Hostess Club Weekender 2013.JUNE
2013.06.08(SAT)DAY 1@Yebisu Garden Hall
気づけばもう5回目、たった1年あまりで洋楽ファンのマストGOな音楽イベントとして定着した<Hostess Club Weekender(以下、HCW)>。2日間でキッパリとカラーがわかれた挑戦的かつ豪華絢爛なラインナップを提示し、古巣=恵比寿ガーデンホールにカムバックして開催された今回は、まさしく「第二章突入」と呼んでも差し支えない興奮と盛り上がりを記録した。ステージ転換中も飽きさせない工夫やホスピタリティはさすがだし、エビス様の記念撮影パネル(!)を設置してみたり、来場者限定でシガー・ロスのニュー・アルバム『クウェイカー』が全世界最速先行試聴できるなど、次々と新しい試みを取り入れながら進化している点も頼もしい。ではさっそく、北欧勢が大集結した初日の模様をプレイバックしよう。
北欧、US、UK揃い踏み。メロウかつ実験的なサウンドに酔いしれた序盤
北欧代表の先鋒は、デンマーク・コペンハーゲンからやって来たセーレン・ロッケ・ジュールことインディアンズ。「ズ」と名乗ってはいるがれっきとしたソロ・プロジェクトであり、シンセサイザー&プログラミングによる荘厳かつ静謐なサウンド・スケープと、性別を超越したハイトーン・ヴォーカルの絡みは「ひとりビーチ・ハウス」とも形容したくなるし、筆者は第1回目の<HCW>で同じポジションに登場したユース・ラグーンの姿を重ねていたりもした。名門〈4AD〉からのデビュー・アルバム『サムウェア・エルス』の収録曲を中心に、後半の“I’m Haunted”ではアコギを加えるなど、意外にもバンド感の強いアンサンブルは今後の可能性を期待させるには充分。いつかグライムスちゃんとの競演も見てみたいなー、なんて思いました。
続く二番手は、インディアンズのレーベル・メイトでもあるLA出身のアンドリュー&ダニエル・エイジド兄弟からなるインクだ。ライ、ディスクロージャー、アルーナジョージといった注目アクトたちと並べて「インディーR&B」の代表格として語られることも多い彼らだけど、その音楽性は超メロウで、とろけそうなほどスウィート。アンドリューによるギター・アルペジオは時にオリエンタル風味を漂わせ、そこにダニエルがローズ・ピアノを奏でながらデュエットすると、オーディエンスはたちまち彼らの世界に引き込まれていく。元スタジオ・ミュージシャンという経歴もさることながら、次第に熱を帯びていくソウル/ファンクネスは、たしかにディアンジェロの名前が引き合いに出されるのもうなずける。バック・ビートはラップトップに委ねられていたため、惜しくもフル・バンドのセットは実現しなかったものの、デビュー作『ノー・ワールド』の楽曲群がより親密に感じられるステージだったことは間違いない。
前もって日本人シンガーのSalyuのゲスト参加がアナウンスされていたジーズ・ニュー・ピューリタンズは、この日唯一のUKアクト。個人的にもSalyuのライヴには何度も足を運んでいるので、一体全体どんなステージに仕上がるのか見当もつかなかったのだけど、オープニングの“Spiral”からほぼ“準メンバー”と言えるポジションで活躍していたのには驚いた。「どこの宗教儀式ですか?」と問いたくなる呪術的でヒプノティックなサウンドの応酬には置いてけぼりをくらうファンも多い様子だったが、フリューゲルホルンやフレンチホルンなどのホーン隊や、サポートのキーボーディストを招くことでミュージカルをも彷彿とさせるドラマティックな曲展開は、近年のUSインディー勢とも共振する部分がある。しかもそのホーンの音色が鍵盤とユニゾンしたり、ドラムス&パーカッションによるトライバル・ビートにグライム的な歌唱が乗っかったり、やってることは相当ストレンジで実験的。今年4月に公開された最新作『フィールド・オブ・リーズ』のティーザー映像ではストリングスや銅鑼なども導入しているようだったので、今後ますます化けていきそうだ(何しろ、この日がワールド・ツアーの初日)。当然のようにキラー・チューン“Elvis”を含む1stアルバムからのナンバーは無かったが、このまま天上天下唯我独尊を突っ走ってほしい。
祝祭空間のチーム・ミーと、キャリア集大成のムーム。北欧の男女混合バンドにハズレ無し!
メロウ&ディープなパフォーマンスが続くこの日(正直ちょっと寝落ちしました…)、弾けんばかりの笑顔で祝祭空間を作り上げたのは北欧代表2組目、ノルウェー出身のチーム・ミーだ。バンド・ロゴの入った巨大なバックドロップと、色とりどりの風船やペナントがあしらわれたステージにメンバーが登場するやいなや、フロアからは凄まじい歓声。1曲目の“Patric Wolf&Daniel Johns”からバンドもフルスロットルでそれに応えていく。フロントマン不在とも呼べる前列5名の賑やかなヴォーカルに、シンセ×3台による幻想的なフレーズ、そこにシューゲイザー・バンド顔負けの轟音ギターが重なって、まるでブリザードのように荒れ狂うサウンドは圧巻の一言。「一緒にシンガロングしてくれたら嬉しいな」と告げて始まった“Dear Sister”では大量のバルーンが上空を舞い、彼ら最大のヒット・ソング“Show Me”ではオーディエンスからの合唱まで巻き起こる。前回の<HCW>では昨年の初来日時のドキュメンタリー映像が流されていたが、フェイス・ペイントやヘアバンドでコスプレしたお客さんが多かったように、今回も愛されまくり。筆者は初めて彼らのライヴを体験したのだが、チーム・ミーの楽曲はただ無邪気に楽しいだけじゃなく、人生の「光と影」がきちんと描かれているのが素晴らしい。
初日のヘッドライナーにして、北欧代表3組目はアイスランドが誇る音楽集団ムーム。暗転したステージに1人ずつメンバーが加わっていく何てことない演出だが、場内のオーディエンスは息を呑むようにそれを見つめる。オープナーはウィスパー・ヴォイスの掛け合いがあまりにもキュートで美しい“The Land Between Solar Systems”。「ボクタチハ、ムームデス」というグンナルのMCでフロアの緊張感は一気に解かれたものの、精緻にプログラミングされた電子音と、メンバーそれぞれが担当パートを変えながら紡いでいく生楽器のサウンド・スケープはさすが。「新曲をライヴでやるのは今日が初めてなんだよ!」と語っていたように、この夜は8月にリリース予定の最新アルバム『スマイルウーンド』のワールド・プレミア・ショウ。お披露目された“Toothwheels”などの完成度の高さがすでに証明していたけれど、初期メンバーにして美人双子姉妹の片割れ=ギーザ・アンナが大健闘していることもあり、「原点回帰」とも呼べる名盤に仕上がっていそうである。そのフィーリングを反映してか、「これはフレンチ・キスについての歌」と紹介された“Blow Your Nose”、ギーザの前衛的すぎる「頚椎ポキッ」ダンスが話題になった“The Ballad of the Broken Birdie Records”、あるいはグリーン・ライトに照らされた“Green Grass of Tunnel”……etc、とキャリア集大成的なセット・リストは、熱心なファンでなくとも大満足だろう。「ファミコンに捧げるよ」という謎のMCで始まったアンコール曲“The Island of Children’s Children”では、2本のギターを剣士のごとくクロスさせて大団円。実験性と人懐っこさが同居したムームのライヴは、何度見ても心をほっこりさせてくれる。
この日の5組に明確な共通点は無いかもしれないが、生演奏とプログラミング、テクノロジーとノスタルジー、ライヴハウスとダンスフロアーー。あらやる境界線を軽々と飛び越えていく知性とアイディアに満ちた、実に興味深いラインナップだったと思う。そして、北欧の男女混合バンドにハズレ無し! と改めて実感した夜でもあった。ウェーヴスのクラウド・サーフにヒヤヒヤし、トラヴィスの「いいひと」オーラに誰もが幸せになった2日目の模様は、後日アップ予定です。
text by Kohei Ueno
photo by 古溪 一道(コケイ カズミチ)