音楽レーベル〈Cutting Edge〉が主催するイベントシリーズ<TOKYO CUTTING EDGE>。大森靖子TK from 凛として時雨が共演したVol.00、ビッケブランカとLUCKY TAPES、Saucy Dogが出演したVol.01に続くVol.02は、初のオールナイト開催となった。7月6日(金)、恵比寿LIQUIDROOMを舞台に、ライブアクトとして長岡亮介jan and naomiWONKの3組、DJとしてSHINICHI OSAWAMONDO GROSSO)、EYヨBOREDOMS)、DJ AYASHIGEWRENCH)が参加。深夜ならではの親密な空気感とエッジの効いた音楽の組み合わせに、笑顔とダンスに溢れる一夜となった。

Live Report:TOKYO CUTTING EDGE Vol.02
2018.07.06(金)@恵比寿LIQUIDROOM

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会場入り口に進むと、まず目に飛び込んできたのはバルーン・アーティストのBashicoが手がけた風船のディスプレイ。大小様々な風船が照明に照らされ、訪れた人を一気に幻想的な空間へと誘ってくれる。風船はフロアの天井にも飾り付けられていて、空調の風に優しく揺られながら会場にカラフルな彩りを加えている。時間が進むにつれて大きな風船が割れ、中に入れられた小さな風船が落ちてくる一幕も。それらの風船を手に持ちながら踊る人がいたり、みんなでトスを繋いで空中を風船が飛び交ったりと、フロアの楽しげなムード作りに一役買っていた。

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最初に会場の空気を作ったのは、結成26年を誇るロック・バンドWRENCHのフロントマンでもあるAYASHIGE。今回はDJとして出番を務めた。極太の低音ビートを基調に、ミニマルだが凄まじい音圧を持ったテクノセットが展開されていく。オープン直後で、まだ外に入場を待つ長蛇の列ができている最中だったため、さすがにフロアは満杯とまではいかなかったものの、会場内にいる人々は皆一様に体を揺らしてビートを感じていた。セットが終盤に近付くにつれ、フロアにも人が増え始め、AYASHIGEのプレイもそれに合わせてアグレッシヴに加速。最後には、オーディエンスから大きな歓声が送られていた。

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続いて、ライブセットの1組目として登場したのはWONK。ホセ・ジェイムズ(Jose James)やロバート・グラスパー(Robert Glasper)以降のジャズ新潮流とも共振する超絶技巧のアンサンブルで、世界的に活躍するエクスペリメンタル・ソウル・バンドだ。メロウでジャジーなイントロを受けてボーカルの長塚健斗が甘い歌声を響かせると、会場が一気に甘くセクシーなムードに包まれる。セット前半はゆったりとした演奏で、長塚の繊細な歌唱を引き立てるかのようだ。オーディエンスもみんな、うっとりとした様子で聴き入っている。サポートメンバーとしてWONKを支える安藤康平が楽曲ごとにギターとサックスを持ち替え、多彩な音色でドライヴ感を加えているのも印象的だった。

ダイナミックなドラミングでリードしていく荒田洸。流麗な手さばきでピアノ、キーボード、シンセサイザーと3台の鍵盤を操る江﨑文武。彼らの叩きだす音を感じながら、グルーヴィーに演奏を繋ぐベースの井上幹。鉄壁の楽器隊が即興演奏的なアンサンブルを見せた後、長塚がマイクに向かい「どうも、WONKです!」と挨拶。それをきっかけに、前半のジャジーなセットとは打って変わったファンク・モードへと突入する。テクニカルな演奏はファンキーなブレイクビーツを中心とした力強いものへと変化し、それまでしっとりとした空気に包まれていたフロアにも熱が生まれ始める。

長塚が「夜はまだ長いんで、盛り上がっていきましょう!」と煽りMCを挟むと、ビートがまた一段加速し、ファンクからディスコ調へ。最後に演奏されたのは、ナイル・ロジャース(Nile Rodgers)を髣髴させるギター・カッティングが印象的な“Loyal Man’s Logic”。オーディエンスの熱気もピークに達し、フロアを見渡すと誰もが思い思いに体を揺らしていた。

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WONKの後、DJブースに立ったのはSHINICHI OSAWA。言わずもがな、MONDO GROSSOやDJとしてのソロ活動、アーティストのプロデュース等、多方面で活躍を続ける日本有数のDJ/プロデューサーだ。この日もまた、彼らしいポップでカラフルなセット。一つのジャンルにとらわれることなく、キャッチーなコーラスの楽曲からダンサブルな四つ打ちのハウス・チューンまで、一瞬たりとも観客を飽きさせない。フロアには和やかな空気が流れ、各々が心地良い空間を楽しんでいる様子だった。

SHINICHI OSAWAのDJセットが終わると、幕が閉じたままのステージからは長岡亮介がリハーサルを行う音が聴こえてくる。自身がフロントマンを務めるペトロールズとしての活動の他、東京事変にギタリストとして参加したり、椎名林檎、星野源、illion等々のサポートギタリストとしての経験を持つ「音楽家に愛される音楽家」、長岡亮介。彼の熱心なファンも会場に詰め掛けていて、姿を見せない段階にも関わらずフロアからは「長岡!」と彼を呼ぶ声が飛んでいた。

そして始まった長岡のライブは、ギター&ヴォーカルの彼自身と、サンプリングパッドとキーボードを叩いてビートを紡ぎ出すサポート・ミュージシャンの2人体制。サポートに入ったのは、自身もソロのエレクトロニック・アーティストとして国内外で精力的に活動するausだ。この豪華なサポートも、ひとえに長岡の人望あってこそだろう。

温かなファンの視線、ミニマルな演奏、深夜ならではのムードが相まって、会場はまるで親しい友人のステージを見ているかのような、親密な空気が漂う。とは言え、長岡の人間性が滲み出た素晴らしい鳴りのギターや歌声はもちろん逸品。リハーサル時間が短かったためか、息が合わず演奏を仕切り直したり、長岡がエフェクターを誤操作してしまうハプニング等もあったものの、そのたびに観客からは笑い声や声援が飛び、終始ほがらかな雰囲気で進んでいった。

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MCでは、「今日新しいCDを作って持ってきたんですよ」と新作の告知が。長岡自身のツイートによれば、この日販売されたCDは7月2日にマスタリングが終わり、7月6日のイベント当日にプレス盤が出来上がったばかりの出来たてホヤホヤの音源だったという。つまりはこのイベントが長岡の新作初リリースの瞬間となったわけだ。会場に集まった彼のファンにとって、この新作CDは本当に嬉しいサプライズだったに違いない。

長岡亮介の後は、DJとしては最後の出番を務めたBOREDOMSのEYヨが登場。日本のみならず世界中に熱狂的なファンを持つBOREDOMSとしての活動のかたわら、DJとしても国内外で数多くのイベントに出演する彼のDJは、出演者の中でも飛び抜けてユニークで刺激的なセットになっていた。トライバルかつダビーなビートを縦横無尽に変化させたかと思えば、アジアや中東の民族音楽をサンプリングした上音の音色で会場を一気にサイケデリックなムードへと染めていく。深夜3時を過ぎて、酩酊した感覚がオーディエンスに漂う中、覚醒と没入が同時に頭を駆け巡るかのようだ。他に類を見ないオリジナルなDJプレイという点で、EYヨのセットは紛れもなく「カッティング・エッジ」な時間だった。

イベントの最後を締めくくったのは、今年4月に〈Cutting Edge〉レーベルから待望のフル・アルバム『Fracture』をリリースした2人組、jan and naomi。2012年から活動を開始し、多くの同業者やメディアからその美しい旋律を絶賛されてきた彼らがステージ上に現れると、空気がピンと張りつめる。モヒカン姿でギターを鳴らすjanと、長髪を揺らしながらノイズを加えていくnaomi。ドラムとキーボードにサポート・メンバーを加えた4人編成で、フロントに立つ2人の姿は一際妖しく、神々しささえ漂う。

彼らは両方がボーカルを取るスタイルだが、その歌声は好対照。Janが空気全体を震わせるような低いバリトンボイスなのに対して、naomiのボーカルは繊細に囁くような、イノセントな歌声だ。その対照的な歌声が白昼夢のように交じり合う様は、The xxやビーチ・ハウス(Beach House)といった海外のバンドも髣髴させる。徹底したミニマリズムに貫かれながら、静かな音像の中に豊かな陰影を封じ込めた彼らの音楽は、息を呑むほどに美しい。夜明け間近の闇にそっと寄り添うような、まさにこの時間にぴったりの音楽が奏でられていく。

セットの終盤には、スペシャルゲストとして長岡亮介が呼び込まれ、ギターで共演。それぞれのステージを見る限り、プレイスタイルは全く異なる両者だが、jan and naomiの妖艶な楽曲に長岡のシャープなギタープレイが加わって新たな魅力が生まれていた。

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最後は、朝日がゆっくりと差し込むような温かみのあるギターのアルペジオで始まり、janとnaomiの2人は静かな狂気に導かれるようにステージ上で倒れ込みながら演奏。キック・ドラムの音を拾うマイクに向かって歌ったりと、ドリーミーなサウンドとは裏腹の破壊的なパフォーマンスを見せた。会場中が深い余韻に包まれる中、janが優しい声色で「気を付けて帰ってね。」と話しかけて終演に。大きな拍手に迎えられながら、彼らはステージを去っていった。

出演者がそれぞれに全く異なるパフォーマンスを披露してくれた<TOKYO CUTTING EDGE Vol.2>。「すべての音楽があるTOKYOだからこそ、ほんものの音楽を選べる場所を。あらゆる情熱があるTOKYOだからこそ、ほんとうにいいと思えるLIVEを。」というコンセプト通り、多様な音楽の中にあるほんものを提供してくれた充実の一夜だったと言えるだろう。それぞれのアクトのファンがただ集まるだけのイベントではなく、各々のアクトが持つ魅力を余すことなく堪能できるライブ・シリーズとして、<TOKYO CUTTING EDGE>にはこれからも回を重ねていって欲しい。

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