彼女の名が世に知れ渡ることになったきっかけは、14歳のときにデジタル配信で発表したボン・イヴェールのカヴァー“Skinny Love”。哀しげなピアノの旋律に寄り添う凛とした歌声と、新人離れした表現力/アレンジメントが評判を呼び、全英シングルチャートで17位、BBCラジオ1のプレイリストにも取り上げられるなど、キャリア初のヒットを記録する。
Birdy – Skinny Love [Official Music Video]
ひとりのリスナーとして幅広い音楽に触れてきたバーディーは、他にも様々なアーティスト/バンドのカヴァーを残しており、フェニックス、フリート・フォクシーズ、ポスタル・サーヴィス、エックス・エックス、ザ・ナショナルなどの楽曲を自らのフィルターを通して再構築してきたが、それらを1枚にまとめたのがセルフタイトルの1st『Birdy』(2011年)だ。この作品は、オリジナルの“Without a Word”を除いてすべてカヴァー曲という、異例のデビュー・アルバムとなった。
『ファイヤー・ウィズイン』ジャケット
その後は2枚のライブ作品やEPをリリースし、ロンドン・パラリンピックの開会式でパフォーマンスを披露(アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズの“Bird Gerhl”を演奏)したかと思えば、映画『ハンガー・ゲーム』や『メリダと恐ろしの森』のサウンドトラックへ楽曲を提供して話題を振りまき、2013年には2ndアルバムとなる『ファイヤー・ウィズイン』を発表。前作とは一転、全編オリジナル・ソングで彩られ、マムフォード・アンド・サンズのベン・ラヴェットやワンリパブリックのライアン・テダーといったメロディメーカーも集結、事実上のデビュー・アルバムとも位置づけられる本作でバーディーは「カヴァー曲しかないシンデレラ・ガール」という自らのイメージを払拭することに成功したのだ。
最新作では着物姿も披露! その美貌と才能にファッション業界も釘付け
もうすでにお気づきかとは思うが、バーディーもまた冒頭で名を挙げたフィメール・アーティストたちに引けをとらない美貌の持ち主である。シンボリックなロングヘアーと、思わず吸い込まれそうな瞳、そして時おり覗かせるあどけない少女の横顔。当然ながらファッション業界も彼女のことを放っておくハズはなく、イタリアのブランド『レッドヴァレンティノ(RED VALENTINO)』がバーディーの楽曲“Winter”を2016年のS/Sキャンペーン・ソングに起用、さらにモデルとしてもキャスティングし、その艶やかなヴィジュアル広告はつい先月まで表参道駅の構内をジャックしていたので、読者の中にはチェック済みの人もいるだろう。
REDValentino Spring/Summer 2016 – AD Campaign
まさにスターダムを駆け上がりつつあるバーディーだが、最新作『ビューティフル・ライズ』のアートワークではなんと着物姿に挑戦しているのだから、これはもう事件。なんでもアーサー・ゴールデンの小説で2005年に映画化もされた『Memoirs of a Geisha(邦題:さゆり)』にインスパイアされたそうで、ジャケ写からアルバムのコンセプトに至るまで、「日本」が大きな影響源となっていることは間違いない(ブックレットには屏風画のデザインも!)。
「これは私の成人(マイ・カミング・エイジ)の記録なの。ここ数年で、本当にたくさんのことを学んだし、―いいことも悪いこともーたくさん経験した。それらすべてがこのアルバムを書くためのインスピレーションになったの。楽曲制作からアートワークに至るまで、今までで一番自信をもって、そして誇りをもってつくることができた作品。制作にあたってはものすごく悩んだけど、それに打ち勝って、暗闇から光を見出したような感覚に近いのかもしれないわ。」
本人がそう明かすように、今作はバーディーにとって10代最後のアルバム(5月15日に20歳の誕生日を迎える)。デビュー作より彼女をプロデュースしてきたジム・アビス(アークティック・モンキーズ、アデル、カサビアン他)を筆頭に、売れっ子のスティーヴ・マック(シャキーラ、デミ・ロヴァート他)、ティム・ブラン&ロイ・カー(ロンドン・グラマー、ブロック・パーティー他)といった精鋭たちとタッグを組み、かつてなくバラエティに富んだサウンドと、スケール感たっぷりの歌世界を堪能させてくれる傑作だ。
特にスティーヴと共作したリード・シングルの“Keeping Your Head Up”は、フローレンス・アンド・ザ・マシーンやフォクシーズのファンにもドンズバの、パワフルで疾走感あふれるアンセム。初期から彼女を追っているリスナーであれば、一皮むけたその歌唱力/表現力にも驚くだろう。
Birdy – Keeping Your Head Up [Official]
才色兼備なだけでなく、いち音楽リスナーとしても抜群のセンスを誇り、しかも日本の文化に興味アリ……と、我々日本の音楽ファン(≒美女SSWファン)が好きにならずにいられない新時代の歌姫、バーディー。未だに来日公演が実現していないのが不思議なくらいだが、フローレンス・アンド・ザ・マシーンとアデルに続いて、いつの日か<グラストンベリー>のヘッドライナーを務めるような存在になってほしいと切に願います。