2013.09.24(TUE)@恵比寿LIQUIDROOM
年々萎縮しつつある洋楽マーケットの現状を考えれば、実にパーフェクトで理想的な光景だった。ダブステップ以降のUKクラブ・ミュージック・シーンを牽引するディスクロージャー&アルーナジョージによる、一夜限りのWヘッドライン公演。チケットはもちろんソールド・アウトを記録し、エッジーな外国人客から「NY」ロゴが刻印されたキャップ着用のヘッズ、そしてモデル顔負けの美女や業界関係者までが立錐の余地もないほどフロアを埋め尽くし、ライヴへの期待値をパンパンに膨らませていた。
「イイトコどり」のセット・リストで、
そのポップ・ポテンシャルを発揮したアルーナジョージ
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開演予定時刻を15~20分ほど過ぎた頃だろうか、トップバッターはアルーナジョージ。サポートのリズム隊を迎えた4人編成のバンド・セットで、へそ出しルックのアルーナ・フランシスが飛び跳ねるようにステージへ登場すると、ひときわ大きな歓声が上がる。名刺代わりのオープニング・ナンバーは、キッチュなビートがアルーナの多重コーラスに寄り添う“Just A Touch”という意外なチョイス。だが、全身の毛穴を震わせるような極太のベース・ラインとバスドラに、紺色のシャツを第1ボタンまで留めたジョージ・リード(ジェイムス・ブレイクをちょっとふっくらさせた感じ)が黙々と構築していくメロウ&ディープなウワモノが融け合っていくサウンドは、リキッドルームの素晴らしい音響も相まってとにかく気持ち良い。「ニホンダイスキ!」と叫ぶアルーナのコケティッシュなヴォーカルも、ナマで聴くとグッとフィジカルな躍動感をもって迫ってくる。1stアルバム『ボディ・ミュージック』はその収録曲数の多さゆえに軸がブレてしまっていた印象もあったけれど、続く“Kaleidoscope Love”や“Outlines”、あるいは必殺の“You Know You Like It”といったコンパクトながら「イイトコどり」のセット・リストは、彼女たちのポップ・ポテンシャルをアピールするにはベストな選択だったと思う。
また、何よりも驚いたのが、観客と真摯にコミュニケーションしようとするアルーナの人懐っこい存在感。ゴーストみたいに木霊するヴォイス・サンプリングは紛れもなくダブステップ経由のサウンドだが、ブリアルやコード9らがシーンに出現した時に漂っていた「匿名性」はほとんどなく、ステージから放たれていたのはマライア・キャリーやTLC、デスティニーズ・チャイルドといった超メジャーな90年代R&Bのフレーヴァー。とはいえアルーナ自身はココロージーやフィーヴァー・レイのように個性的なシンガーも愛聴していると聞くし、自らジョージの隣でサンプラーを操る宅録女子の側面も覗かせる。きっとこんな風に、メインストリームもアンダーグラウンドもジャンルも分け隔てなく楽しむのがアーティストとリスナーの本来あるべき姿なのだろう。かつて全米1位を獲得したモンテル・ジョーダンのヒット曲“This Is How We Do It”(95年)のカヴァーや、オリエンタル風味な奇天烈ポップ“Lost & Found”を経て、ラストは《あなたの愛情を求めて無意味にがんばった》と歌われるビターなラブソング“Your Drums,Your Love”。ティンバランドやザ・ネプチューンズがR&Bを変えたように、「オルタナティヴR&B」として括られるアルーナジョージもまた、その良い意味で節操のない天然のアティチュードでシーンを塗り替えていくのかもーー。そんなことを考えさせられる充実のパフォーマンスだった。
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