Chi-によるソロユニット、カメレオン・ライム・ウーピーパイ(以下、CLWP)の1stフルアルバム『Orange』が5月17日にリリースされた。80年代後半から90年代にかけてのミクスチャー、あるいはオルタナと現在のインターネット的な雑食性を洗練された感覚で融合させたような、どこか懐かしく真新しいサウンド。さらにはとりわけChi-によるラップとも歌とも言い切り難いヴォーカル、軽妙な言語感覚で選ばれた言葉のリフレインが呼び込むグルーヴなどCLWPを存分に堪能できる一枚だ。すでにシングルなどでリリースされていた曲の多くも含まれるという点においては、2016年から始まったCLWPの活動を一度総括するような内容とも呼べるかもしれない。

とはいえ、音源のみを聴いてCLWPの魅力の全てがわかるかというとそうでもない。ライブはもちろん、アートワークやMVに至るまで、CLWPの独自性は場所を選ばずに光っている。その理由は明白で、Chi-とライブや楽曲制作を共に行う仲間であるWhoopies1号、2号、つまりCLWPが自ら手掛けているからである(もしかするとユニークかつキュートな公式HPのデザインもそうかもしれない)。

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カメレオン・ライム・ウーピーパイ“Wonderful”ジャケット写真
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カメレオン・ライム・ウーピーパイ“Love You!!!!!!”ジャケット写真
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カメレオン・ライム・ウーピーパイ“scrap”ジャケット写真
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カメレオン・ライム・ウーピーパイ“Crush Style”ジャケット写真
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特にMVへの力の入れ方は他と一線を画す。おそらくほとんどのアーティストにとって、MVは外部の映像作家やカメラマン、編集者などに制作を委託し、最終的なディレクションのみを行うものだろう。CLWPは撮影から編集、ディレクションまで自分たちで完結しているのだ。ほとんどのMVでエンドロール的にしっかりとクレジットに自分たちの名前を写している(なおかつ手を抜くことなく、趣向が凝らされている)のは、MVも自分たちの表現であるという明確な意思表示だろう。

それに加えてChi-はMVについて過去のインタビューでこんなことも話している。

「最初は単純にお金がなくて、自分たちでやるしかないからiPhoneで撮ったりしてたんです。でもその後、MVの撮影をプロの方にお願いしたこともありましたが、ニュアンスを伝えるのが難しかったし、感覚が合わないと厳しいものがあるなと思って」

「カッコイイだけじゃない、ダサくて遊び心があるのが大事だと思うんですよね。『これどうなってんだ?』みたいな、未完成でヘッポコな感じのほうが好き。映像については素人なので、MVも雑な合成とかになったりするんですけど、私としてはそれがよくて。アイデア勝負というか、上手くなくても全然いい」

引用元:海外からラブコール殺到、カメレオン・ライム・ウーピーパイの圧倒的個性が求められる理由

もしかするとこれまでたびたびCLWPの一種の特徴として発言にあった“人見知り”も理由の一つかもしれないが、それでもはじめから予算や関係性、あるいはスキルの問題以上にCLWPに譲れないポイントがあったことがわかる。

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カメレオン・ライム・ウーピーパイ“Whoopie is a Punkrocker feat. Stephen Harrison”ジャケット写真
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カメレオン・ライム・ウーピーパイ × PARKGOLF“Indie Slime”ジャケット写真
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カメレオン・ライム・ウーピーパイ“LaLaLa”ジャケット写真
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カメレオン・ライム・ウーピーパイ“Mushroom Beats”ジャケット写真
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では実際にいくつかMVを見てみよう。

アルバム『Orange』にも収録されているデビューシングル“Dear Idiot”はCLWPが世界に飛び出した1曲だ。そのMVは、一見Vlogのようにも感じるモノクロのキャンプの動画の中では、Whoopies1号、2号をChi-が生み出すような一幕や、賑やかな演奏風景もあるが、歌詞と呼応するようにChi-が一人、そんな映像を白い壁に映した部屋で歌う映像が重ねられている。また、Chi-が部屋の中で歌っている部分はモノクロではなく、美しく発色したオレンジ色の髪が強調されることによって、Chi-の歌詞世界の持つポジティブさとネガティブさのコントラストだけでなく、孤独感と孤独であることで個性が輝くこともあるというアティチュードも垣間見えてくる。CLWPの楽曲の持つ世界観を見事に投影していると言えるだろう。ちなみにここでも採用されているストップモーション的な技法をCLWPは比較的頻繁に用いており、これもノスタルジックさや親近感と非現実感を感じさせる要素かもしれない。

Dear Idiot/カメレオン・ライム・ウーピーパイ:Official Music Video

Burn Out”のMVも観てみよう。スクラップ工場のような場所で、2018年に復刻されたラルフローレンのSNOWBEACHのアイコニックなプルオーバーをオーバーサイズで着こなしたChi-がフラフラと歩く。その光景は、人生、あるいは世界に対して懐疑的だったところから「最後に好きなことをやろう」と音楽を始めたChi-が、音楽を通して人生を楽しみ始めた状況を端的に表現しているようにも感じる。だが、CLWPはそれだけで終わらない。空の写る部分に合成されたカプセル剤やキリン、虹など、幻覚のような部分も目に入ってきて、どこかワクワクしてしまう。それらはまさにこの曲で伝えられるメッセージ──世界には知らないだけで楽しいことがまだまだあるかもしれない──を視覚的に伝えるものだろう。加えて、最も奇妙なのがChi-が犬の風船を終始首につけていることだ。もしかするとベック(Beck)“E-Pro”のMV(これもかなり特殊なMVだ)での、合成されたベックが無重力の犬を散歩するような描写をオマージュしたものかもしれない。そういった想像力を掻き立てるのもこのMVの魅力だろう。

Burn Out/カメレオン・ライム・ウーピーパイ:Official Music Video

そして、現状最新の“Whoopie is a Punkrocker(CLWP ver.)”のMVは、CLWPの表現がどこで生まれているかを教えてくれる作品だ。タイトル通りパンキッシュで勢いのあるサウンドに合わせて、背景やChi-の派手なサングラスなどにカラフルな映像が合成され、非常に賑やかなMVとなっているのだが、よくよく観てみるとCLWPは一つの部屋から外に出ていないことに気がつく。さらには3台並んだモニター。「もしかして……」と思っていたところにCLWPがSNSに「今までの全曲のRECからMV制作色々全部 この部屋でこの3人で作った。ウピ部屋」と投稿。そう、この一室は、CLWPの表現を生み出す場所だったのだ。改めてChi-の歌声に耳を澄ませば「足らんエナジードリンク 苛立つ脳」「ならば見よう寝ないまま Dream」と、その部屋で行われている深夜にも及ぶ制作作業の様子がそのまま綴られていることがわかる(Chi-のパーマを当てた髪も、制作が煮詰まって頭をかきむしったときのボサボサ感を表現しているのかもしれない)。また、「小さな部屋から3人で世界へと飛び出していこう」というCLWPの意思表示でもあるだろう。

Whoopie is a Punkrocker(CLWP ver.)/カメレオン・ライム・ウーピーパイ:Official Music Video

ここまでで触れることのできなかったMVにも魅力的なものはたくさんある。ドット絵のテレビゲームにCLWPが飛び込んだような“Mushroom Beats”、幻覚剤をかじったと錯覚するようなサイケデリックな世界でCLWPが踊る“Stand Out Chameleon”など、本人も言うようにいい感じの“雑さ”を織り交ぜながら楽曲の持つパワーをさらに増幅するような作品ばかり。CLWPの表現を楽しみ切ろうと思うならMVもマストでチェックするべきだろう。もしアルバムを未聴の方がいるのなら、サブスクのどんなプレイリストに入っていても目を引くChi-のオレンジ色の髪をフィーチャーしたアートワークが目印だ。

Mushroom Beats/カメレオン・ライム・ウーピーパイ:Official Music Video

Stand Out Chameleon/カメレオン・ライム・ウーピーパイ:Official Music Video

5月27日に下北沢ADRIFTで開催された<FLOAT>で観たCLWPのライブではステージ後方に映像が映し出されていたということも付け加えておこう。映像などヴィジュアル面でのクリエイティブも含めた総合的な表現がライブでは味わえるということだ。大阪はJANUS(7月2日)、東京はWWW X(7月9日)で行われるワンマンライブではさらにこだわり抜かれ、スケールアップしたものを体感できるだろう。

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カメレオン・ライム・ウーピーパイ“Stand Out Chameleon”ジャケット写真
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カメレオン・ライム・ウーピーパイ“Skeleton Wedding”ジャケット写真
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文/高久大輝

INFORMATION

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カメレオン・ライム・ウーピーパイ

オレンジの髪が特徴的なChi-によるソロユニット〈カメレオン・ライム・ウーピーパイ〉。

仲間のWhoopies1号・2号と3人で、楽曲制作やライヴ活動に限らず、MUSIC VIDEOやアートワークなどをはじめとした、自らの活動にまつわるすべてのクリエイティヴを手がけている。

2019年12月に初のシングル「Dear Idiot」をリリース。2021年には、Spotifyの『RADAR:Early Noise 2021』に選出される。2022年8月に『SUMMER SONIC 2022』東京・大阪に出演。

2023年3月には米国テキサス州オースティンにて開催された世界最大級の複合フェスティバル『SXSW 2023』にも出演し、米音楽メディア「VIBE」では、出演者総数1000組を超えるアーティストの中から「ベストパフォーマンス10選」に選出。

国内外のミュージシャンやプロデューサーからのラブコールも多く、国やジャンルを問わず様々なクリエイターとコラボレーションも積極的に行ない、国内外からも注目を集める次世代型アーティスト。

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1st アルバム『Orange』

発売日:2023年5月17日(水)
形態:CD
価格:¥3,300(税込)
品番:CLWP-1002

〈収録曲〉
01. CHAMELEON LIME WHOOPIEPIE’s THEME
02. Stand Out Chameleon
03. Mushroom Beats
04. LaLaLa
05. Burn Out
06. Dear Idiot
07. Dislike
08. Where Is The Storm
09. Love You!!!!!!
10. scrap
11. Skeleton Wedding
12. Wonderful
13. Unplastic Girl
14. MANabUUUU
15. Crush Style
16. Indie Slime [CLWP×PARKGOLF]
17. Whoopie is a Punkrocker(CLWP ver.)

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1ST ONE-MAN LIVE “Orange”

〈日程・会場〉
2023年7月2日(日)大阪・心斎橋 Music Club JANUS
2023年7月9日(日)東京・渋谷 WWW X

〈開場・開演時間〉
OPEN 17:00/START 18:00
※開場/開演時間は変更の可能性がございます。

〈お問い合わせ〉
東京:CREATIVEMAN PRODUCTIONS 03-3499-6669(月水金12:00~16:00)
大阪:GREENS 06-6882-1224(平日12:00〜18:00)

〈チケット詳細〉
チケット代金:¥3,900-(税込)
[e+]https://eplus.jp/chameleonlimewhoopiepie/
[ぴあ]https://w.pia.jp/t/clwp-Orange/
[ローソン]https://l-tike.com/clwp/

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