5月27日(土)、28(日)に東北沢駅〜世田谷代田駅間全域にて、シモキタエリアの新しいフェス「下北線路祭」が開催された。本記事では5月27日に行われた、エンターテインメントスペース「ADRIFT(アドリフト)」でのライブイベント「ADRIFT MUSIC FES<Float>」を中心に、その模様をお届けする。
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<下北線路祭>は約1.7kmをつなぐ下北線路街全域に広がって街が彩られており、この日は5月の終わりにしては暑すぎるくらいの晴天に恵まれていた。下北沢駅を出るとすぐにお祭りの雰囲気。古着マーケットや移動式動物園で賑わう人や初夏の熱を楽しみながら東北沢方面へ向かう。
そして正午を過ぎ、「ADRIFT」のエントランスを抜けるとすぐに音が聞こえてくる。オープンDJのShun Izutani(Re.)が雰囲気を探るように、ジリジリと熱を上げるような選曲でフロアと向き合い、ゆっくりと<Float>が幕を開けた。
オープニングアクトの“ヒューマンビートシンガー”・YAMORIがさらに会場を温め、いよいよメインのアクトがスタート。一番手は幼稚園からの幼馴染みであるYOCO(Vo,Gt)と MAIYA(Gt,Sampl)による、池袋出身のハッピーポップユニット、illiomoteだ。「みんな好きに揺れて!」と、YOCOが景気良く煽り、陽気なエレクトロ・ポップを叩きつけていく。軽快かつときとぎ気取らないMCを挟み、ABEMAオリジナルの短編映画『恋と知った日』の主題にもなった切ないダンス・ポップ曲“ヤケド”もプレイ。ギャップのあるパフォーマンスがグッとくる。
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転換と再びShun Izutani(Re.)のDJを挟み、Deep Sea Diving Club(ディープシーダイビングクラブ)のライブへ。5月10日にメジャー1st EP『Mix Wave』をリリースしたばかりの、福岡を拠点として活動する4ピースバンド(サポートにキーボードの中野ひよりが参加)は、メロウなバンドサウンドをフロアに届けていく。ちなみに谷颯太(Vo/Gt)もMCで触れていたが、ここ「ADRIFT」は彼らがメジャーデビューを発表した思い出の場所でもある。『Mix Wave』からの爽やかな一曲“フーリッシュサマー”はこの夏日にとびきり合っていた。夏真っ只中に行われる彼らのワンマンツアーではさらに盛り上がるだろう。
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さらに転換とTAMTAMのギタリストでもあるyuthkeのアナログレコードでのDJタイムを経て、カメレオン・ライム・ウーピーパイの時間だ。SEに乗って先にWhoopies1号と2号が現れ、そこに鮮やかなオレンジ色の髪を振りまき、LEDサングラスを着けたChi-が登場。Whoopiesの繰り出すサウンドの中でChi-はラップと歌の間を自由に行き来し、VJも含めた総合的な世界観でフロアを掌握していく。とは言っても一方通行というわけではなく、コールアンドレスポンスを挟んでいたり、フロアの全員でしゃがんで321でジャンプしたりと、コミュニケーションがあるのもまた楽しい。終始MAXのテンションでラストは“Love You!!!!!!”でフロアをブチ上げた。7月に開催されるワンマンライブではもう一段深化したカメレオン・ライム・ウーピーパイの世界が観られそうだ。
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みたび転換とこちらも二度目のyuthkeのDJから、バトンはこの日最後のライブアクトであるNIKO NIKO TAN TANへ。「OCHAN(Vo.Syn.etc/作曲)、Anabebe(Dr/編曲)、Drug Store Cowboy(映像/アートディレクター/モーショングラフィック)という、音楽担当2名と映像担当1名を擁するクリエイティブミクスチャーユニット」とのことで、自ずと期待は高まっていたが、それを簡単に超えていくパフォーマンスだった。まずAnabebeのアグレッシブなドラミングは圧巻だ。迫力あるプレイ、そして音。その音がエレクトリックなトラックと自然に絡み合っているのもすごい。OCHANの歌もまた繊細で、メロウで、それでいて音の嵐の中の抜けて届く力がある。どこか不思議なバランスが心地いいステージだった。イベント名と絡めて「俺らの中で一番漂う曲」としてプレイされた“水槽”や“パラサイト”のエモーショナルな演奏にやられた。
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多彩なアクトの熱演に大満足の1日を締めくくるのは、Kick a Showのプロデューサーであり、ZEN-LA-ROCK氏の楽曲やCMへの楽曲提供も手掛け、現在は東京在住のSam is OhmのDJだ。心地よい音はきっとライブの余韻を長引かせただろう。
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さらに、「ADRIFT」に隣接した商業空間「reload」では、施設開業2周年を記念し「So Many Good Colors」と題したアニバーサリー企画が開催されていた。屋外テラスにはテーブルやベンチが置かれ、思い思いの過ごし方ができる、時間の流れが少しゆっくりと感じる施設だ。
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「店主の顔が見える個店街」をコンセプトとした同施設では、ヨガイベントや老舗茶舗による冷茶の振る舞い、コーヒーの抽出体験イベント、古着店のセールなど、各店の個性が光るイベントが多数行われていた。それぞれのお店を見て回るだけでもワクワクするが、無料でチェキを貸し出しする企画(「SHIMOKITA PHOTOWALK」)や、reload、ADRIFTを横断するスタンプラリー企画で「下北線路祭」をさらに盛り上げていた。
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線路跡地の再開発に伴い、新たな変化を迎えた下北沢。しかし一方で、これまで通り音楽や古着などカルチャーの街としてのカラーは未だに根強く残っている。
「ADRIFT」は、そんな下北沢の街や人が築いてきたカルチャーを大切にしつつも、新進気鋭のアーティストを誘致したライブや、アーティストと共に作り上げる音楽イベントなどを企画中だという。下北沢というカルチャーの街の新たなランドマークになりうるのだろうか。今後もその動向から目が離せない。
取材・文/高久大輝
写真/sotaro goto