ボノボ(Bonobo)初となるバンドセットでの単独来日ツアーから東京公演の最速ライブレポートが到着した。

Live Report:ボノボ来日公演
2018.02.15(木)@EX シアター 六本木

過剰を排すること。あるいはしすぎないこと。ボノボことサイモン・グリーンは最新作『Migration』リリース時のインタビューにおいて、「自分で敢えて何か制約をもうけようとすることはないよ」と筆者に語ってくれたが、仮に彼に制約があるとするならば、何かをしすぎないことではないだろうか。牽強付会を承知でいえば、それは彼に内在する無意識の美学であるように思える。その美学は確かに、彼のレコードにおける素直で美しいメロディや軽快なビートにも表れている。だが、彼の“しすぎなさ”が最も顕著に感じられるのがライヴ・パフォーマンスなのだ。それは、昨年の<フジロック>での入場規制のかかったホワイト・ステージにおけるパフォーマンスから約半年を経ての、ヴォーカル、ギター、ドラム、キーボードに3人のホーン・セクションも加えたほぼ完全体ともいえるバンド編成での今回の単独公演でもはっきりと表れていたように思う。

ボノボのライブ・パフォーマンスで特徴的なのは派手な曲と静謐な曲を自由連想のように繋ぎながら、徐々に昂揚感をもたらしてくことにある。そして、それがカタルシスに至るか至らないかのギリギリのところで抑えられているのがまた絶妙なのだ。序盤での穏やかな“Break Apart”に続く“Towers”は、曲後半での生ドラムによる疾走感のあるアレンジによって、より肉体性を宿した曲へと変貌していたが、次の柔らかいビートと煌びやかなウワモノの均衡が美しい“Kiara”にシームレスに繋げることによって、静から動へ、動から静への移ろいを緻密に表現していた。そして圧巻だったのが、アンコール前の、ボノボがリミックスしたキアスモスの“Blurred”から小気味良い“Samurai”を経ての“Kerala”に至る流れだ。今回はフジロックのときと比べると身体性のあるダンサブルなアレンジが増えていたように思えるが、前述の一連の流れはそうしたアレンジを施しつつも、決して骨太なビートに依存することなく、素朴な音を一つひとつ重ねることで生み出されるサウンド・テクスチャーによって、曲のうねりを表現していたのが実に見事だった。

間違いなく今回のボノボのライブ・パフォーマンスも、壮大でシンフォニックであった。だがそのシンフォニックさの礎となっているのは、甘美でメランコリックさも感じさせるメロディでもなければ、ハウスや2ステップ、ブレイクビーツから影響を受けたような躍動感みなぎるビートでもない。それは生楽器とエレクトロニクス、更にはサンプリングによって綿密に作り込まれたサウンド・プロダクションにこそある。そして、その優れたプロダクションは彼の音楽に対する真摯な姿勢の表れであり、ひいてはまだ聴いたことのないサウンドを作るという意思なのだ。そんな彼の純粋な音楽への向き合い方も少なからず感じさせる一夜でもあった。

text by 坂本哲哉

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photo by Masanori Naruse