Live Report:TOKYO CUTTING EDGE Vol.00
2017.12.14(木)@恵比寿ガーデンホール

【ライブレポ】「大森靖子」と「TK from 凛として時雨」が<TOKYO CUTTING EDGE Vol.00>で示したお互いへのリスペクト music_cuttingedge_3-700x467

12月14日(木)、恵比寿ガーデンホールにて新しい音楽イベント<TOKYO CUTTING EDGE Vol.00>が開催された。

今回のイベントは、大森靖子TK from 凛として時雨の二組によるツーマンライブ仕様。今年8月9日に大森靖子がリリースしたシングル“draw(A)drow”の作曲・編曲・プロデュースを、TKが手掛けるなど、長年互いにリスペクトし合う関係にあった両者だが、ツーマンでのライブ開催はこの日が初めてとなる。

音楽レーベル〈CUTTING EDGE〉が主催となり、新たに立ち上げられたライブ・シリーズの記念すべき初回を飾るイベントとして、このスペシャルな組み合わせが実現した形だ。この日しか見られない特別な組み合わせを見ようと、会場には多くの人が詰めかけ、開演前からざわざわとした熱気が伝わってくる。

大森靖子
凛として時雨の“Missing ling”をアコギで弾き語り

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最初に大森靖子が一人、アコースティックギターを抱えながら登場。ステージに彼女が現れると会場中の空気が一変し、ピンと張り詰めた緊張感に包まれる。

彼女は今年9月27日に、弾き語りアレンジによる過去の名曲と新曲を収録したアルバム『MUTEKI』をリリース。現在、その作品に伴う<超歌手大森靖子 MUTEKI弾語りツアー>の真っ最中だ。この日の前半は、その流れとも繋がる、アコギ弾き語りによるセットとなった。

真っ白の衣装でベールを頭に被り、低めのマイクに向かって屈みながら歌う彼女の姿が、シンプルなスポットライトだけに照らされたステージ上に浮かび上がる。オーディエンスは、息を呑むような静寂の中で、彼女の一挙手一投足を見つめ、目まぐるしく表情を変えていく歌とギターの一音一音に耳をそばだてている。

最初に披露された“東京と今日”では、アコースティックギターをかき鳴らしながらタイトルにもなっているフレーズを絶唱。続いての“死神”は《履歴書は全部嘘でした》というポエトリーリーディングから始まる一曲。独り言のような囁きに少しずつメロディが加わり、歌になっていく様がスリリングだ。

3曲目には、凛として時雨が2013年にリリースした5thアルバム『i’mperfect』から、“Missing ling”をカバー。原曲の端正なメロディが活かされた序盤から、徐々に感情が高ぶり、最後には泣き叫ぶかのような声色に。

細かいミュートでリズムを刻み、ラップのようなフロウで韻を交えて言葉を紡いでいく“SHINPIN”から、ギターの奏法がコード・ストロークに変わると、耳馴染みのあるメロディが聴こえてくる。欅坂46のカバー、“サイレントマジョリティー”だ。

大森靖子による“サイレントマジョリティー”は、シングル『draw(A)drow』にも収録されていたが、クラムボンのミトがダンサブルにアレンジした音源に対し、この日は弾き語りバージョン。大人の支配や同調圧力を拒否するこの歌の持つメッセージが、生々しい心の叫びとなって伝わってくる。

大森靖子「サイレントマジョリティー」Music Video

続いて“マジックミラー”が始まると、バンド・メンバーがステージに登場。曲の後半から一気にバンド演奏へとなだれ込み、ついにカタルシスの瞬間が訪れた。ステージは華やかな照明で輝き、観客の中にはピンクのサイリウムを振る人も多数。序盤は身を屈めていたマイクに向かっていた彼女は、いつの間にか凛とした立ち姿でオーディエンスと向きあい、アコギを肩に担いで客席に手を差し伸べていた。

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TKがプロデュースした“draw(A)drow”は、ジェットコースターのような目まぐるしい展開とハイとローをスピーディーに行き来するメロディに、彼の個性が光るナンバー。長年大森靖子と活動するバンド・メンバーは、それぞれの音をぶつけ合うような激しいアンサンブルを繰り広げる。

大森靖子「draw (A) drow」(Music Video / 千葉雄大Ver.)

その後のMCでは、演奏中の鬼気迫る表情から一変して愛らしい声色でオーディエンスに挨拶。“draw(A)drow”の制作についてのエピソードも話され、「一回自分と向き合ってみようと思って作ったんですけど、“draw(A)drow”で自分をひねり出すという作業をやってからその快感にハマってしまって、最近曲では自分のことしか書いてないんです。そのきっかけを作ってくれてありがとうございます。」とTKに感謝の言葉を捧げていた。

「でも、これまでにも一曲だけ、私の中で愛情だけで美しいものを作ろうと思って作った曲があったんですよ。私の一番のラブソングを聴いてください。大好きな道重さゆみさんに作った曲です!」というMCの後は、“ミッドナイト清純異性交遊”へ。元モーニング娘。の道重さゆみは、大森靖子が敬愛して止まない永遠のアイドル。会場で揺れるサイリウムや照明のピンクは、モーニング娘。時代から道重さゆみのイメージカラーでもある。

“流星ヘブン”では、グッとテンポを落としたビートとピアノの美しい響きが絡み合い、情緒的なムードに。続く“M”はピアノだけをバックに切々と歌い上げるバラード。感情に従って声色を変えていく歌声は前半のアコギ弾き語りにも通じるが、音色がピアノになったことで、哀切の方が強く伝わってくる。ピアノの旋律を主体としたセットは次の“君に届くな”まで続き、次第にスケールの大きなロック・アンサンブルへと展開していった。

一転して、小気味よく明るい演奏がはじまり、“絶対彼女”へ。大森靖子とあーちゃん(G)がキュートな振り付けを合わせて踊り、女性らしい声色でポップなメロディを歌う。曲中で「みんなの声を聞かせてください!」とコール&レスポンスを促すと、「女子」と「おっさん」に別れてオーディエンスが合唱。最後はみんなでの大合唱となり、会場は一体感に包まれた。

続いて、《音楽は魔法ではない》と大森靖子が噛みしめるように繰り返す。セットの最後を飾るのは“音楽を捨てよ、そして音楽へ”。彼女の歌声と完全に同期するように、バンドの演奏は有機的に絡み合い、彼女が「止めて!」と叫ぶと会場が静寂に支配される。《音楽は魔法ではない》と繰り返し歌われた後の《でも音楽は……》という言葉の続きを、会場にいる一人ひとりが噛みしめていた。

曲が終盤になると、大森がバンド・メンバーを紹介。それに合わせてそれぞれがソロ演奏をリレーしていき、最後は「お客さん!」という声と共にマイクが客席へ委ねられる。マイクを通してオーディエンスの叫び声が次々と聴こえる中で、大森靖子のパフォーマンスは大団円を迎えた。

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