パンク・ムーブメントの刺激

BOØWYが結成された1980年の直前、イギリスでは彼らと同じくグラム・ロックにルーツの一端を持つ新たなムーブメントが生まれていました。それがパンク・ロックです。セックス・ピストルズが1977年にアルバム『勝手にしやがれ』でセンセーションを巻き起こし、一夜にしてシーンを塗り替えたパンクのムーブメントは、同時代的な刺激をBOØWYのメンバーにもたらしました。特にBOØWYのデビュー・アルバム『MORAL』は、“ON MY BEAT”や“SCHOOL OUT”を筆頭に、反抗的なメッセージ性の強い歌詞と疾走感のあるサウンドにパンクからの影響が伺えます。

また、デビュー当時、BOØWYは氷室京介、布袋寅泰、松井恒松(現・常松)、高橋まことの4人だけでなく、サックス奏者を含む6人編成でした。このホーンを含む構成は、初期のロキシー・ミュージックと同様に、パンク時代にケルト音楽を取り入れ、異質の存在感を放っていたデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズからの影響も窺えます。ちなみに、BOØWYのファースト・シングルとして85年にリリースされた“ホンキー・トンキー・クレイジー”は、デキシーズ最大のヒット曲“カモン・アイリーン”のメロディを逆になぞって製作されたという逸話もあります。

衝動的なパンク・サウンドから、より多様なニューウェイヴの実験へ

その徹底したシンプルさと過激なセンセーショナリズム故に、パンク・ムーブメント自体は短い期間で収束。しかし、パンクの登場によって火が付いた若いバンド達の台頭は、より音楽的に幅広く多様なムーブメント、ポストパンク/ニューウェイヴとして80年代以降に花開いていくことに。その潮流と歩みを合わせるように、BOØWYも衝動的なパンク・サウンドから、より多様なニューウェイヴの実験へと乗り出していきます。

スカやレゲエを取り入れた“THIS MOMENT”等の楽曲には、スペシャルズを筆頭とする2トーン・スカ勢やクラッシュ。ゲート・リヴァーヴを使用した引き締まったドラム・サウンドとファンク・ビートには、ウルトラヴォックスやデペッシュ・モードといった耽美系エレクトロポップ。ギターを高速カッティングして、打楽器のように打ち鳴らす奏法には、ギャング・オブ・フォー等々、その影響源はどれだけ語っても語り尽くせないほど多種多様。そのため、ここでは、その中でもBOØWYの音楽全般に影響していると思しき2組のニューウェイヴ・アクトを特筆しておきます。

The Specials – Ghost Town

XTC、エルヴィス・コステロの影響も?

まず一組目は、才人アンディ・パートリッジ率いるXTC。78年のデビューから捻くれたポップ・センスで一目置かれ、ニューウェイヴ時代のみならず、ブリットポップや、スピッツ、奥田民生といった日本のロック・ミュージシャンにも影響力絶大なバンドですが、BOØWYも活動全体を通して大きなインスピレーションを受けています。特に80年発表『ブラック・シー』までの初期作品における、アンディ・パートリッジのギター奏法に布袋寅泰が受けた影響はBOØWYの諸作に感じられます。

TOPPOP: XTC – Senses Working Overtime

もう一組は、氷室京介がデヴィッド・ボウイやプリンスと並んで名前を挙げたこともある、エルヴィス・コステロ。こちらもパンクからニューウェイヴの時代に登場したアーティストで、初期はパンキッシュなサウンドで人気を博しましたが、彼の真骨頂はその類まれなソングライティング・センスと深みのある歌唱にありました。ここ日本でも“アリソン”や“ヴェロニカ”(ポール・マッカートニーとの共作)といった楽曲でよく知られている彼の、パンクの衝動性を超えた普遍的な歌の追求は、BOØWYが次第にメロディを重視し国民的なバンドとなっていく過程で重要な参照点の一つになっているように思われます。

80年代ポップ/ロックの王道的な要素が加わる

佐久間正英がプロデュースを担当した1985年リリースの3rd『BOØWY』以降、BOØWYは初期の尖ったサウンドから、次第に日本の歌謡曲にも通じるウェットなメロディとプロダクションに移行。それと同時に、彼らの音楽にはブリティッシュ・ロックだけではなく、アメリカ的なエッセンスも見え始めます。例えば、“DANCING IN THE PLEASURE LAND”はタイトルからしてブルース・スプリングスティーンの“ダンシング・イン・ザ・ダーク”を思わせ、サウンド自体も『ボーン・イン・ザ・USA』以降のスプリングスティーンを髣髴させるダンサブルな80年代ロック風。その他、85年に公開され大ヒットを記録した映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主題歌“パワー・オブ・ラヴ”を歌ったヒューイ・ルイス&ザ・ルイス、83年にデビューし“ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン”や“タイム・アフター・タイム”等の名曲を生んだシンディ・ローパー等々。当時のヒットメイカーを思わせる、80年代ポップ/ロックの王道的な要素がBOØWYの持つスケールをさらに拡大していき、それに伴って彼らの人気は不動のものとなっていったと言えそうです。

Bruce Springsteen – Born in the U.S.A.

現代においても色褪せないBOØWYの残したもの

シングル7枚、アルバム6作、活動期間6年。長く活動を続ける長寿のバンドが増えた昨今の邦楽ロック・シーンと比べると、BOØWYの活動期間は余りに短く、残された楽曲・作品も多いとは言えません。ただ、それらの一つひとつを丹念に聴いていくと、彼らが短い期間で数えきれないほどの海外アーティストから刺激を受け、そのインスピレーションを楽曲に様々な形で反映していたことが分かるはずです。彼らの登場から35年経ち、日本のロック・シーンは今では他のどの国にも似ていない独自のカルチャーとして発展しています。

ただ、その始祖であるBOØWYの音楽は、80年代当時、間違いなくイギリス・アメリカ・ヨーロッパの最先端サウンドと共振していました。本稿に挙げたアーティストを手始めに、BOØWYと海外の音楽の接点を深く掘り下げていけば、彼らの音楽の楽しみ方・聴こえ方も変わり、また違った光景が目の前に広がるに違いありません。

BOØWY 『“GIGS” CASE OF BOØWY – THE ORIGINALS』

RELEASE INFORMATION

『”GIGS” CASE OF BOØWY -THE ORIGINAL-』

“GIGS” CASE OF BOØWYを現在に再現。日本ロック界の伝説、BOØWYと海外音楽シーンの接点 music_boowy_2-700x1340
[amazonjs asin=”B07216SHMF” locale=”JP” title=””GIGS” CASE OF BOφWY -THE ORIGINAL-(完全限定盤)(4CD+Tシャツ+ステッカー)”]
UPCY-9704【完全限定盤スペシャルボックス】
【CD4枚組+Tシャツ+ステッカー】
1987年7月31日神戸ポートピア・ワールド記念ホール
1987年8月7日 横浜文化体育館
全78曲を収録した完全限定盤

『”GIGS” CASE OF BOØWY at Kobe』

“GIGS” CASE OF BOØWYを現在に再現。日本ロック界の伝説、BOØWYと海外音楽シーンの接点 music_boowy_3-700x692
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UPCY-7336/7
1987年7月31日
神戸ポートピア・ワールド記念ホールにて収録された全39曲(CD2枚組)

『”GIGS” CASE OF BOØWY at Yokohama』

“GIGS” CASE OF BOØWYを現在に再現。日本ロック界の伝説、BOØWYと海外音楽シーンの接点 music_boowy_4-700x692
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UPCY-7338/9
1987年8月7日
横浜文化体育館にて収録された全39曲(CD2枚組)

収録曲目 (神戸、横浜ともにセットリストは同じ)
DISC 1
01. INTRODUCTION
02. IMAGE DOWN
03. BABY ACTION
04. RATS
05. MORAL
06. GIVE IT TO ME
07. “16”
08. THIS MOMENT
09. わがままジュリエット
10. BAD FEELING
11. LIKE A CHILD
12. OH! MY JULLY PartI
13. WORKING MAN
14. B・BLUE
15. TEENAGE EMOTION
16. LONDON GAME
17. NO.NEW YORK
18. DANCING IN THE PLEASURE LAND
19. ROUGE OF GRAY
20. RUNAWAY TRAIN

DISC 2
01. B・E・L・I・E・V・E
02. CLOUDY HEART
03. INSTANT LOVE
04. FUNNY-BOY
05. MY HONEY
06. LET’S THINK
07. 1994 -LABEL OF COMPLEX-
08. PLASTIC BOMB
09. MARIONETTE
10. RENDEZ-VOUS
11. SUPER-CALIFRAGILISTIC-EXPIARI-DOCIOUS
12. ハイウェイに乗る前に
13. JUSTY
14. ホンキー・トンキー・クレイジー
15. DREAMIN’
16. BEAT SWEET
17. BLUE VACATION
18. ONLY YOU
19. ON MY BEAT

オフィシャルサイト

text by 青山晃大