2021年6月4日(金)に開催されたWWWの10周年記念イベントで、BIMのバンドセット、Yogee New Wavesの2マンが実現した。チケットはもちろんソールドアウト。配信なしで行われた甘美な一夜の様子をライター・石角友香によるレポート、Ray Otabeの写真とともに振り返る。
Live Report:
WWW 10th Anniversary BIM × Yogee New Waves
久々に2マンライブの醍醐味を存分に堪能した。WWW 10th Anniversary企画のBIM(バンドセット)とYogee New Wavesだ。熱心なリスナーたちにとって、オープン当時から現在に至るWWW主催のライブは、生活と分かち難い存在だった時期がきっとあるだろう。
WWWのサイトから引用させてもらうと、「Yogee New Wavesは新世代アーティストにフォーカスしたイベント<NEWWW vol.1>への出演から、リリースパーティーやワンマンライブの開催、WWW Xオープニングシリーズ出演、BIMは所属するTHE OTOGIBANASHI’Sでのワンマンライブ、WWW Xのプレ・オープンイベントへの出演、ソロ名義でもワンマンライブ開催や多数の出演」とある。自分自身、Yogee New Wavesは2015年4月の<7inch『Fantasic Show/Climax Night』Release Party!!」>(オープニングアクトにnever young beach、ゲストが森は生きている)など、その後を予感する共演を目撃してきたし、THE OTOGIBANASHI’Sには2016年11月のWWW6周年のイベント(共演はD.A.N.、Campanella、STUTSら)で、従来のラップとは違う文脈に遭遇した記憶がある。すでにその頃からポスト・ジャンル的な交差は始まっており、最初の目撃者になりうる一つの場所がWWW主催イベントなんじゃないだろうか。
今回の2マンも音楽が示す時代の交差点を実感できるものだった。Yogee New Wavesの竹村郁哉(ボン)は、BIMが木村カエラとコラボした“ZIG ZAG feat.BIM”でギターを弾いているほか、現在のBIMバンドのメンバーでもある。BIMのライブメンバーには、お馴染みのdoooo(DJ)、DJ ZAIに竹村郁哉(Gt)、Shingo Suzuki(Ba/Ovall)、kanno So(Dr/BREIMEN)、村岡夏彦(Key)という、どのプレイヤーからも目が離せない布陣だ。加えて、Yogee New Wavesの角舘健悟がボーカルで、ボンがギターでVaVaの“星降る街角”(2019年)に参加している流れもある。THE OTOGIBANASHI’Sはもちろん、VaVaが手がけたサニーデイ・サービスの“Tokyo Sick feat.MARIA”のリミックスについても特筆すべきだろう。
さて、前置きが長くなってしまった。60sのアメリカンポップスやレゲエがBGMに流れる会場は、湿度100%の会場外とは別世界の趣き。先行はBIM。バンドが音を出した瞬間から、生音のバランスの良さにやられる。ジャケット着用のおめかしバージョンのBIMは“Cushion”を1バースキック、「調子どう?」とフロアに声をかけると、それぞれの立ち位置から手が上がり、拍手が起こる。小気味いいボッサ調のカッティングが聴こえると抑えきれない小さな歓声が上がる“Veranda”。バンド・アレンジでも緩急の抜き差しは計算されていて、BIMの叙情味のあるラップを邪魔しない。
「おしゃべり割と得意なんですけど、今日は曲をいっぱいやるってことで」と、音源ではkZmとダブルになっているバースをバリトンボイスで聴かせる“One Love”。裏拍のビートはそのままに、ギターリフと鍵盤でAOR寄りのムードさえ感じさせる。続く“想定内”もジャジーなピアノもハマってメロウだ。ファンクネスを感じる“Tokyo Motion”まで、ほぼ一気に5曲。これ、もう今のコンテンポラリーミュージックじゃないですか? 都市の音楽代表じゃないですか? 誰かに同意してもらいたくて堪らない気持ちになってしまった。
一転、パーソナルな新曲“吐露ノート”は元のトラックのイメージを生のリズムにも置換。素朴なような白昼夢のようなメロディとリゾーティーなギター。本当に思ってることは身も蓋もないことはない。BIMが信頼されているのはそのワードセンスと情景の切り取り方なんだと思った。“KIRARI Deck”、“BUDDY”が続くと、現代のジュブナイル小説に聴こえたりも。なるほど、そういう部分でYogee New Wavesと共振する部分があるのかも、と遅ればせながら気づく。生ピアノのリフが牽引する“Bonita”はもはやネオソウル。もちろんいい意味で、だ。
本番直前に買ったというハットをフロアに投げ、案の定、他にも「ジャケット〜!」「サングラス〜!」とリクエストされるが「(サングラスが)ないと誰かわかんないでしょ。タモさんスタイルだから」の一言に笑いながら納得。ラストに“WANTED”を置いたのも改めての意思表明に感じた。が、何よりブルージーな竹村のギターソロが映える曲だったからかもしれない。初めて体験したバンドセット、これはクセになりそうだ。
コロナ禍の2マンでは転換時も人の移動が少ない。立ち位置が確保できているせいもあるだろう。ちょっと不思議な光景ではあるけれど、習慣化した2マン・イベントとは違う空気が確実にある。
後攻はなんと、この日が今年初めてのライブだというYogee New Waves。暗転し、角舘と竹村のブライトなアルペジオが鳴り、おなじみのネオン管が灯ると一気にムードは夏。“Summer of Love”での幕開け。ひとつひとつの音が染み渡る。2曲目にはギター2本の絡みがユニークな新曲をセット。Yogee New Waves的解釈の新たなフォークミュージックと呼べそうな曲のタイトルは“You Make Me Smile Again”というそうだ。オチサビの転調もグッときた。
ダブルヘッダーの竹村のワウカッティングが輝く季節に誘う“Can You Feel it”の冒頭で、角舘が「今日はMCしないからジェットコースターだ。楽しんでください」と一言発すると、フロアも歓喜の拍手。彼のボーカルも有観客のライブが久しぶりとは思えない伸びの良さ。以前よりまっすぐ届いているぐらいだ。
ストロークのセッションから“Climax Night”のキックが入って、軽くどよめきが起こる。リフのあり方もどんどん更新され、ベースラインもグッと太くなったこの曲が明るい色気を増すのも当然で、これまでそんな印象はなかったのだが、どこかスライ&ザ・ファミリーストーンの“ファミリー・アフェア”っぽいタメやグルーヴを感じた。そしてまた新曲。往年の山下達郎を思わせるシュアなリフとカッティングが、洗練と演奏の熱量を同時に表現しているような感じ。Aメロに少し辛辣さを感じる歌詞が聴き取れたのだが、果たしていかに。
ギター2本のユニゾンも音の良さで幸せになれる“Fantasic Show”。いい曲を作り、磨き上げここまできた自信と、久しぶりのライブの高揚。クラップを促す角舘のスタイルがソウルマンばりの堂の入ったものだったのは新鮮な発見だった。いつまでもこのグルーヴに揺られていたい、水を得た魚はステージ上だけじゃなく、フロアも同様だ。
“Fantasic Show”に続き、“Ride on Wave”がスタート。その終盤には、角舘の「今日はありがとう、BIMくんありがとう。WWWにもありがとう、マスクして見てくれたみんなにもありがとう。こんな時代に会えたことが奇跡かもしれない〜♪」と節をつけたMCも。ゴージャスなショーの終わりのような丁寧なエンディングは魔法が解ける合図のようでもあったが、彼らの楽曲への愛を感じるアレンジでもあった。
アンコールの“How Do You Feel?”も含め、代替不可能なこのバンドのロマンとストイシズムに改めて酔った。45分の持ち時間を音楽そのもので満たした両者。お互いの関係性を言葉にするより、今は1曲でも多く演奏したいーーこの2マンの必然はそういうところだったんじゃないだろうか。ここにいた誰もが2021年のこの日を忘れないだろう。
Text by 石角友香
Photo by Ray Otabe
INFORMATION
2021.06.04(金)
OPEN 17:00 / START 18:00
LINE UP:BIM(BAND SET) / Yogee New Waves(AtoZ)
※BIM(BAND SET):DJ doooo / DJ ZAI / Gt. Fumiya Takemura(Yogee New Waves)/ Ba. Shingo Suzuki(Ovall)/ Dr. So Kanno(BREIMEN)/ Key. Natsuhiko Muraoka
Flyer Design:Toru Kase