さかのぼること約2ヵ月前。台湾のインディーズ音楽ファン仲間から、こんなメッセージを受け取った。

「彼らのライブをはじめて見た時、なんてCrazyなんだろうって思った。こんな風に演奏をするのは、簡単なことじゃないって」

そのバンドというのが、台湾桃園市を拠点とするCROCODELIA(クロコデリア:鱷魚迷幻)。2016年にYufu(陳郁夫・Vo,Gt)、Yuyun(陳郁允・Bass)兄弟にて結成。2017年、日本でバンド経験を重ねたドラマー、新道文宜が加入。2018年夏にキーボードのBebo(鄒秉成)が加わり、現体制へ。

60’s サイケ/ガレージの影響を受けた4人が奏でるサーフ・サイケデリックサウンドは、台湾のインディーズシーンでは稀有な存在である。

Hatched: A CROCODELIA Documentry Experience

結成から3年が経ち、2019年7月に中国8都市を巡回するツアーも経験。東京、台北、中国の3か国のアンダーグラウンドシーンで、彼らは何を見てきたのか、何を見据えているのか……? 質問攻めにしたところ、とても丁寧に、優しく答えてくれた。

Interview:CROCODELIA

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CROCODELIA 鱷魚迷幻
2016年結成。古代エジプト鰐神ソベクにインスピレーションを受け、60年代のサイケデリックロック、ガレージパンクに、サーフ、インドやトルコ音楽の要素を取り込み、ミステリアスなサウンドを奏でるファズサイケバンド。

Member:写真左から
Bebo(鄒秉成) キーボード担当。1991年生まれ、台湾桃園市出身。Yufuと出身大学が同じ。
新道文宜 ドラマー。1984年生まれ、東京都出身。ex.ザ・シャロウズ。
Yufu(陳郁夫) リーダー、メインボーカル兼ギタリスト。1992年生まれ、台湾桃園市出身。ベースのYuyunは弟。
Yuyun(陳郁允) ベーシスト。1996年生まれ、台湾桃園市出身。

紀元前3100年に結成、その経緯とは

━━日本のメディアへ初登場とのことで、結成の経緯から聞けましたらと。公式情報によれば、CROCODELIAは、紀元前3100年に鰐神ソベクにインスピレーションを受け結成したとのことですね。それ以前は何を?

Yufu エジプトでピラミッドを作っていました。Beboは壁画を描いて、Yuyunはバーベキューをしていたんですよ。

Yuyun こう、肉を焼いていたんです。

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(「肉を焼いていて……」と語る様子。写真左から、Yuyun、Yufu、Bebo)

━━台湾の方って、面白いんですね。

Yuyun 簡単に言うと、僕とYufuは兄弟、BeboとYufuは同じ大学で、CROCODELIAをはじめる以前にもバンドを組んでいたことがあったのですよ。

━━YufuさんとYuyunさんはご兄弟なのですね。バンドでの役割分担はどんな感じ?

Yufu 僕は声が高いのですが、弟(Yuyun)はコーラスもできて、声も低い。兄弟仲は良いですよ。

Yuyun Not, Oasis(笑)!

Yufu それで、3人でバンドを再結成したいなぁと思って、BeboにLINEをしたんだけど、2年もの間、返事がなかったんです。

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Yufu(陳郁夫・Vocal,Guitar)
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Yuyun(陳郁允・Bass)

━━2年間、どうして無視を?

Bebo その頃は公務員になるための勉強をしていたので、余裕がなかったんですよ……。インターネットやSNSを使うのも避けていたんです。

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Bebo(鄒秉成・Keyboard)

Yuyun でも彼女とは付き合ってたじゃん(笑)

Yufu そういうわけで、Yuyunとガレージロックバンドを組んで時々ライブをしていたのですが、ある時、観客席の一番隅で、ビデオカメラを構えてじっとしている”Hentai”を見つけました。それが大体、紀元前2900年くらい。新道との出会いです。

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新道文宜(Drum)

新道 そう、YufuとYuyunのバンドのフライヤーが洋服屋にあって、見るからに60’s風なのが気になり観に行ったのですよ。その2年後、他のバンドでドラムを叩いている時に、Yufuがライブに遊びに来て、「新しいバンドを始めたいがドラムを探している」と言うので、じゃあ俺が叩くよ、とその場で決まりました。

━━日本人と台湾人でバンドを結成。カルチャーの違いや、言葉の壁ですれ違いはありませんでしたか?

新道 特にはないですね。例え言語が違っても、通ってきた音楽が共通すれば、「こういうサウンドを作りたい」といったことはニュアンスで伝わりますので。同じ趣向の音楽を通っている人とバンドやるのは楽しいなー、って改めて思います。

Yufu うん、新道とはじめてセッションした時、気が合うなあと思いました。それから、彼女と別れたBeboが加入して(笑)、今のメンバーになったのです。

台湾のリスナーさんに受け入れてほしいけれど

━━皆さんのお人柄も少し分かってきたところで、台湾のインディーズ音楽シーンについて教えてください。

Yufu 5年前はポストロックが最盛期で、その後はシューゲイズブーム、現在は80年代のセンスを取り入れたCitypopや、チル・ウェイヴなどがトレンドです。インディー・ロックもまだまだ流行中。僕たちの周りでサイケデリック・ロックのバンドはDope PurpleとMong Tongくらいですね。

新道 アンダーグラウンドシーンといえば、無妄合作社と共犯結構が中心となって独自のDIY活動を展開するパンクスのグループ、愁城(読み:チョーチェン)や、フリージャズ、ノイズシーンの先行一車(読み:シェンシンイーチェー)というグループがあり、独自のファンベースがあります。

━━アンダーグラウンドシーンを形成するいくつかのグループがあるのですね。CROCODELIAはそういうところに属していないけれど、ファンベースを拡大するために努力していることはありますか?

Yufu 僕たちのファンベースは大きく2つに分かれています。台湾人のお客さんと、海外のお客さんです。残念ながら、台湾人のお客さんは、一度見たら満足して、繰り返し足を運んでくれる方はそう多くありません。何度も見に来てくれるのは海外のリスナーさんです。台湾のお客さんにもっと理解してほしいと思っているので、もどかしい気持ちもあります。

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写真左から:新道、Yuyun、Yufu、Bebo

━━戒厳令の影響から、台湾では、1960年代の音楽をリアルタイムで吸収した世代が少ないのでしょうか?

Yuyun 僕たちの音楽性を好んで聴いてくれるのは、イギリス、アメリカ、カナダ、フランスなど、西洋の方が多いですよ。なので、海外ツアーに力を入れるつもりです。今年は、中国と日本へ遠征しましたので、今後は欧米にも行けたらと。

━━ほとんど英語歌詞なのには何か意味が?

Yufu 幼い頃から、1960年代の音楽を好んで聴いていたので、英語の歌詞が曲に乗っているのが自然なんです。今、中国語の曲作りに取り組んでいますが、母国語で作詞をするのがむしろ挑戦ですね。

━━なるほど。えーと、ちょっと聞きづらいんですが、CROCODELIAの音楽性って、1960年代のサイケ/ガレージに影響を受けていると思うのですが、決してトレンドとは言えないですよね?

Yufu 流行か、流行じゃないかなんて気にしたことがないですよ。60年代、70年代の音楽が格好よすぎるからです。でも、流行が流行であるのを否定はしない。これが僕たちなんです。

新道 逆に、流行っているからといって、好きじゃない、興味のない音楽をやっていて、楽しい? って聞きたい。イギリスのザ・ホラーズ(The Horrors)やアメリカのザ・ホワイト・ストライプス(The White Stripes)だって、60年代のサイケ/ガレージの影響を受けている。でも今はすっかり有名でしょ? 狙ってやるものではないし。

Yufu そうだ、そうだ。今後、流行がどう変わるかわからないですしね。

━━Beboさんいかがですか?

Bebo 僕はクラシックピアノをずっと習っていましたが、3人から60年代の音楽をたくさん聴かされて、音楽の好みが合うなあと思って一緒に活動しています。

Yufu・Yuyun・新道 聴か「されて」って(笑)

ハードが発展し、ソフトが求められる中国

━━今年7月には中国8都市へツアーにも行きましたね。

新道 スケールの大きさを感じました。“地元のライブハウス”のほとんどが、川崎のクラブチッタくらいの規模なんですよ。地元のバンドとの2マンのイベントへの出演が多かったのですが、どの都市でも、200~300人くらいのお客さんが来てくれました。中国のお客さんはカルチャーを求めているけれど、シーンが育っていないと思います。だからこそ、これから発展する可能性があるし、今後すごい世界になるのかなって。

━━北は北京、南は厦門(アモイ)まで、総移動距離は2,000㎞以上と、広い範囲を回られましたね。各都市の傾向はありますか?

Yufu 中国は、観客の方々の熱量が高くて、楽しかったです。北京は中国ロック発展の中心地であり、お客さん一人ひとりが音楽のこだわりを持っているんたなぁと。ツアーの終盤、天津市ではフェスに参加したのですが、上海や杭州で一度ライブを見たお客さんが、車で片道2時間かかる距離を、また来てくれて感動しました。

新道 上海は土地柄、西洋のお客さんが多いですね。かなりノリよく踊っていました。逆に南京のお客さんは、あんまり踊り慣れていない感じで静かめです。お客さんが最も少なかったけど、それでも150人くらい来てくれたかな。

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北京の様子
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南京の様子

━━良いことずくめだったんですね。逆に何か予想外の出来事などはありましたか?

新道 福州で、とあるドラマーにすごい気に入られて、ドラムオンリーのセッション祭りに連行されたことがありましたね……。ドラムが何個も置いてあるスタジオに連れていかれて、延々とセッションをするっていう……。

━━(笑)他に思い出はありますか。

新道 食べ物が油っぽかったりとか……、中国で大流行中の食用ザリガニを食べて、ちょっと色々ありました……。次回から食事に気を付けようと思いました(笑)

音楽をしていてムカついたこととかあります?

――台湾のバンドを取材していると、お優しい方が多いなあって思うんですよ。なかなか本音を聞く機会ってないなあと。台湾のシーンへの課題感というか、思うことがあれば率直に教えていただけませんか?

新道 音響面なんだけど、ライブをまるでCD音源のように再現しようと考える人が結構いて、ちょっとそれはどうかな? と。家で聞く音楽とライブで感じる音楽、って違うじゃないですか? 台湾のPAさんは、色んな音楽に触れていないのかな?

Yufu 台湾人から見ても、台湾の音響技術は、進歩する余地があると思いますよ。

Yuyun あと、色んなバンドの曲を模倣して売れようとしてるバンドはどうかと思いますね……。

Yufu クリエイター同士なら、自分のアイディアをどういうつもりで模倣しているか、リスペクトはあるか? という勘は働きます。もちろん僕たちも色んな音楽を聞いて、影響は受けていますが、ひとつの曲を元にして書くとしたら、それはただの模倣です。

━━どの国でも、パクリ問題はあるのですね。

Yufu それから、女性をアピールするバンドはどうかと思いますね。身体を露出したりとか。

━━これまでに名前の挙がったバンドって、ほとんどが男性のミュージシャンですよね。逆に尊敬できる女性のミュージシャンといえば?

Yufu 日本でも知られているけれど、ジャズシンガーの9m88(読み:ジョウエムバーバー)はすごいと思います。

新道 我々が知ってる中だと女性オンリーのバンドっていないんですよね。でも、漂流出口の布妲菈 Putad Pihay、88Balazの冠伶 Kuan-Lingはすごいと思います。Valley Hi!のドラム、張之萓とかも。

━━Beboさんはいかがですか?

Bebo 僕は特に……、60年代、70年代の音楽をずっと聞いてるので、台湾の事情はあまり知らないんです。あまりムカつくことはないですよ。

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Legacy Taipeiにて

━━CROCODELIAは結成してから今年で3年経ちましたが、台湾のシーンはどう変化していますか?

Yuyun 欧米のシーンで一度流行した音楽性でも、台湾のシーンでは新しいジャンルの音楽が、少しずつ浸透してきていると思います。それこそ、僕たちが影響を受けてきた、ガレージ・パンクとか。

━━今年の金音創作獎(※インディーズミュージックの式典)でも、ガレージロックのバンドが入賞していましたね。

Yufu 台湾独自の音楽性をもったバンドも増えました。インディーズ・台湾語ロックとか。台湾では2~3バンドを掛け持ちするのが当たり前で、バンドの数も増えていますよ。今回の金音創作獎では、受賞者のほとんどがバンドで、逆にソロアーティストの割合は減っているかな。これが3~5年の変化です。

━━台湾のアンダーグラウンドシーンで台湾、日本、中国で演奏するバンドはそう多くはないと思います。CROCODELIAが先駆者という自覚はありますか?

Yufu アンダーグラウンドシーンでは先駆者かもしれませんが、バンドとしてはまだまだです。海外で活動するリスクもありますが、自分たちが海外に行くことで、これからバンドをはじめようとする若い子たちにも影響を与えられるのでは? と。

━━謙虚だ……。これから、台湾のシーンでこういう存在になりたいという理想や、台湾のシーンに望むことはありますか?

新道 今、自分たちの周りにいるアンダーグラウンドのバンドたちみんなで、大きくなっていきたい気持ちがあります。かっこいいバンドがいるのを、もっと知ってほしくて。バンドが進歩していけば、お客さんも増えて、アンダーグラウンドシーンのスケールも大きくなるんじゃないかな。そして、みんなで一緒に踊りたいなっていう。

Yuyun 台湾のローカルなお店で、日本、韓国のポップスだけではなく、台湾の音楽がもっと流れると良いなと思います。普通の生活を通して、色んな音楽があることを浸透させたいですね。

Yufu うん、社会全体が音楽に対してもっと敬意を持ってほしいな……。

Bebo 今、インディーズバンドのライブに来ている大学生の子たちに、色んなバンドがいるよって伝えたいです。

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━━新道さん、一度日本で音楽をやめて、台湾で音楽活動を再開して2年経ちましたね。台湾に来て、何か変化したことは?

新道 自由に音楽を楽しめるようになったと思います。東京にいた時は、主にザ・シャロウズのリーダーとして必死に活動してました。ただ当時は、何もかもを思い通りにしようとしすぎた結果上手くいかないことも多く、自分自身が辛くなっちゃったんですよね。

今は強いこだわりを捨てて、自由に楽しいことを広げていこう! という感じです。その分、バンドの運営は他のメンバーに任せきりで、特にリーダーのYufuには負担をかけているかもしれないけれど。

Yufu バンドの運営をストレスと感じたことはないですよ。独立したミュージシャンとして活動するためには、音楽活動のほか、表に出るためのプロモーション業務、アルバムのジャケット、デザインも自分で決めなくてはいけないので、みんな大変だなぁと思います。

━━最後に、言いたいことがありましたら、なんでもお聞かせください。

Yuyun 5年後、何をしているかなぁと思ったのですが、これまで行ったことがない国へのツアーのチャンスと、実力を持ちたいですね。そして、僕たちの作った音楽が世に出るといいな。

Yufu 海外のスタジオで作曲をしたり、レコーディングをしたりして人脈を広げたい気持ちはありますが、最終的には自分の育った台湾で、皆から知られる存在になりたいです。

Bebo インタビューしてもらえてすごい嬉しいです。ありがとうございます。

━━こちらこそ、お話を聞けてよかったです。ありがとうございました。

Text:中村めぐみ
Interpreter:林明佳 

CROCODELIA 鱷魚迷幻


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