1. 「世界基準で真っ向勝負」

「世界基準で真っ向勝負」。これをDYGLほど徹底して実践しているバンドも、日本のロック史上、稀だ。

今、思い返しても、彼らが「同時並行して活動をしていた」ykiki beatの登場は衝撃的だった。「日本のロックは周回遅れ」。00sに、世界がどんなに「ザ・ストロークス以降」で、ギターのサウンドやリズムの感覚がガラリと変わってしまっていたというのに、延々と「日本なりのルール」に固執してグランジ型の重低音重視のギターにこだわり、全く弾まない記号化された「4つ打ち」なるものをさも新しいものでもあるかのように鳴らしていた頃、Ykiki Beatはもう既に「ストロークス登場以降、10年経った現在の世界のインディ・ロック」を、世界同時代の感覚で鳴らしていた。ギターの音色、ニュー・ウェイヴをサラリと吸収したグルーヴ感覚をとっても、当時の世界のインディ・ロック・シーンのものと混ぜて聞いてもあそこまで違和感を感じないものを聞いたのは随分久しぶりだった。

Ykiki Beat – Forever(Official Lyrics Video)

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Photo by YUSAKU AOKI

2. 「ブリティッシュ・アクセントで歌われる日本のロックバンド」

だが、やはりそれ以上に驚いたのは、彼らの歌う言語だった。別に、英語で歌うことそのものはさして珍しいことではない。しかしながら、「ブリティッシュ・アクセントで歌われる日本のロックバンド」。そんなものを聞いたのは、半世紀前後の歴史を持つ日本のロックの歴史においても、前例を全く思いつかないものだった。「マニアックなサウンドや日本語の詞世界を開拓するバンドならたくさんいたが、とうとうこういうディテールにまでこだわれるバンドが出てきたんだな」と、僕は彼らの登場を随分頼もしく思えたものだった。

Yikiki Beatは2016年に活動休止。せっかく芽吹き始めた日本のロックの逸材を逃すようで残念にも思えたものだ。しかし、フロントマンのNobuki Akiyamaをはじめとした3人は、「並行して活動していた」というもう一つのバンド、DYGLを本格化させ、活動拠点も日本から海外に変えはじめた。そして、彼らはそこでも驚くべき展開を見せてくれた。

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そこで彼らは、より自身のルーツに近い、00s型の、散削りな質感のロックンロールを聞かせてくれた。日本に最新モードのインディ・ロックを届けてくれたYkiki Beatからすれば意外な展開にも思えたが、ロックそのものが世界で活気を失っている中、あえて世界に向けてロックンロールで勝負をかけることに彼らの潔さを感じた。さらにデビュー・アルバム『Say Goodbye To Memory Den』で彼らはプロデューサーに、かのザ・ストロークスのギター・リフの要、アルバート・ハモンドJr.を迎える大胆ぶりまで披露した。日本のバンド史上でも、これはかなり大きな海外大物とのコラボだが、彼らはこれにも舞い上がることもなく、「僕らが仕事したいと思っていたエンジニアがたまたま繋がっていて、もともとはセルフ・プロデュースの予定だった。でも、彼との仕事はいい刺激になった」と、あくまで自分たちの確固たる姿勢を強調できる冷静さを見失わず、サウンドをアルバートから押し付けられるでもなく、あくまで自身の信じたロックンロールを展開するだけ。「こういうマインドのバンドが、もっと日本に増えたらな」と、僕はまた嬉しくなった。

DYGL – Let It Sway (Official Video)

DYGL – Let It Out(Official Video)

DYGL – Bad Kicks(Official Video)

DYGL – A Paper Dream(Official Video)

3. セカンド・アルバムを発表

そして今回、DYGLはセカンド・アルバム『Songs Of Innocence & Experience』を発表する。タイトルだけを聞くと、彼らとはあまり接点を感じさせないU2が2014年と2017年に発表した2部作を思い出させるが、このアルバムは、U2の影響というより、このタイトルが文字通り意味するところの「イノセンス(無邪気さ)」と「エクスペリエンス(経験)」を感じさせるものとなっている。「イノセンス」を感じさせるのは、彼ら、とりわけDYGLとして活動し始めて以降に表現し続けているバンドがそもそも影響を受けた2000年代のロックンロール・リバイバルのバンドを彷彿とさせる初期衝動の部分。逆に「エクスペリエンス」を感じさせるのは、彼らの愛するロックンロールのルーツ、つまり彼ら自身が生まれるはるか昔の60sのロックのフィーリング。それから、現在のシティ・ポップのブームにも通じる、60sから70sにかけての、ソフィスティケイトされたR&Bのコードやメロディの感覚。このアルバムでは、彼らが軸足をしっかりと定めながらもミュージシャンシップを飽くことなくストイックに高める姿を映し出している。こうした求道的な向上心の強さ。これこそが彼ら独自の道のりの原動力となっている。

DYGL – Spit It Out(Live)

DYGL – Don’t You Wanna Dance in This Heaven?(Official Video)

これだけのセンスと実力と、日本の最近のバンドとしては珍しいまでの高い理想と野望を持ちながらも、それが現時点で日本でも海外でも、まだ正当な評価を得ているとは言い難いDYGL。もしかしたら、現在の彼らはまだ未完成で、これからより大きな成果と収穫があるのかもしれない。だが、そうなる前の、まだ伸び盛りの、ベクトル傾斜が勢い良く強くなり始めている、今のこの時期を見逃したくないところだ。

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Text by 沢田太陽
Photo by ERINA UEMURA

INFORMATION

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『Songs of Innocence & Experience』

2019.07.03(水)
¥2,315(+tax)
DYGL
形式:CD

Tracklist
1. Hard To Love
2. A Paper Dream
3. Spit It Out
4. An Ordinary Love
5. Only You(An Empty Room)
6. Bad Kicks
7. Don’t You Wanna Dance In This Heaven?
8. As She Knows
9. Nashville
10. Behind the Sun

発売元:Hard Enough
販売元:ULTRA-VYBE

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