ロードアイランドとアイスランドを結んだ、ピュアすぎる歌声
北欧から生まれる音楽は常に世界中のリスナーを魅了してやまないが、近年はアルバム・リーフ、ワンオートリクス・ポイント・ネヴァー、そしてジュリアナ・バーウィックといったアメリカ出身の音楽家が、意識的にアイスランドを制作の舞台として選ぶことが増えた。ビョークのプロデュースで知られるヴァルゲイル・シグルズソンが発起人となり、あのニコ・マーリーやサム・アミドンもメンバーとして参画するレーベル兼共同体〈ベッドルーム・コミュニティ〉がその橋渡し役を担っていることは間違いないが、デス・ヴェッセルもまた彼の地に心を奪われたアーティストのひとりだ。
デス・ヴェッセルは、ドイツ・ベルリン出身で米ロードアイランド州を拠点とする長髪の吟遊詩人=ジョエル・シボドーによるソロ・プロジェクト。05年リリースの1stアルバム『Stay Close』は当時のフリー(ク)・フォークのシーンと一緒くたに語られつつも、性別や時代性を超越したピュアなファルセット・ヴォイス、タイムレスで寓話的な詩世界、あるいはバンジョーやフィドルなどを取り入れたヴィンテージ・ライクなアコースティック・サウンドが海外メディアの高い評価を集めた。続く2nd『Nothing Is Precious Enough for Us』(08年)ではシアトルの〈サブ・ポップ〉とサインし、アイアン&ワインやホセ・ゴンザレスとのツアー経験がプラスに作用したのか、ロック、ジャズ、ブルーグラスへの接近も感じさせる表現力を開花。それから6年もの時を経て届けられたのが、通算3作目となる『アイランド・インターヴァルズ』である。
プロデュースを務めたのは、シガー・ロスのヨンシーと公私共にパートナーであるアレックス・ソマーズで、彼が所有するレイキャヴィクのスタジオでレコーディング。それこそアレックスはジュリアナ・バーウィックの2nd『Nepenthe』(13年)を手がけた張本人だが、共作のきっかけはデス・ヴェッセルがヨンシーのソロ・アルバム『ゴー』(10年)の全米ツアーにおいて、オープニング・アクトに起用されたことだった。ヨンシーからコラボレーションを打診されたジョエルが歌詞を書き、両者が歌い上げたというM5“Ilsa Drown”は、この世のものとは思えないほど神秘的な美声の応酬に息を呑む珠玉のナンバーだ。また、アイスランド録音らしいチャイルディッシュな音色――とりわけトイ楽器やエレクトロニクス/ノイズの多用は、ムームの最新作とも共振するポイントとも言えるかもしれない(事実、ムームのサムリ・コスミネンも参加)。
『アイランド・インターヴァルズ(=島の間隔)』というタイトルには、全米50州の中でもっとも面積が小さいロードアイランドと、島国であるアイスランドが紐付けられているのだろうか? いずれにせよ、アメリカン・ルーツ・ミュージックと北欧の理想的な出会いとして、末永く愛される名盤でしょう。
(text by Kohei Ueno)
★2014.02.26(水)、新着MV解禁!
Death Vessel -“Mercury Dime”
Death Vessel – Ilsa Drown(feat. Jónsi)
Release Information
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