お前はもう死んでいる。
でも、ドラゴンボールがあるからでぇじょぶだ!

ライング・ロータス(以下、フライロー)ことスティーヴン・エリソンは、「人の死」と真摯に向き合おうとする男だ。07 年に他界した叔母アリス・コルトレーンに捧げた2nd『ロス・アンジェルス』(08年)によって、J・ディラ以降を牽引するトラックメイカーとして脚光を浴び、3.11直後の開催となった11年の<SonarSound Tokyo>では多くの海外アクトがキャンセルを発表する中、恋人や家族の反対を押し切ってまで日本にやって来て、最高のパフォーマンスと笑顔を見せてくれた。

その翌年に行われた<electraglide 2012>においては、前夜にフライローのレーベル〈ブレインフィーダー〉に所属するジャズ・ピアニストのオースティン・ペラルタが、22歳の若さで急逝したというショッキングなニュースが報じられたものの、「オレは日本のみんなに元気玉を届けるぜ!」とツイッターで出演続投をアナウンス。当日のライヴではペラルタの映像を用いてオーディエンスと共に追悼を捧げたばかりか、重ねて同年5月に亡くなったMCAことアダム・ヤウクへのトリビュートとして、ビースティー・ボーイズの“Intergalactic”をエンディングに投下した。そんな経緯もあってか、彼の最新アルバムが「死」をテーマにしていると聞いた時、不思議と違和感はなかった。タイトルは、その名も『ユーアー・デッド!』。世界一の“HAPPY”野郎、ファレル・ウィリアムズの参加が次回に見送られたのも納得である。

『ユーアー・デッド!』ジャケ写

06年のデビュー作『1983』から数えると、実に2年おきでコンスタントにアルバムをリリースしているフライローではあるが、今作はキャリア史上もっともパーソナルで、かつフィジカル(肉体的)な作品になった。加えて、アルバムに客演したシンガー/パフォーマー/プレイヤーの表情や息づかいまでが、きわめてクリアに飛び込んでくるサウンドに仕上がっている。ディーントニ・パークスによる高速ハイハットが乱れ打つ“Theme”、巨匠ハービー・ハンコック(!)がフェンダー・ローズを奏でる“Tesla”、メタリックなギター・リフに続いてカマセィ・ワシントンのサックスが暴れまくる“Cold Dead”――、オープニングの3曲を聴くだけでも、本作におけるスティーヴン・エリソンが「コンポーザー(作曲家)」、あるいは「コンダクター(指揮者)」としてアルバムの全体像をきっちりとプロデュースしていることが窺えるだろう。もちろん盟友サンダーキャットもほぼ全編でアシストしているが、エリソン自らもベース、キーボード、パーカッションといった生楽器を演奏しているのだから驚きである。卓越したプレイヤー同士のインプロヴィゼーションから生まれる、生々しく有機的なアンサンブル。それは、フライロー自身のルーツでもあるジャズのスピリットそのものだ。同時に、11曲目“Turtles”では大胆にもエンニオ・モリコーネをサンプリングしているようで、ヒップホップ的なビート/ループ感覚も失われてはいない。

ヴォーカリストの人選も素晴らしい。リード・シングル“Never Catch Me”でキレッキレのラップを披露するケンドリック・ラマーを筆頭に、元ダーティー・プロジェクターズのエンジェル・デラドゥーリアンを招いた“Siren Song”、過去作でもお馴染みのニキ・ランダが登場する“Your Potential//The Beyond”、そして禁じ手(?)とも呼べる自身の別名義キャプテン・マーフィを召喚し、スヌープ・ドッグと共演してしまった“Dead Man’s Tetris”のようなナンバーさえ収録されている。また、我々日本人とっては日本のカルチャー/サブカルチャーへの目配せが感じられる点も嬉しい。狂気に満ちた人体破壊描写でファンも多い奇想漫画家=駕籠真太郎がアートワークを務め、“Never Catch Me”のミュージック・ビデオを東京生まれLA育ちのフィルムメーカー、ヒロ・ムライが監督しているのだ。

「最新作が常に集大成」というのが筆者にとってのフライング・ロータスの立ち位置なのだが、徹底してリッチな生演奏にこだわり、音楽にソウルとファンクネスを取り戻そうとする姿は、ダフト・パンクやカインドネス、キンブラ(ラスト・トラック“The Protest”で客演。自身の最新作ではサンダーキャットをゲストに迎えた)、もしくはプリンスの最新モードとも共振するかもしれない。死ぬことは「おわり」ではなく「はじまり」。あっけらかんと「おめぇ、死んでっぞ!」と宣告するなんて、まるでフライロー自身も敬愛する『ドラゴンボール』みたいなコンセプトだが、『ユーアー・デッド!』が描く宇宙照準のサイケデリック・ファンク/フュージョンは、EDM全盛の現代において抗いがたい魔力を放っている。

(text by Kohei UENO)

Flying Lotus – “Never Catch Me(feat. Kendrick Lamar)”

次ページ:ありったけの野心とサプライズが込められた、ジャズ新時代を象徴するマスターピース