる予定です。逆にこちらはそれこそ物質的に存在する作品として残したくて。対して、この『Mirror Mirror』は実態がなく掴めないものにしたかったんです。メッセージ性があるにせよ、周囲に対してやツールに感じている自分たちなりの感覚を言葉として、しかも説明するわけではなく、フラッシュバックのように情景だったり自分の経験だったりを曲に落とし込んでいったものにしたくて。
──今、おっしゃっていたのが凄く分かるのがラスト曲の「リビドー」でした。この歌詞で「スマホ」という今の時代ではあるけど、不変性ではない言葉をあえて入れますよね?これまで不変性や永遠性にこだわってきた感のある尾崎さんが、このような、ややをもすると何年後かには前時代を象徴する遺物のようなキーワードを入れているところに意外性を覚えました。
その辺りはある種のこの時代へのオマージュでもありました。それこそ聴いてタイムマシーン的にフラッシュバック出来る言葉として入れてみたんです。今のこの作品での感覚だと、もし仮に僕が「ポケベル」を使っていた時代の人間だとしたら、「ポケベル」という歌詞を入れていたでしょう。言い換えると「ポケベル」という言葉自体が不変性を持っているというか。その時代の背景やストーリーもあるだろうし。
──今は「共有」の時代じゃないですか。その辺りのあえての打ち出しも感じました。例えば「Torch」での《受け入れた終わりと手を取り合って生きる》とか、「リビドー」での《喋ろう!喋ろう…》だったり。今の時代ならではのツールを使っている。そんな共有の情景が浮かんできたんです。
その辺りは現代のSNS、例えばTwitterのような肉体的な繋がりはないのに、気持ちは繋がっているあの感じ……それを上手い言葉で表せないかな…と使ってみました。今の時代は、自己承認欲求の時代でもあるわけじゃないですか。今回のタイトルの『Mirror Mirror』も、スマホの電源を切ると画面が真っ暗になり鏡状になり、今までそれを見ていた自分が急にそこに映る。あれって何か他人を調べているようで、実は自分の自我を投影してるんじゃないか?と思い始めてつけたタイトルで。で、その自我ばかりがどんどん大きくなっていってる。それ自体は悪いことではないでしょうが、その自我と向き合う時間が凄く長い時代になったと感じていて。
──確かに。
それもあり歌詞もどちらかというとエモーショナルな部分。文章や写真での繋がりが増えたからこその今を描きたくて。今って写真でも動画でもテキストでも、ある種、誰でも自分を投影する作品として世に送り出せる。それって凄くエモーショナルなことだなって。肉体的なブツかりとは違ったコミュニケ―ションとして、今は感情をフィルターを通さずに表せる。そんな時代だからこそ、あえて喋ろうとか欲望とか意志をただ提示するだけ。それも今っぽいのかなと。そのような感情の現れを歌詞に落とし込みたいとは、今作の割と全曲通して思ってました。深く考えずにモノを言う感じというか。
──逆にそこに警笛や、どうなんだろう?的な懐疑的なものを定義しようとは?
全くなかったですね。いわゆる「これって良くないんじゃない?」的なものを音楽に乗せたいとは今作に関しては一切なくて。どちらかというとここにある言葉の中の何か一つを掘って、自分の中にある想い出等とリンクして、「なんか言わんとしていることは分かるかも……」と感じてもらえる程度でいいかなって。ただただ僕と聴き手との記憶とか想い出とか、現代社会に対しての視点が少しリンクしてくれるものがどこかで生まれたらいいなレベルでした。なのでメッセージ性よりはむしろコミュニケーションに近いかも。
──でも、その辺りも、「分かって欲しい」的なコミュニケーションともまた違った類のような。
ですね。もし、歌詞に出てくる登場人物たちが「自分を分かってくれ」と自己承認欲求があったとしても、僕がそれを訴えているわけではなくて。単にこれらを通して繋がることが出来たらいいなレベル。それはきっと繋がりたいと僕自身が思っていることだし、繋がりたいと思ってくれる方々がそこに反応してくれるだろうし。僕なりのミュージシャンとしてのコミュニケーションを作品を通してやってみただけなんです。
──今回は中でも特に歌詞のレトリックさに感心させられました。
今回の『Mirror Mirror』のタイトルにしても、元々先程のスマホの鏡からアイデア自体は来ているんですが、歌詞の中でも反射をイメージした組み立て方をしていて。繰り返したり、その歌詞に対して反対側から違う歌詞をブツけてみたり。フレーズでの問いに対してフレーズで応えてみたり。楽曲の中で歌詞が乱反射するイメージ……そんなコーラスワーク等を考えながら作っていったりしたんです。ここまで一つのテーマでしっかりと作品を貫き通して作ったことが、これまでなくて。今回は作っていても自分でも面白かったですね。実は全曲別々に聴こえるでしょうが、どこかで全部が繋がっていたり。それは歌詞だけじゃなくて、反射という名目でつながりを意図的に作ったりもして。それらも聴いて探ってもらえると面白いですよ。
──記号やヒントが並べられており、そこから聴き手が見出したり解き明かしたりと、これまで以上に聴き手に作品が委ねられる感覚がありました。
それらに不思議なエネルギーを感じたんです。人間味があり温かみのあるエネルギーというか。それを自分たちの中に取り入れたくて。その辺りは、ちょうどここ最近ヒップホップとが好きで本格的に聴き出したのも大きく作用していて。昔は苦手でずっと聴く気になれなかったのが、今や180度違うぐらいの好印象を、このジャンルに持ってますから。
──そのヒップホップの主にどの辺りに惹かれたんですか?
ラップ本体よりかは楽曲の作り方やブルーズ的な言葉の問いかけ、あとは言葉一つ一つに対する意味の持たせ方等ですね。その辺りからは強く影響を受けました。それが今作のテーマでもあった「乱反射」にフィットしたところもあったし。
──この『Mirro Mirror』を待っていた方にメッセージがあれば。
ちょっと長く待たせちゃったけど、このコミュニケーションを受け取って欲しいです、かな。
──たいして対になるもう一枚の方も気になります。
こちらはそれこそGalileo Galileiの頃からずっとやれなかった、バンド然としたものを予定しています。僕らは恵まれていて。早くからデビューさせてもらった反面、最初から楽曲を制作することが義務や作業になっていたんです。でも今や状況も変わってきて。ある意味自由なんです。そんな中で作る楽曲につき、おのずとバンドで作りながらも、これまでとは違った空気感の作品になると思っています。
──作り方や目指しているところが対象的なのも興味があります。
今回はバックトラックを先に作って、そこに浮かんだメロディや歌詞を乗せていったんです。対して次の作品では自分の作った弾き語りを基にバンドでアレンジして肉付けや作品化していくものになります。Queenの映画『ボヘミアンラプソディ』ってあるじゃないですか。あれを観て単純にバンドをやっている方々だったら、内容や賛否は抜きにして、「やっぱりバンドっていいな……」「スタジオにみんなで入りたくなったゼ」となると思うんです。単純にあのバンド感やバンドならでは感がやりたくて。今の時代、バンドのメンバーと言えど、プロデューサー的な考えやクリエーター的な気質のミュージシャンが増えてきて、バンドであることや各プレーヤーであることの意味会いが薄れてきている感があるんです。そんな中、あえてそこをやりたくて。バンドの一員である意味や、それをキチンと出せる。それこそ今作とは対照的な作品にしたいんです。こちらの方も是非楽しみに待っていて欲しいですね。
Text by 池田スカオ
Photo by Kazma Kobayashi
REREASE INFORMATION
BBHF 1st EP 『Mirror Mirror』
01:Torch / 02:だいすき/ 03:友達へ / 04: Mirror Mirror / 05:バック / 06:リビドー
※配信限定になります。
LIVE INFORMATION
BBHF ONE MAN TOUR” Mirror Mirror”
9月14日(土)札幌cube garden
OPEN 18:00 / START 18:30
9月21日(土)梅田TRAD
OPEN 17:45 / START 18:30
9月27日(金)マイナビBLITZ赤坂
OPEN 18:15 / START 19:00
ALL STANDING 前売り4000円(D代別)
オフィシャルHP先行
7月1日(月)12:00~7月10日(水)23:59