パートナーデーの2024年4月14日(日)、性感染症をテーマに予防の大切さや検査の重要性への理解を深める音楽フェス『BLUE HANDS TOKYO』が渋谷・MIYASHITA PARK(宮下パーク)芝生ひろばにて無料開催される。カラダや性にまつわる我慢やモヤモヤを、ひとつずつ「しかたなくない」に変えていく社会実装プロジェクト『#しかたなくない』と、オンラインピル処方サービス「スマルナ」や性感染症検査キットなどを提供する株式会社ネクイノが企画した『BLUE HANDS TOKYO』は、自分とパートナーとの“安心できる関係”について考えるきっかけづくりを目的としている。

『BLUE HANDS TOKYO』に参加するのは、同フェスの取り組みに賛同する総勢6組のアーティスト。今回はその中の1人、東京を拠点に活動するクィア・ポップシンガーのAisho Nakajima(以下、Aisho)にインタビュー。日本でゲイとして恋愛することのハードルや、19歳から約2年間をオーストラリアで過ごしたからこそ感じる日本の「変えたい現状」について、たっぷり話してもらった。

本記事には性的なトピックやエピソードが含まれます。
苦手に感じられる方は、予めご留意ください。

INTERVIEW:Aisho Nakajima

「当たり前は人それぞれだから」。Aisho Nakajimaが実現させたい平等な恋愛とセックス|BLUE HANDS TOKYO interview240412-bluehandstokyo-aisho-nakajima3

「傷つくのはめっちゃ怖い。
けど、学べることが多いから恋愛したい」

──まずAishoさんの恋愛観について伺いたいです。Aishoさんにとって、恋愛ってどんなものですか?

“気持ち悪くなるくらいドキドキ”するのが好きです。僕は普段から色々なことを考えすぎちゃう性格なのですが、恋愛でもそれは変わらず。「相手と何を話そう?」「こういう場面ではどう行動しよう?」って、すぐ脳内シミュレーションしちゃうんですけど、恋愛はそれぐらい相手にのめり込むのが楽しいですね。

──恋愛にのめり込むことに怖さは感じないですか?

実は音楽の仕事を始めてから“大恋愛”みたいなものをしていないので、正直今恋愛したら自分がどうなってしまうのかわからないし、仕事に影響が出てしまうんじゃないかと、少しだけ怖いです。でも、恋愛にのめり込むこと自体に抵抗はないですね。好きになったら、あとは身を任せちゃうって感じかな。

──仕事に支障が出ることを理由に恋愛に前向きになれない方も多いと思うのですが、「身を任せる」という考え方ができるのはなぜでしょうか?

うーん、色々な経験をしたいからかな。僕、恋愛から学ぶことってすごくたくさんあると思っているんです。恋愛すると相手と真剣に向き合うから、相手を通して自分のことをもっと知れるし、人の扱い方も学べると思う。もちろん「傷つきたくない」っていう気持ちもあるけど、同時に「傷つかないと自分のことを知れなくない?」とも思うんです。

「当たり前は人それぞれだから」。Aisho Nakajimaが実現させたい平等な恋愛とセックス|BLUE HANDS TOKYO interview240412-bluehandstokyo-aisho-nakajima1

それに、この先僕に彼氏ができたとしても、その人と一生を共にするかどうかってわからないですよね。なら、無駄なのかと言ったらそうじゃない。仮に短い交際期間だったとしても、恋愛から学べることが多いから、僕は恋愛したいんだと思います。傷つきたくないっていう気持ちも、マジでわかるけどね!

──では、これまで恋愛で傷ついたときはどうやって乗り越えて来ましたか?

僕は友だちにめっちゃ相談しますね。「なんて返信したらいい?」みたいな細かいことまで逐一相談して、とにかく友だちを巻き込む(笑)。過去の恋愛では大好きな人に離れられることが怖くて、パートナーに素直な気持ちを伝えられないこともありました。「言えない」を繰り返して、結局最後に爆発しちゃうみたいな。そういう経験を経て、コミュニケーションが何より大事だなって学んだんです。

──コミュニケーションを取るうえで意識していることはありますか?

相手の気持ちを考えることです。僕、“人によって当たり前は違う”と思っていて。これは恋愛以外でもそうなのですが、「自分が聞かれたくない質問はしない」「自分がされて嫌なことはしない」というのを意識しています。

「セックスは2人で1つになるもの」
自己主張は“小さなNO”から始めてみる

──続いてパーソナルな質問になりますが、Aishoさんがセックスする上で意識していることを答えられる範囲で教えていただけますか?

これもさっきと同じく、コミュニケーションが大事だと思います。セックスには色んな楽しみ方があるから、僕は一夜限りの関係も肯定派なのですが、相手は誰でもいいというわけではなくて。過去に「会ってすぐにセックスをしてバイバイする」みたいな経験もあったのですが、僕は一言二言話せば相手との相性ってわかる気がするんです。セックスをポジティブに楽しむためにも、そういう自分の感覚を、みんなにも大事にしてほしいなと思います。

──なかにはセックス前や最中に「NO」を言えないという人もいますよね。

「NO」を言えないとか、「オーガズムに達したフリをする」とかってよく聞きますよね。でも、それってめっちゃ辛いことだなと思います……。それに何より、平等じゃないですよね。僕は逆に“「NO」しか言わない”くらい自己主張をするのですが、それは前提として「セックスは2人で1つになるもの」だって、認識しているからかもしれません。自分が嫌なことに「NO」って言わないと、相手が「1人で楽しんでいる」だけじゃないですか。それは本当に楽しいセックスとは言えない気がします。

「当たり前は人それぞれだから」。Aisho Nakajimaが実現させたい平等な恋愛とセックス|BLUE HANDS TOKYO interview240412-bluehandstokyo-aisho-nakajima2

──「NO」を言えない人はどうしたらいいでしょうか?

まずは、「セックスは2人で1つになるもの」という認識を持つこと。それでも「NO」を言う勇気が出ない人は、「小さなNO」から始めてみるのが良いんじゃないかな。あと、同性・異性関係なく、信頼できる友だち同士でもっとセックスの話をするのも大事だと思います。友だちとセックスの話をすると、会話を通して“違い”を知れたり、新しいことに興味が湧いたりすると思うんです。それによって、自分のセックスに自信が持てると思います。僕も友だち同士でセックスの話をすることで、学べたことがたくさんありますね。

──Aishoさんは「性にまつわる話」もオープンに友だち同士でお話しされるんですね。

そうですね。僕自身は、19歳から21歳までオーストラリアに住んでいて、そのときに「性にまつわる話」をオープンにすることに抵抗がなくなった気がします。僕の家から徒歩5分くらいのところにシドニーで最大のゲイクラブがあって、そこに毎週末遊びに行くなかで、自分のセクシャリティを隠さずにオープンにしている人たちに出会って、僕も自分がゲイであることを素直に受け入れられたし、セックスという行為自体に対する考え方も変わりましたね。

──国やそのカルチャーによって、セックスにおける考え方も異なりますよね。Aishoさんがオーストラリアで感じた新鮮さはどんなことでしたか?

一概には言えないですが、オーストラリアで経験したセックスは「相手を通して自分を知れる」、コミュニケーション手段の一つのようなものでした。対して日本で経験するセックスは「アダルトビデオ通りに進める」、体で感じ合う行為という感じかな。もちろん日本でのセックスで良い思い出もたくさんありますけど、受けてきた性教育が全然違うんだろうな、というのを実感しました。

ほかにも、僕がゲイ・カルチャーと関わりが深かったのもあるけど、オーストラリアでは3か月に1回性病検査を受けるみたいに検査が習慣づいている人が多かったり、HIV感染のリスクを減らすPrEP(プレップ・※)が9か月間無料だったりと、セックスを前向きに楽しむための考え方がきちんと教育されている印象を受けました。

※PrEP(プレップ):セックスをする前から抗HIV薬を服用することにより、
HIV感染のリスクを減らすHIV/エイズ予防方法
参考:PrEP in JAPAN

──性病検査を受けることが習慣づいているのは素敵ですね。Aishoさんは、検査を受けたことはありますか?

はい。僕は日本でもオーストラリアでも受けたことがあります。少しでも心配なことがあったら、検査に行くようにしていますね。初めて受けたのは日本で、「罹患していたらどうしよう」ってすごく怖かったけど、勇気を出して病院に行ったのを覚えています。

──『BLUE HANDS TOKYO』では、「性感染症検査キット」を無料配布します。これは自宅で専用キットに尿を採取して検体を郵送すれば検査することができる、検査のハードルを下げられるキットです。

すごい。全部もらってもいいですか(笑)? 実は、日本だと男性は性病検査できるところがあまり多くなくて、わざわざ遠出しないといけないこともあって。「検査しなきゃ」と思っても時間がなくて行けないときもあるので、家にいながら検査できるのは素晴らしいサービスだと思います。最近検査できていないので、これを使ってみます。

「当たり前は人それぞれだから」。Aisho Nakajimaが実現させたい平等な恋愛とセックス|BLUE HANDS TOKYO interview240412-bluehandstokyo-aisho-nakajima4
専用キットで自宅で性感染症検査ができる「smaluna check(スマルナチェック)」

──最後に、『BLUE HANDS TOKYO』のスローガン「安心は、ひとりじゃつくれない。」にちなんで、読者が安心・安全な関係やセックスを実現させるためのアドバイスをお願いします。

まず性的マイノリティのみんなに伝えたいのは、「恥ずかしくないよ」ってこと。日本には礼儀正しさとか気遣いができるとか良いところがたくさんあるけど、それが裏目に出て「自分のセクシャリティに素直になれない」という人も多い気がします。もちろん、カミングアウトする・しないは個人の自由だけど、周りに気を遣いすぎるあまり“不自由な自分”にならないでほしい。僕はオーストラリアで“心地よい自分”を見つけられたお陰で、今があります。だからみんなにも、ストレスのない自分を築いてほしいなって思います。

繰り返しになるけど、ストレスのない自分や安心・安全なセックスを実現させるには、コミュニケーションが大切。「この人の前だと楽な自分でいられる」っていう友だちを1人でもいいから探して、心の許せる範囲でパーソナルな会話をしていくのが良いと思います。自分の身体だから自分の好きなことをしてほしいし、自分を大切にしてほしいなって思います。

Text:那須凪瑳
Photo:岩渕一輝
Edit:Kazuki Hyodo

ARTIST INFORMATION

「当たり前は人それぞれだから」。Aisho Nakajimaが実現させたい平等な恋愛とセックス|BLUE HANDS TOKYO interview240412-bluehandstokyo-aisho-nakajima3

Aisho Nakajima

19歳からオーストラリアに移住し、オープンで多様なカルチャーの中で感性を育み、帰国後 2020年から東京で音楽活動をスタートさせた。圧倒的な歌唱力に加え、メイクやファッションにおいても類稀なる才能を持 ち、これまでにVogue Japan、NYLON JAPAN、HIGHSNOBIETY JAPAN、 UNLIRICE Magazine、等でも取り上げられ、多くの著名人からの支持も厚 く、コラボ楽曲リリースしている。シンガー /ソングライター/パフォーマー/ モデルとして、自身の世界観を表現していくクィア・アイコン。

EVENT INFORMATION

「当たり前は人それぞれだから」。Aisho Nakajimaが実現させたい平等な恋愛とセックス|BLUE HANDS TOKYO interview240412-bluehandstokyo-aisho-nakajima

『BLUE HANDS TOKYO』

開催日:2024年4月14日(日)
開催時間:12:00 開場 / 12:30 開演 / 終了時間:18:30
開催場所:渋谷・宮下パーク芝生ひろば
入場:無料(自由に出入り可能)
主催:smaluna check(株式会社ネクイノ)

ABOUT「#しかたなくない」プロジェクト

カラダや生理、性のこと。あるいは学校、仕事、社会のこと。いつの間にか積み重なった心の中の「しかたない」が、人生にブレーキをかけている。誰もが自分らしく前向きに生きるため、一人ひとりの「しかたない」に目を向けて、より風通しのよい社会に向けて、様々なアクションを展開するソーシャルプロジェクト、それが「#しかたなくない」です。オンラインのピル処方サービス「スマルナ」を展開する株式会社ネクイノが、一般社団法人渋谷未来デザインとともに2021年12月始動。
「#しかたなくない」公式サイト「#しかたなくない」公式 X