ここ数年はゲストを迎えたカヴァー・プロジェクト「レコード・クラブ」の他、シャルロット・ゲンスブールやサーストン・ムーア作品のプロデューサーとして活動していたものの、スタジオ・アルバムとしては『モダン・ギルト』以来6年も音沙汰がなかったベックが、遂に通算12作目『モーニング・フェイズ』を完成させた。そこで今回は、「ベックのクールなところ」をキーワードに、彼のキャリアや魅力をおさらい! そのうえで、待望の新作の制作背景や世界観をのぞいてみよう。
クールなところ① 一体どれが本当のベック? 作品ごとに変わる音楽性
ベックを語るうえで欠かせない要素といえば、まずは作品ごとに姿を変える音楽性。中でも94年のメジャー・デビューから00年代中盤までは同じ作風が続くこと自体が珍しく、ブルースとヒップホップ、ノイズなどを融合させた“ルーザー”収録の『メロウ・ゴールド』と<グラミー賞>を獲得した次作『オディレイ』で注目を集めると、ファンク/ヒップホップ色濃厚でカラフルな4作目『ミッドナイト・ヴァルチャーズ』、音響的なアコースティック・サウンドでキャリア史上もっとも内省的な音を手に入れた02年の『シー・チェンジ』などを筆頭に、めまぐるしく音楽性を変化させていった。そして今回の新作『モーニング・フェイズ』では、カリフォルニア・ミュージックに焦点を当て、クロスビー・スティルス&ナッシュ、ニール・ヤングなども影響源に加えたアコースティック・サウンドとリッチなコーラスでUSルーツ・ミュージックを再解釈。モダンな音処理や編集感覚を持ちつつも、歌の魅力を全面に押し出した、“2010年代版の『シー・チェンジ』”といった雰囲気を獲得している。
BECK -“Loser”(『メロウ・ゴールド』より)
BECK -“Lost Cause”(『シー・チェンジ』より)
クールなところ② 実の父から、MGMT、ファレルまで! 多彩なコラボレーターたち
それもそのはず、本作には『シー・チェンジ』にも参加していた面々――ジョーイ・ワロンカー(Dr)やジャスティン・メルダル・ジョンセン(B)、スモーキー・ホーメル(G)、ロジャー・ジョセフ・マニングJr.(Key)、ジェイソン・フォークナー、そしてストリングス&ホーンのアレンジを担当した実の父デヴィッド・キャンベル集結(一部ジャック・ホワイトと彼のスタジオで録音した音源も収録)。とはいえ本人は新作と『シー・チェンジ』との繋がりを否定していて、今回の作風はむしろサーストン・ムーアらベテランからMGMTやセイント・ヴィンセントといった気鋭の若手までを迎えた課外活動=レコード・クラブで再発見した、ソングライティングや歌/ミュージシャン同士が集まって演奏することの楽しさを反映させたものでもあるようだ。また、これまでにもダスト・ブラザーズやナイジェル・ゴドリッチ、デンジャー・マウスなどその時々の気鋭のプロデューサーやコラボレーターの手を借りつつ作品ごとに理想の作品を具現化してきたベックだが、『モーニング・フェイズ』の後に控えるもうひとつの新作ではダフト・パンクの“ゲット・ラッキー”に参加して再注目著しいファレルが参加しているとの情報も。彼は近年若手から厚いリスペクトを集める人物だけに、ベックの時代を追うアンテナも健在だ。