他には類を見ない不思議な魅力を放つポップ・ソング集
――The Times
揺れるようなエレクトロニック・サウンドと、ぼんやりとしていて難解なオルタナ・ポップによる万華鏡のような風景。圧倒的なほど壮大な楽曲群
――The Fly
錆びついた鉄くず、あるいは色褪せた写真、古い家屋や廃墟、苔……、それらを見た時に、我われはしばしばそこに時間の経過であり悠久の物語を感じ取る。ビビオことウエスト・ミッドランズ在住のステファン・ジェームス・ウィルキンソンの作り出すサウンドには、何かそんなような魅力がある。目の前の色彩や風景を鮮明に描写するのではなく、記憶のぼんやりしたところに語りかけ、大切な何かを思い出させるのだ。通算7枚目となる彼の最も新しいアルバム『シルバー・ウィルキンソン』は、相変わらず幻想的で、そしてどこか感傷的であり、まるでボーズ・オブ・カナダとベン・ワットの“ノース・マリン・ドライヴ”を同時に聴いているかのような、とても愛おしく特別な時間を聴く者に与えてくれる。
Music Video:Bibio – À tout à l’heure
『シルバー・ウィルキンソン』は、枯れたギターのエコーがもの悲しく響く“The First Daffodils”で幕を開け、ウィルキンソンのヴォーカルをフィーチャーした美しい“Dye the Water Green”、フィールド・レコーディングした波の音が曇天の浜辺へと誘う“Wulf”、トロ・イ・モアあたりのチルウェイヴ系とも共鳴しそうな“À tout à l’heure”、爽やかなギターの響きが広々した初夏の草原をイメージさせる“Sycamore Silhouetting”、ぶった切ったヴォイス・サンプルを散りばめたファンキーかつ高揚感溢れるディスコ・チューン“You”、ギターとフェンダーロースが楽しげに絡み合う極上のポップ・ソング“Raincoat”(キング・オブ・コンビニエンスみたい!)、控えめながらロマンティックなメロディにうっとりしてしまう四つ打ち“Business Park”などなど、これまでのウィルキンソンの作風をしっかりと踏襲しつつも、多彩な音楽の要素をブレンドした新境地とも言うべきビビオ・サウンドを聴くことができる。こういうと実も蓋もないが、どの曲も最高に素晴らしい。心地よいこれからの季節、ビビオの『シルバー・ウィルキンソン』が、きっとあなたにステキな黄昏のひと時を与えてくれるに違いない。
(text by Naohiro Kato)
Official Comment : BIBIO
アルバム制作において、作る前からあらかじめテーマを定めることはない。そうしてしまうと、おそらくどこか窮屈な感覚を覚えてしまうからだろう。自然な創作のフローを抑制してしまったり、新しいアイディアが生まれるのの妨げになったり。ただし、抑制と制約はまったく異なるものだ。制約は創造性に影響を与える。俳句の定型だったり、使える色の限られたパレットだったりが、強制的に選択を強いるように。このアルバムにおいて、アルバムが形作られる前から存在するテーマのようなものがあったとすれば、それは非常にぼんやりとしたものだった。オーガニックで、生音によりフォーカスしていること。ギターやその他の生楽器の音をより多く録音して使うこと。でも僕は純粋主義者じゃないし、スタイルを変えることを控えたりはしない。その結果、この作品も前の2作同様、さまざまな要素を含んだ作品になったと思っている。アルバムを作るときには、“自然の赴くままに”という姿勢をある程度持っているが、それは綿密に方向付けられたどんなに素晴らしいアイディアよりも、新たな発見の方がより魅力的に感じるからだ。長い時間をか け、全力でアルバムを完成させた後にも、そこからまた新しい変化を求めてしまう。冬が終わりに春の訪れ を焦がれてしまうように。僕は季節の変化が好きで、制作においても大きな影響を受けている。自分の作品を季節に例えて考えるのも好きだ。それぞれが個性を持ちながら、一つの大きなものを作り上げるイメージだね。それぞれがお互いを補い合い、引き立たせる。このアルバムに関しても、前作とまた対照になるような新しい“季節”を求めていたと。
収録曲の多くは、スタジオで取りかかり、スタジオで完成させているけど、プロセスと結果に新鮮さを求めて機材を外に持ち出すこともあった。“À tout à l’heure”は、家にいるのが申し訳ないくらい晴れた日に、家の庭で作り始めた。制作意欲に溢れていたから、あえて機材の数を制限して庭に持ち出した。12弦ギター、MPCサンプラー、マイク、そしてカセット・レコーダーだけをね。そしてプラスチックのじょうろとか、植木ばさみとか、庭にあった物をたたいてパーカッションにした。ギターの音のイメージは、ずっと頭の中にあったけど、環境を変えたことがこの曲の土台となって、そのあとスタジオで完成させたんだ。この曲のイントロを聴くと、あの陽の光や、庭の様子が浮かんでくる。まるであの瞬間を記録した写真のようにね。もちろん歌詞も、あの晴れた日の外の風景に影響されてる。
個人的に特に気に入っている“Dye The Water Green”は、雨の日に僕の家のレンガの物置で作り始めた。まわりの風景を変えたかったのと、屋根に当たる雨音をレコーディングしたくてね。考えていたギターのリフも、その環境で新しくレコーディングしてみた。どこか古びた感じの雰囲気を出したかった。もしスタジオにいたら、このアイディアは思いつかなかっただろうって感じたことを覚えてる。異なる環境に身を置くことは、感覚や演奏にも影響を与えて、多様性をもたらしてくれると思う。
Release Information
2013.05.02 on sale! Artist:Bibio(ビビオ) Title:Silver Wilkinson(シルバー・ウィルキンソン) Warp Records / Beat Records BRC-373 国内盤特典:ボーナス・トラック追加収録 ¥2,200(tax incl.) Track List
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