今年のFUJI ROCK FESTIVAL ’26(以下、<フジロック>)を一言で表すなら、“想定外で想像以上”。2026年の<フジロック>を振り返るなら、この言葉がもっともしっくりくる。
今年も新潟県湯沢町苗場スキー場にて、2026年7月24日(金)、25日(土)、26日(日)に開催された<フジロック>は、前夜祭の23日が1万6000人、24日が3万4000人、25日が3万8000人、26日が3万5500人と、4日間で計12万3500人が来場。コロナ禍以降最多を記録した昨年を1500人上回る盛況ぶりとなった。
その上で、今年の<フジロック>は近年でも珍しく、荒れた天候の中での開催となった。初日24日(金)はかなり過ごしやすかったが、特に25日(土)、26日(日)は、激しい雨に見舞われる時間帯も。そういった荒天では、レインウェアが大活躍。来場者の多くが、機能性とファッション性を兼ね備えたコーディネートで<フジロック>を楽しんでいた。
“想定外”の天候の変化も含めて<フジロック>。そして今年は、そんな予定の狂いから生まれる出会いもまた、例年以上に多かったように思う。そんなことを改めて感じた年だったのではないだろうか。

まず、毎年カラフルに装飾されたお馴染みのゲートをくぐると、<フジロック>の自然豊かな環境が出迎えてくれる。周りを見渡せば、家族や仲間たちと嬉しそうに写真を撮る人々。そして、歩きながら深呼吸すれば、澄んだ空気で肺が満たされ、それだけで苗場へ帰ってきたことを実感する。ライブだけではない。<フジロック>に漂う空気や祝祭感も、このフェスならではの魅力だ。


GREEN STAGE(メインステージ)から、ボードウォークを通って、名プレイヤーの集うFIELD OF HEAVENへと向かう道中、目に飛び込んでくるのはデコレーションの数々だ。そこでひしひしと感じるのは、この<フジロック>のムードが、ステージの外側まで含め、多くの人の手によって作り上げられているということだ。デコレーションだけでなく、自然の中に設けられたKIDS LANDから聞こえてくる目一杯に遊ぶ子供たちの声や、鳥のさえずり、風や雨が木々を揺らす音、遠くのステージから届く歓声……そういった苗場にちりばめられたあらゆる要素を通して、ライブを観ていない、ただ歩いているだけの時間も、<フジロック>を全身で感じることができる。



<フジロック>の最も奥まったステージORANGE ECHOでのんびりとくつろぐ時間も、OASISやところ天国で過ごすひとときの休息の時間も<フジロック>。朝方のTHE PALACE OF WONDERで仲間たちや旧友と乾杯を交わす瞬間も<フジロック>。会場内のどこにいても、どんな時間帯でも<フジロック>の持つ特別なムードの中にいる。その多幸感こそ、<フジロック>が多くの人々から愛され続ける、大きな理由の一つだろう。



もちろん、急な雨に慌てて足を運んだRED MARQUEEで偶然すばらしい音楽と出会うのも<フジロック>だ。個人的には、2日目の午前中、雨を避けて足を運んだRED MARQUEEで観たブランデー戦記のライブが、まさにそんな出会いだった。予定していなかった音楽に思いがけず心を奪われる。こうした“想定外”の出会いもまた、<フジロック>の醍醐味だ。特に雨で立ち往生したり、予定通りの移動ができないことも多かったであろう今年の<フジロック>は、むしろそんな体験が頻発していたのではないだろうか。



なお、忘れずに書いておくと、今年は前述の通り来場者が多く、当然盛り上がりとあわせて人の密集する場所や時間帯もあったが、それでも夜間のライトの点灯などの工夫で、導線がわかりやすくなっていたことには非常に助けられた。
ちなみに、今回初めて子連れで<フジロック>に参加したという知人に遭遇したので話を聞くと、子連れだからこそ無理しない楽しみ方に徹することができているそうで、毎年苗場で会う旧知の<フジロック>ファンに支えられながら、以前よりも「<フジロック>の懐の深さを感じる」と笑顔で語ってくれた。



また、今回の<フジロック>は、サプライズで登場したアクトも、“想定外で、想像以上”だった。THA BLUE HERBは初日の深夜にVEGAS IN MILKに、2日目はTOM ROWLANDS(The Chemical Brothers)がTOMORAとしてWHITE STAGE出演後、急遽苗場食堂でDJ、最終日の深夜には坂本慎太郎がCRYSTAL PALACE TENTに出演。錚々たる面々の予期せぬパフォーマンスを知り、情報を頼りに予定を変更して目当てのステージへ急ぐ。タイムテーブルに掲載されていないこうした時間も、変わりやすい天候と同様に<フジロック>の醍醐味の一つだろう。
サプライズに気づいた頃にはすでにライブが終わっていたり、間に合っても人垣の向こうからわずかにその熱気を感じるだけだったり。悔しさはもちろんある。それでも、その場へ急いだ時間まで含めて記憶に残っているのだから、不思議なものだ。



もちろん、タイムテーブルに名を連ねたアクトたちも、忘れられない瞬間をいくつも生み出した。
前夜祭で<RED MARQUEE>のステージに登場したRGは、Backstreet Boysの名曲“I Want It That Way”などで大合唱を巻き起こしながらフェスあるあるを披露。大爆笑という意味で、一つのハイライトを生み出していた。
1日目のGREEN STAGEに登場したTurnstileは、モッシュ&ダイブが続出する白熱のパフォーマンスを届け、「次の<フジロック>ではヘッドライナーか?」という声も上がるほど。
BASEMENT JAXXはファンキーなダンスビートで、2日目のGREEN STAGEをピースフルなダンスフロアへと変貌させ、今回の<フジロック>がアジア初ライブとなるAngine de Poitrineは、3日目のFIELD OF HEAVENで入場規制にもなるほどのユーモラスかつグルーヴィーな快演を届けた。
何より、今回の<フジロック>で歴史に残るハイライトを生んだのは、16年ぶりにヘッドライナーとして帰ってきたMASSIVE ATTACKだろう。スクリーンに映し出される極めてポリティカルなメッセージと、Elizabeth FraserやHorace Andyといったゲストも登場し演奏された名曲の数々。そのライブの衝撃は、完全に”想定外で想像以上”だった。単なるヘッドライナー公演ではなく、2026年の<フジロック>を象徴するステージだったと言っていい。



加えて、今回も<フジロック>はライブの一部をAmazon PrimeとTwitchで無料配信していたが、MASSIVE ATTACKにとって初となるライブの世界的同時配信が実現。ライブ終了後も、音楽について、政治について、SNS上でも活発に意見が交わされていた。楽しさや幸福感に身を委ねるライブも最高だが、観る者に問いを投げかけ、その余韻を日常へ持ち帰らせるライブと出会えることも、フェスという場所の大きな意味なのだと思う。MASSIVE ATTACKのライブ後、苗場を後にする人々の姿を眺めながら、ステージから投げかけられた問いについて考えていた。
昨年に引き続き、アジア各国からの来場者も多く、今年は欧米からの若い来場者の姿も目立ち、会場全体の年齢層も幅広かった。The xx、KHRUANGBIN、MASSIVE ATTACKという世界的なビッグアクトの凱旋に加え、27年ぶりの<フジロック>となったHi-STANDARD、初出演のXG、Fujii Kazeまで、世代もジャンルも横断するラインナップが、多様な観客を苗場へと引き寄せていたのだろう。世界中から集まった音楽好き、往年の<フジロック>ファン、貴重なライブを目撃しようと苗場を訪れた若い世代、配信を通して参加した人々まで。それぞれの場所で、2026年の<フジロック>を共有していた。





想定外の天候、数々のサプライズ、そして想像以上のライブ体験。予定通りにいかないことさえ、苗場ではいつしか忘れられない思い出へと変わっていく。それこそが、2026年の<フジロック>だった。
また来年、この苗場でどんな“想定外”が待っているのか。今から楽しみでならない。

Text:高久大輝
Photo:Shimizu Soutarou
Edit:Yu Oda
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