今年4月、5G時代の新たなエンタメ創出を目指す「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」(au 5G)がライブストリーミングスタジオ「DOMMUNE」とともに、5G時代の動画配信プラットフォーム「SUPER DOMMUNE」を渋谷PARCOにリニューアルオープンした。
次世代の配信の形を模索するこの場で、6月14日(日)に初めてのコラボARライブ<INVISIBILITY>が開催された。日本屈指のダブ・バンド、フィッシュマンズが出演。この度Qeticでは、この最新エンターテイメントのライブレポートを実施した。
そんな未来を予感させるARライブが、6月24日(水)再びSUPER DOMMUNEにて開催される。次回は4thアルバム『anima』をデジタルリリースするDAOKOが登場。今回のレポートを読めば、24日のARライブへの期待感も一層高まるはずだ。
IAF & DOMMUNE Presents FISHMANS AR LIVE <INVISIBILITY>レポート
by 柴 那典
音楽×テクノロジーで「見えないもの」に力を宿らせる。現実に魔法をかける。
そういう瞬間を生み出すためのトライが、そこには確実にあった。最新技術を使った「AR LIVE」という新たな形のライブカルチャー。でも大事なのはテクノロジーそのものではない。それを用いてどんな体感をもたらすかだ。そこに“神秘”が宿るかどうかだ。
6月14日、フィッシュマンズが行ったAR LIVE<INVISIBILITY>は、そういうことを感じさせてくれる時間だった。
場所は「SUPER DOMMUNE tuned by au 5G」。宇川直宏の主宰するDOMMUNEと、au 5G(KDDI)・渋谷未来デザイン・渋谷区観光協会を中心とする「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」による新たなプラットフォームだ。リアルな“場”としては渋谷PARCOの9Fに設けられたスタジオフロアであり、バーチャルな“場”としては最先端テクノロジーを活用した5G時代の動画配信チャンネルでもある。
つまり、90年代から日本の音楽カルチャーを牽引し、また多くのテック企業が拠点を構える渋谷という街を拠点に、リアルとバーチャルのふたつのレイヤーを“対立”ではなく“共存”もしくは“重ね合わせ”の構造として発信していく場が「SUPER DOMMUNE」なのである。
このプラットフォームを用いた渋谷5GエンターテイメントプロジェクトとDOMMUNEの最初のコラボレーション企画として開催されたのが、今回のフィッシュマンズによる拡張現実化ライブ。もちろん、最初に彼らに白羽の矢が立ったことにも、ちゃんと意義とコンテキストがある。それは、彼らがまさに“見えない魔法”を歌い続けてきたバンドであるということだ。それは、作詞作曲を手掛けてきたボーカリストの佐藤伸治が描いてきた詩世界そのものにも、そして1999年に彼が逝去した後もその言葉を精神的な支柱にしながらドラマーの茂木欣一を中心に形態を変え活動を続ける現在のバンドのスタンスに対しても言えることだ。
開演は予定より遅れた22時。この日のDOMMUNEのイベント第一部として行われた“ポストパンデミックの世界”をイメージするトークセッション<み・え・な・い・も・の>が終わると、フロアには茂木欣一(Dr, Vo)、柏原譲(B)、HAKASE-SUN(Key)、木暮晋也(G)、dARTs(G)に加えて、第一部にも出演したエンジニアのZAKが登場。ゲストボーカリストにクラムボンの原田郁子を迎えた7人編成だ。
「音楽は、見えないもの。それを今からやっていきます」とZAKが告げ、メンバーたちが輪になって演奏を始める。序盤に披露したのは“チャンス”からデビュー曲の“ひこうき”など初期の楽曲が中心だ。MCでは「みんなで合奏するの、いいね。合わさって、奏でて」と茂木が笑顔を見せる。集まって音を鳴らすこと、大きな音を浴びること、そういう根源的な気持ちよさに包まれているような表情だ。その様子にオーディエンスがライブチャットで参加する。中盤では94年以来ほとんどライブではやっていないという“MY LIFE”などレア曲も披露された。
演出も、非常に印象深いものだった。
ライブを通して、フロアには様々なオブジェが浮かんだり、光がキラキラと舞ったりしていた。演奏するメンバーの後ろにはLEDビジョンが置かれ、様々な映像が映し出される。そしてAR空間にそれと連動するようなイメージが現出するという仕組みだ。
ARの演出を担当したのは、第69・70回NHK紅白歌合戦など数々の舞台で映像演出を行ない、現実世界にバーチャルな空間をインストールする試みを行ってきたクリエイティブ集団「stu」だ。技術面でのポイントは、現実空間とバーチャル空間に一体感をもたせること。今回のライブでも、カメラで撮影した映像にただCGを乗せるのではなく、フロアの空間データをシステム上に再現し照明などの操作と連動することで、現実空間の光がAR空間のオブジェに当たっているかのような効果をもたらしていた。さらに遠隔でパン、チルト、ズームを操作することができるPTZカメラを用いて撮影された映像にリアルタイムでグラフィックをレンダリングすることで、動きのある表現が生まれていた。
そうした演出と、音楽のマジックが交差してクライマックスに達していたのが、終盤の3曲だった。
“いかれたBaby”では背景に彗星の映像、バーチャル空間に軌道に沿って回る惑星が登場し、宇宙の真っ只中で演奏しているかのようなイメージを作り出す。“ナイトクルージング”では無数のAR花火が画面いっぱいに打ち上がり、メンバーたちの姿にオーバーラップする。ラストの“夜の想い”では、AR空間に三角錐のミラーが回転し、現実空間のフロアを鏡像のように映し出しつつ、ピンク・フロイド(Pink Floyd)『狂気』のジャケットのようなプリズム光線を生み出していた。「フロアのLEDビジョンに映し出された映像」と「その映像を背後に輪になって演奏するメンバーたちの姿」と「現実空間には存在しないはずCG」が重なり合うことで、幻想的な空間がそこに生まれていた。
今回のフィッシュマンズが行ったAR LIVE<INVISIBILITY>は、間違いなく、今後の時代におけるライブエンターテイメントの一つの可能性を見せるものになっただろう。
コロナ禍によって、以前のように人が密集するということ自体が大きなリスクとみなされるようになった。ライブハウスやクラブなどのベニューは新たなガイドラインのもとで営業再開に向かっているが、身体的な接触を避けソーシャルディスタンシングを保った状態でのリスタートは、そもそものライブ体験としてもかつてのものとは違うものにならざるを得ない。アリーナやスタジアムでの大規模公演が元通りの形で再開するのも先のことになりそうだ。長期的にライブエンターテイメントが大きな打撃を受けるのは間違いない。
その一方で、オンラインライブのプラットフォームは一気に広がりを見せ、新しい文化様式として定着しつつある。COVID-19の感染拡大が終息し、以前のような日常が戻ってきたとしても、オンラインライブはおそらくエンターテインメントのもうひとつの選択肢として存在し続けるだろう。
そうした「アフターコロナ」のライブの未来には様々なパターンが予測できる。たとえば以前にもあった映画館のライブビューイングの延長線上の発想で、一つのステージに「現場組」と「配信組」の二つのオーディエンスが集まるタイプの公演もあるだろう。一方で、1200万人以上が参加したトラヴィス・スコット(Travis Scott)のFortniteでのライブのように、完全にライブ空間をバーチャル化し、仮想空間(メタバース)に演者もオーディエンスもアバターとなって体感を共有するタイプのイベントもあるだろう。
フィッシュマンズが行ったAR LIVE<INVISIBILITY>は、そのどちらとも違う、かつ両方に通じ合うような新しいライブの可能性を示唆している。現実空間とバーチャル空間を重ね合わせることで、オンライン上に「ステージと客席を隔てる“第四の壁”が壊された空間」を作り上げることが可能になる。
まだまだ技術的なハードルは高いとは思うが、今後5Gのテクノロジーが普及していけば、AR空間にあらかじめプログラミングされたオブジェだけでなく、オーディエンスのインタラクションによってリアルタイムに変化する演出を加えることも可能になっていくだろう。
2020年は結果として「未来を加速させた1年」になった。そう後に振り返られるかもしれない予感を抱いている。
Text by 柴 那典
EVENT INFORMATION
DAOKO 4th ALBUM「anima」Release Talk & Live
2020年6月24日(水)
SUPER DOMMUNE
START 20:00/END 22:00(予定)
TALK GUEST:DAOKO&片寄明人
LIVE GUEST:DAOKO
価格:無料(投げ銭制)
配信リンク:coming soon