Brasstracksが新たな扉を開く『Golden Ticket』を手に入れるまで

CDリリースなしでグラミー賞の最優秀新人賞/最優秀ラップアルバム賞に選ばれたChance The Rapper(チャンス・ザ・ラッパー)の3枚目のミックステープ『Coloring Book』(2016年)。そのリード曲のひとつとして同賞で最優秀ラップパフォーマンス賞を受賞した“No Problem”のプロデューサーであり、トランペット/ドラムを中心にお互いがマルチプレイヤーとして様々な楽器を担当する音楽ユニット・ブラストラックス(Brasstracks)。彼らが最新アルバム『Golden Ticket』を完成させた。

この作品では、ジャズ、ソウル、R&B、ファンク、エレクトロなどを自由に横断する持ち前のクロスオーバー性を洗練させながら、コモン(Common)やロバート・グラスパー(Robert Glasper)、サム・ヘンショウ(Samm Henshaw)、ファザービュード(Fatherdude)など多様なゲストを迎え、過去以上に生演奏の魅力を追求している。アルバム完成までの過程やこれまでの活動について、2人に聞いた。

インタビュー|Brasstracksが新たな扉を開く『Golden Ticket』を手に入れるまで music_brasstracks_02

Inrerview:Brasstracks

――新型コロナウイルス禍のこの時期、2人はどんなふうに過ごしていますか? 今回の出来事は、音楽の魅力やライブの魅力などを改めて見つめ直すような機会にもなっているんじゃないでしょうか。 

アイヴァン・ジャクソン(Trumpet) コロナの状況で音楽に関して再発見したのは、「締め切りはそこまで重要じゃない」ということ(笑)。

コナー・レイン(Dr.) それ、マジでそうだな。音楽の魅力は、身体の中で感じられるヴァイブレーション。音楽ってびっくりするほど癒しになるだろ? 自分が悲しい時に音楽を聴いてどんな気持ちになるか想像してみて。音楽を聴いたあとって少し気持ちが楽になる。

アイヴァン あと、音楽だけが実際の世界共通語だと思うんだ。音楽を通して様々な人々とコミュニケーションがとれる。音楽の中では、言葉の壁というものが存在しないからね。

――もともと音楽にのめり込むことになったきかっけを教えてください。 

アイヴァン ジャズの世界では、とにかく楽器が上手いこと、楽器のことを熟知していることが重要になる。もし君がジャズ・ミュージシャンでジャズのシーンにいるとしたら、君がしたいことはただひとつ。それは「より上手くなること」。それがモチベーションになって、勢いが止まらなかった。当時は若かったから特にね。大人になって自分たちが何を求めているかを判断するようになるまでは、ただがむしゃらに演奏する日々で、自然と音楽にのめりこんでいったんだ。

コナー 2歳の時に初めてドラムキットを買ってもらった時のフィーリングを覚えてる。まだ子供だったから、自分にはドラムキットしかなかったし、すごく興奮した。だから、ただひたすらそれで遊んでいたんだよ。

――その後、2人はManhattan School of Musicで出会ったそうですが、一緒に音楽をつくりたいと思ったのは、お互いにどんな魅力を感じたからなのでしょう? 

アイヴァン 俺たち2人ともサウンドを重ねるのが好きだし、その重ね方がすごく似ていたんだよね。最初に音楽を一緒につくった時からそれは感じた。今も一緒に音楽を作る時は自分たちが取り入れたいものを取り入れるし、2人ともがひとつだけでなく複数のことを考えている。その全てを音楽に取り込もうとするのが俺たちなんだ。だから、俺たちの音楽は良くなっていく一方だと思う。最初の作品も気に入っているけど、今振り返ると自分たちがそこからどれだけ遠くに来たかが見える。コナーも俺もテイストの幅がかなり広がったし、その全てを混ぜて曲の中に落とし込むわけだから、今作の曲の方が幅広いのは当然。2人がそれぞれに成長して、それぞれの異なる影響やテイストをサウンドに取り込もうとするから、音楽がどんどん面白くなるんだ。コナーと一緒に音楽を作りたいと思った一番の理由は、いい友達で、クールな奴で、俺も作業してみたい他のプロデューサーと共演してるのがうらやましいから(笑)。

コナー 俺も同じ。その人がディープなミュージシャンかっていうのは見ればわかる。そういう人を見つけたら、もちろん一緒に仕事がしたいと思うよね。

――では、ブラストラックスとして音楽をつくるときに「大切にしていること」「これだけはしないこと」というと?

コナー 大切なのは、自分たち自身が気持ち良くなれること。

アイヴァン ルールはそれだけ。絶対にしないのはハードなドラッグ(笑)。それは曲作りだけじゃなくてどの場面でもそうだな(笑)。

コナー  これだけはしないことって、答えるとキリがないと思う。俺が絶対にしないことって限りなくあるからさ(笑)。

アイヴァン わかった! 俺たちがしないことは2つある。ひとつ目はコナーから学んだことで、レコーディングをしすぎないこと。あんまり考えすぎないで、感じるがままに演奏しているほうが良いグルーヴが生まれるんだ。色々そこに付け足して、変に情報量を増やさないほうがいい。これは3年間コナーと作業して彼のドラムを見てきて学んだ中でも一番大きいことのひとつだと思う。より多くの人々に繋がりを感じてほしければ、彼らにもスペースを与えないといけないしね。色々と詰め込みすぎてその余地をあたえないのはよくない。自然が一番なんだ。

活動を開始してからずっと、俺たちは音楽の旅の中で吸収できるものを全て吸収してきた。今回のアルバムには、それが全て映し出されているんだ。ダンストラックもあればもっとジャズっぽい曲もあるし、ファンクもソウルも入ってる。そういた様々な要素が繋がりうるというのを、演奏したり他のミュージシャンと共演したりして活動しながら学んできたんだ。R&B、ダンス、ソウル、その全てを繋げることができるのはライブ・ミュージシャンたち。3人でも4人でも、もしくは10人でも、ミュージシャンたちが一緒に演奏することから生まれるオーガニックなフィーリングが様々な音楽を繋げ、音楽の可能性を広げてくれるということを実感しているよ。

――では、最新アルバム『Golden Ticket』についての話を聞かせてください。この作品は、いつ頃から形にしはじめたものだったんですか。また、そのときにアルバムの方向性やテーマについて考えていたことがあったら、教えてもらえますか?

アイヴァン 作業をしていた期間は多分合わせて2年くらいだけど、真剣にアルバム制作として動き出してから完成するまでは多分1年くらいじゃないかな。きっかけは自分たちにもわからない。というのも、俺たちは常に音楽を作っているから、トラックの中には2年前につくられたものもあったりしてね。でも、アルバムという形にしていくのを意識し始めたのは2019年の3月。アルバムを意識し始めたのも、これといった理由はなかった。俺たちの場合、音楽を作るのに特別なモチベーションみたいなものは特にないんだよ。自然の流れなんだよね。なぜ、どのようにして作りはじめたのかっていうのが、俺たちにとっては一番難しい質問なんだ(笑)。

コナー 音楽は常に作っているから、それをEPにするか、シングルにするか、アルバムにするか、どのプロジェクトにするかだけの違い。フルレングスをつくるとなると、それはEPやシングルとはまた違ってくる。

アイヴァン 作った音楽をどういう形で作品にするかはその時のムードによるんだ(笑)。たとえば、アルバムの前にリリースした『Before We Go』は「Before we go make an album」 (=アルバム作り始める前のプロジェクト)という意味だった。だから、あのプロジェクトが仕上がったところで、「よし! いよいよアルバムを作るぞ!」っていうムードになったんだ。アルバムの内容は、そのアルバムをつくる時に自分たちが何にハマっているかで変わってくる。その時聴いている音楽たちが共存するスペースを作ることが、アルバムのコンセプトになるんだ。コナーと俺がアルバムを作るにあたって何よりも最初に実行したのはディスカッション。その時の自分たちがどの位置にいるのかを話し合った。そのディスカッションの中で当時の俺たちは70年代の音楽を沢山聴いていることがわかって、お互いが刺激を受けている曲のプレイリストを作り、そのサウンドの数々を自分たちのやり方でどう表現できるかを考えた。ソウル・ミュージック、70年代のR&B、スティービー・ワンダー(Stevie Wonder)。それを全部重ねて、俺とコナーのダイアグラムを作っていった感じだよ。

――過去の作品ではヒップホップ的なビートを使ったり、ホーンを重ねて独特のプロダクションを生み出したりする曲も多かったと思うのですが、今回の新作ではどちらかというと生演奏の魅力に重きを置いているような雰囲気を感じますね。

コナー そう。今回は、アルバム制作を始めた時点で友達や他のミュージシャン達とかなりの数のセッションをやった。セッションのためにこれまで以上に人々を部屋に招いたのは新しい経験だったね。ベース、ドラム、ギター、ピアノ。最初からバンドとして曲を構築していったんだ。今回は、コンピューターだけでなく、スタジオでも多くの時間を費やした。それは今回のアルバムの大きな部分だね。

アイヴァン ミュージシャンたちに声をかける前の時点でのプロダクション作業が前回よりも断然少なかった。アイディアは、ライブスタジオでミュージシャンたちと出し合ったんだ。参加してくれた人たちは、素晴らしいミュージシャンか、俺たちの友人。基準はその2つだよ。今回はこれまでよりも予算が少し多かった。でもだからといってクレイジーなミュージックビデオを作りたいわけでもアートワークをデザインしたいわけでもなかったから(笑)、その代わりに出来るだけ沢山のミュージシャンにレコードに参加してもらうことにしたんだ。そのためにスタジオもフォックス・スタジオにしたし、それは新しい試みだったね。そのおかげで、ブラストラックスに関わるミュージシャンのコミュニティを作ることができたと思う。それにはすごく感謝してるんだ。

――ロバート・グラスパー(以下、ロバート)との“Disco Break”でも、曲の最後に入っている笑い声などから和気あいあいとしたレコーディングの風景が伝わってくるようでした。

コナー あのセッションはアルバムのために計画されたものじゃなくて、ロバートと共演することが目的のセッションだった。最高だったね。彼って面白い人でさ、常にジョークを言って笑わせてくれてた。場所はフォックス・スタジオ。

アイヴァン 3時間のセッションで、始まってから2時間45分はただ会話をしてた。で、残り15分で「そろそろ何かプレイしたほうがいいよな?」ってロバートが言ってきて、「たしかに」って答えたんだ(笑)。それからジャムが始まると、その15分で4つのアイディアが生まれて、それが3つのレコードに収録された。“Improv #1”と“Improv #2”と“Disco Breaks”は、全部同じセッションで出来上がったんだ。

――タイトル曲の“Golden Ticket”にはマセーゴ(Masego)に加えてコモンも参加しています。この曲についても、レコーディング時のことを教えてもらえると嬉しいです。

アイヴァン この曲のコーラスは、全部マセーゴが書いたんだ。普段だったら俺とコナーも歌詞を書く作業に関わるんだけど、今回はマセーゴともコモンとも遠隔でコラボしたから、彼らに任せた。実は、アルバムタイトルを決めるよりもこのトラックができた方が先で、コモンの声がマセーゴに乗ってきたときに、「コレだ!」と思った。マセーゴは既に俺たちのフィーリングを十分に表現してくれていたし、曲のコンセプトを完全に形にしてくれたんだけど、コモンが乗せてくれた《I came to the door to knock down the door》みたいなフレーズを聴いたときに、これこそがアルバムタイトルだと確信したんだ。俺とコナーは「ゴールデン・チケット」を手にしたことでバリアを取り壊し、より多くの人々や世界への道が開けたわけで、それはすごくラッキーなことだと思ってる。そして、俺たちのそのストーリーにインスパイアされて、他の人々にも同じ経験をしてほしいと思っているから、この曲のタイトルをアルバムタイトルにしたんだ。

――なるほど、2人のこれまでの活動を言い表したタイトルだったんですね。

アイヴァン アルバムタイトルを決めるにあたっては、ひとつ以上の意味を持つ言葉を探していた。でもこのタイトルの俺たちにとっての意味は、音楽業界にいられることへの感謝の気持ち。2人とも、残りの人生ずっと地下でライブをやるか、もう少し年を重ねた時に大学で音楽講師の仕事ができたらいいなと思ってた。自分たちがこんな風に活動出来るとは想像もしてなかったんだ。でも、ブラストラックスがジワジワと大きくなっていって、これまでとは違う様々な状況で自分たちを見てもらえるようになった。そして、メジャーレーベルから契約したいと言ってもらえるまでになったんだ。その時、「ワーオ! これは俺たちにとってのゴールデン・チケットだ!」と思った。中には俺たちのプロデューサーの面しか知らない人たちもいたのに、ミュージシャンとして契約してもらえたなんてね。俺はトランペットプレイヤーとして、コナーはドラマーとして認められた瞬間だったんだよ。そのチケットを手にしてドアを開けてみると、沢山の興味深いことが俺たちを待っていた。一言では説明出来ないこの状況が、俺たちにとっての「ゴールデン・チケット」の意味なんだ。

――アルバムが完成した今の気持ちを教えてください。

アイヴァン とにかくホッとしてる。でも俺たちは常に音楽を作っているから、頭の中は既に次の作品でいっぱいなんだ(笑)。俺たちが音楽づくりをやめたりアルバムづくりをやめることは決してない。75歳になってもまだブラストラックスのレコードを作ってるだろうな(笑)。人々の気分を良くしたり癒すような音楽を作り続けていきたいね。

――いつかふたたび日本でのライブが実現することにも期待しています。来日公演を待っている日本のリスナーに向けて何かメッセージがあればよろしくお願いします。

アイヴァン 日本のファンは最高だよ。東京の時は多分600人前後だったと思うけど、オーディエンスの皆がしっかりショーを楽しんでくれるもんだから、それ以上の人数に感じたのを覚えてる。他の国のオーディエンスって、ショーをみながらパーティーしたりしちゃうんだけど、日本のみんなは音楽を聴こうという姿勢をしっかり見せてくれた。あれは特別だったね。

コナー 日本はお気に入りの場所。俺たちの音楽を聴いてくれて感謝しているよ。またすぐ日本に戻るから!

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Brasstracks
ブラストラックス(英語:Brasstracks)はニューヨークを拠点とするデュオで、マーク・ロンソンの楽曲制作に携わったことでも知られる。その他、チャンス・ザ・ラッパー、アンダーソン・パック、ハリー・スタイルズなどとコラボしている。 2014年の結成以来、トランペッターのアイヴァン・ジャクソン(トランペットの他にギター、ベース、鍵盤を演奏する)とドラマーのコナー・レインは、チャンス・ザ・ラッパーの2016年のヒット曲 “No Problem “をプロデュースし、グラミー賞の最優秀ラップ・パフォーマンス賞を受賞したリル・ウェインと2チェインズをプロデュースするなど、自由な音楽性を発揮している。 プロデューサーであり、ミュージシャンでもあるジャクソンとレインは、マンハッタン音楽大学でジャズを学んでいた時に出会い、すぐに共通の感性と音楽院生活への嫌悪感で意気投合。「ジャズスクールのメンタリティや、厳密にはジャズ以外の音楽を演奏してはいけないという考えに対して、私たちは少し反発していました」とジャクソンは語っている。 “音楽は自由な気分にさせてくれるものであり、私たちはどんな形でも制限されたくない”という彼らの想いは、時々批判的な要素も含んでいる彼らのユニークな音楽の中に感じることが出来る。 現在もインパクトのある彼らのオリジナリティを表現するために、精力的に制作に取り組んでいる。

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Golden Ticket

Brasstracks
2020.08.21(金)
アルバム

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