水曜日のカンパネラとチャーチズ(CHVRCHES)がコラボ曲“OUT OF MY HEAD”を発表した。
チャーチズは2013年にイギリス北部のグラスゴーからデビューし、すぐに<SUMMER SONIC 2013(サマソニ)>で初来日、フェスの常連でもある彼らは今年も<FUJI ROCK FESTIVAL’18(フジロック)>に出演するなど、日本でも高い人気を誇る3人組だ。
80’sを想起させるちょっと懐かしく、そこに新しさも含んだエレクトロニック・ミュージックに、甘い声ながら強い歌詞をぶつけてくるローレン・メイベリーの存在感は世界的に注目され、現在はニューヨークに移住している。
最新アルバム『ラヴ・イズ・デッド(Love Is Dead)』は、アデル(Adele)やベック(Beck)のアルバムを手掛けてグラミー賞最優秀プロデューサー賞を受賞したグレッグ・カースティンと制作し、話題沸騰中だ。一方、海外のフェスにも進出している飛ぶ鳥を落とす勢いの水曜日のカンパネラは、今年はコラボ・イヤーを公言。
フランスのバンドMoodoïdとのコラボ曲“マトリョーシカ”に続き、今回リリースされたチャーチズとの“OUT OF MY HEAD”は、3年前から始まった交流がようやく実を結んだ楽曲となった。
Interview:水曜日のカンパネラ×チャーチズ(CHVRCHES)
——まず、今回一緒に“OUT OF MY HEAD”で共演するようになった経緯を教えて下さい。
ローレン・メイベリー(以下、ローレン) 日本には何回も来ているけど、すごく早い段階から自分たちのことを受け入れてくれた国なので、とても日本を大事に思っていたのよね。それで「是非、日本で何か面白いコラボレーションをしてみたい」と日本のレーベルのスタッフに相談してみたところ、候補として送ってもらったのが水曜日のカンパネラの音楽だったの。そこからMVを観て、「彼女、わっ、めっちゃクールじゃない!」って思って、すごく大好きになった。そこで自分たちの音楽を送って聴いてもらったのが3年前かな?
——どの曲を気に入っていたか覚えていますか?
ローレン 曲名はよく覚えていないけど、パフォーマンスしている動画を見せてもらったの。ファッションが素敵だと思った。あと、コムアイの動きや歌から感じられるエネルギーに私たちがやっていることと通じるものを感じた。コラボレーションをする上で大事なのは、クリエイティビティの部分や、その人が発するエネルギーや個性という部分で共感できるものがあることだと思っているから、彼女を見た時に、「彼女なら自分たちの意図をわかってくれるはず」と思ったし、共演したら楽しいだろうと思ったの。
コムアイ ありがとう。
マーティン・ドハーティ(以下、マーティン) 第一印象は、まず声がいいと思った。僕が一人のリスナーとして惹かれる声なんだよね。コムアイが歌うのを聴いて、彼女の歌い方なら自分たちが取り組んでいたトラックに、何か面白いものを持ち込んでくれるんじゃないかと感じてワクワクした。それに、ローレンとの声の相性が完璧だと思ったんだ。
ローレン 私たちの曲の多くは、歌のリズムだったり、シンコペーションだったり……が鍵になっている。だから他のボーカリストと共演する時は、そういう「自分たちらしさをうまく引き出すことができるか」ということを、まず考えるの。コムアイの歌い方は、声を楽器のように使っているところが私たちにピッタリだった。あともう一つ魅力的に感じたのは、声を聴いただけで瞬時に誰かわかる、そんな個性を声にも感じたの。
——ケンモチさんはコムアイさんの声を活かすために、曲作りで意識しているのはどのあたりですか?
ケンモチヒデフミ(ケンモチ) そうですね、コムアイ自身の声のいいところって、スピード感があるんだけど、柔らかいところだと思うんです。もしそのコムアイみたいな声の人を活かそうと思ったら、普通はその柔らかさをサウンドに馴染ませて、もうちょっとフォーキーでゆっくりとした曲にしようとすると思うんですけど、僕はそこを逆にわざとコムアイっぽい声の人がやらないような音楽と組み合わせて、水曜日のカンパネラという音楽性を作っています。
マーティン 対比の面白さだよね。そういう対比っていうのは真逆のもの。ローレンの声もすごくピュアだったり甘い声だったりするけど、そこのところをあえて甘々の音楽にするのではなくて、歌詞やプロダクションの部分で逆にすごくダークなものを持ってきたりとか、とんがったものを持ってきて組み合わせることで、すごく面白くなるんじゃないかなって思っている。それが自分たちのチャーチズの核にある部分でもあるんだよね。
——水曜日のカンパネラの音楽は、歌詞の面では、人物を歌のタイトルや主人公にした、キャッチーな部分も日本では注目されているんですよね。
マーティン 今回書いてもらった歌詞も凄く好きだよ。今回のコラボレーションでとても面白いのは、それぞれ自分たちが背負っているカルチャーをしっかり曲に反映させているところなんだよね。
イアン・クック それに歌詞にはデヴィッド・ボウイ(David Bowie)とか入ってるし。
コムアイ 清志郎(忌野清志郎)のことは知ってる? (わかりやすく説明するなら)日本のデヴィッド・ボウイのような存在で、彼は政治的だったり社会的だったりするメッセージをたくさん発言していて。彼も、ボウイのようにもう亡くなってしまったんだけど。私たち(日本人)も今ヒーローを失っているんです。
ローレン コラボレーションする時に「私たちはこれを書いたから、私はここを歌うからあなたはここを歌って」というのではなくて、「私たちはこういうのを書いたから、あとはここのところを自分たちで好きなようにやって」というのが本当のコラボレーションという感じがしているの。だから今回あなたのクリエイティビティと一緒にできて、本当にコラボレーションという感じでできて良かったなと思ってるわ。
——水曜日のカンパネラの2人はチャーチズの音楽にどういう印象を持っていますか?
ケンモチ チャーチズさんと水曜日のカンパネラがすごく近いな、と思う点は、1つの音楽のスタイルをこだわってやっているというよりも、いろんな音楽のスタイルにチャレンジして、ポップミュージックを作っているところ。あとシンセのサウンドがすごく新しいんだけど懐かしい感じがして、80年代の音楽、ニューウェーヴの影響とかを今の音や音楽の形でやっているのがすごいユニークだと思っています。
マーティン&イアン サンキュー!
コムアイ 私は“My Enemy”が好きですね。今回のコラボの話をチャーチズから最初にもらったのは3年前で、その時はライブでの共演(対バン)という話だったと思うんだけど、普通にファンだったから凄く嬉しかったですね。チャーチズに関しては、言ったように幾つかの点で親しみや共感を覚えたし、ローレンは2つの強い正反対のポイントがあって、それは私にすごく重要な点で、私にも同じことが言えるんですよね。とてもピュアで、同時にとてもダークでアグレッシブだったり、ある種の強いバイオレンスだったり、もしくは牙のような……。
CHVRCHES (チャーチズ) 「My Enemy (feat. Matt Berninger)」
イアン ドラキュラみたいな牙ってこと?
コムアイ そうそう。そんな感じもするし、同時にローレンには天使の羽根のようなものも感じる。
イアン それは言い得て妙だね。
コムアイ あと、私たちも3人組だし、彼らは私より10歳上だし、構成も似ていると思う。
——お互い聞きたいことはありますか?
コムアイ シンコペーションについて。歌うのが難しかったから。
ローレン マーティンが答えた方がいいんじゃない? “OUT OF MY HEAD”のボーカルのメロディはマーティンが書いたから。トラックのリズムに歌のメロディをしっかり乗せることがこの曲では大事で、私も難しいと思っているから、安心して(笑)。
コムアイ ありがとう。私、大丈夫だった?
マーティン もちろん、すごく良かったよ。結構難しいことをちゃんとやっているよ。サビのところよりも、ヴァースのところの歌い回しの方が難しいんだよね。大満足だよ。
コムアイ 良かった(笑)。私もサビのパートが好き。
ローレン 私の方が簡単なサビのパートを歌わせてもらって、難しいヴァースを全部コムアイが歌ってる(笑)。
——歌詞はどう分担したのですか?
ローレン 私がサビ、コムアイがヴァースを書いたの。
——どういう曲を作ろうとしたのですか?
マーティン まだ曲になっていないもののインストの素材の中から、彼女の声に合っているような雰囲気のもの、エネルギーのもの、というところから選んでいった。完璧に出来上がった状態のものを送ってしまうと、せっかくのコムアイらしさが出ていないものになるから、やっぱり彼女らしさを出してほしいし、彼女のクリエイティビティをしっかり反映してもらいたいから、そこは慎重に選んだよ。そうじゃないとコラボレーションする意味がないじゃないからね。
——コムアイさんが歌詞を書く時に意識した点は?
コムアイ 確か2パターン提出したんだけど、採用したこれは、スタジオでレコーディングしている間に書いたもの。曲全体のアイディアをパッと瞬時に思いついて、その日のうちにレコーディングしたんですよね。凄く真っ直ぐで正直な歌詞だから。
ケンモチ 最初は『ウォーキング・デッド』っていうワードからだったはず。
コムアイ なんで『ウォーキング・デッド』を言おうとしたんだっけ?
ケンモチ なんかゾンビたちの群。
コムアイ (チャーチズから)怒りやストレスや葛藤を表現してほしいというリクエストがあって、あとは私にとっての音楽の偉大なヒーローが思い浮かんで(笑)、あと、私はインスタキッズがとにかく嫌いで……(笑)。
マーティン (笑)
コムアイ 私もインスタキッズなんだけど……(笑)。
全員 (笑)
コムアイ あと、あなたたちの故郷であるグラスゴーを想って、カタカナで歌っている。聞き取れた?
ローレン もちろん。そうやって引き合いに出しているものが、パーソナルなんだけど、普遍的にも感じられて、すごくいいと思った。
コムアイ そうなの、ありがとう。そこを私は気に入っていて。地球上にある二つの違う場所を歌っている。あなたたちは今グラスゴーにいないわけで故郷の外にいて、私にも故郷があって、今はそこに戻るタイミングではないと感じている。そういう思いを歌っているのが2番なの。私はまだ挑戦し続けたいと思っていて、今はそういう感覚を大事にしたいと思っているから。
マーティン いいね。
——ケンモチさんはプロデューサーとして、このチャーチズとコムアイさんがコラボした“OUT OF MY HEAD”にどういう感想を持ちました?
ケンモチ 普段こんなにロック色の強い曲をやることってあまりないので、それがとても新鮮だったのと、シンコペーションのリズムがすごいユニークで、しかも曲の印象がサビのメロディに入る時に、「あっ、こういう曲だったんだ」ってまたガラリと変わって聞こえるような曲で、すごく面白いなと思いました。コムアイは怒りを出して歌うようなタイプではないのと、あと自分たちでメロディをつけていく部分はちょっと難しかったですけど。
——今後の音楽の可能性など、どう感じていますか?
ケンモチ 水曜日のカンパネラはこれまで日本国内での活動が多かったので、このコラボレーションを機にもっと世界中の人たちに聞いてもらえるような足掛かりになったらな、と思います。
ローレン 私たちも同じで、幸い日本で既に多くの人たちが私たちの音楽を聴いてくれているけど、さらに多くの人たちに自分たちの音楽が届いたら、それは最高なことだと思う。
コムアイ 今年は私にとってコラボレーション・イヤーなので、いろんな可能性があると思っています。去年の末に、「私はもっと変わりたいし、いろんなことにチャレンジしたい、やらなきゃいけない」と感じていたので、このオファーがあってラッキーだったと思っています。
マーティン 僕らは何に関してもオープンなので、本当に一緒にパフォーマンスできたら嬉しいな。
全員 是非!
text by Natsumi Itoh