Hostess Club Weekender 2013.JUNE
2013.06.09(SUN)DAY 2@Yebisu Garden Hall
おそらく、<Hostess Club Weekender(以下、HCW)>史上最速で1日券がソールド・アウトを記録したであろう2日目(もちろん2日通し券も完売)。ごくわずかな枚数が発売された当日券も瞬殺だったようで、あらためて今夜のラインナップ…というかトラヴィス人気の凄まじさを痛感した。
しかし、惜しくもチケットを買いそびれた人たちや、ただ純粋に生ビールが飲みたかっただけ(笑)の友人がガーデンプレイス敷地内の「ヱビスビール記念館」に集まっていたので、ステージ転換中の休憩ついでにみんなで談笑。アクセスの良い恵比寿にカムバックしてくれたことで、思わぬ一体感が生まれていたのは個人的にも楽しかった(なんと、リトル・バーリーの面々が取材で現れるという一幕も)。やや話がそれたが、UKアクト大集結となったこの夜の素晴らしいライヴ・パフォーマンスを振り返ってみたい。
2日目はのっけからエンジン全開! 2000年代のギター・ヒーローにもシビれまくり
2日目のトップバッターは、2011年の<フジロック>より約2年ぶりの来日となったブリティッシュ・シー・パワー。2月にリリースされた最新作『マシンナリーズ・オブ・ジョイ』も評判の彼ら、タイトル・トラック“Machineries Of Joy”でゆったりめのスタートだったが、続く1stアルバムからの名曲“Apologies To Insect Life”以降は骨太なギター・ロックとシャウトでフロアをどっかんどっかん沸かせてくれる。かと思えば、再びピアノとヴァイオリンを主軸にしたフォーキーなナンバーがあったり、中盤ではヤン&ハミルトン兄弟がメイン・ヴォーカルをスイッチしてみたり、サンプリングされた犬の泣き声をオーディエンスと一緒にマネしてみたり(そんなことをやってるから、ドラマーのウッドがカウントをトチっていたけど・笑)、短いセットの中でも見せ場はたっぷり。ステージ・ダイヴやお客さんとのコール&レスポンスもバッチリで、10年選手の実力はダテじゃないってワケだ。
続いてステージに現れたのは、ドレッシーな装いのリトル・バーリー。いやはや、お恥ずかしながら私、プライマル・スクリームのツアーでくっ付いてきたバーリー君しか見たことなかったんですが、母体ではあんなにギュインギュイン弾けて、歌えて、魅せる、ショーマンシップのある人だったんですね…。ポール・ウェラーやモリッシーのような大御所が認めるのもウンウンとうなずけます。レスポールからフライングVまで3種類ものギターを使い分け、不協和音のチョーキングに、アクロバティックなカッティングまで、その佇まいはまさに2000年代のギター・ヒーロー。ソロ・プレイで「キャーッ!」という歓声が轟いたのなんて<HCW>史上初めてのことだったのでは(笑)。現在の3人は文字通り“鉄壁”のアンサンブルだが、ドラマーのヴァージル・ハウ(イエスのギタリスト=スティーヴ・ハウの息子!)が持つキャラクター性もこのバンドの魅力で、“New Diamond Love”のプレイ前に「ちっとは英語イケんだろ? たったの3ワードだから、一緒にシンガロングしてくれよな!」と半ば強制的にオーディエンスを参加させながら、常に昇天しそうなアヘ顔で叩いている点も素晴らしい。最後はウィルコ・ジョンソン直伝(?)の“Postcode Blues”で、「I Love You♪」のコール&レスポンスを巻き起こしながらフィニッシュ。初期ニルヴァーナを思わせるヘヴィー路線な新曲も最高にクールだったし、次は単独公演でもっと見てみたい。いやー、心の底からシビれました。
唯一のUSバンド=ウェーヴスの健闘とエディターズの神音響に震撼したガーデンホール
2年前のジャパン・ツアー以来、お久しぶりのウェーヴスはネイサン・ウィリアムス(Vo&G)、ステファン・ホープ(B)、ジェイコブ・コッパー(Dr)という不動のトリオにサポート・ギタリストを加えた4人編成。UKバンド4組のド真ん中に挟まれるという超アウェーなシチュエーションも何のその、一発目の“Idiot”から飛ばす飛ばす。最新4th『アフレイド・オブ・ハイツ』の収録曲もお披露目されたが、全体的にかつてのローファイ/ジャンク感はすっかり消え去り、「大人になっちゃったなー」と少し残念に思っていたのだけど、興が乗ってきたネイサン(体重もタトゥーも増えてる)はやっぱり永遠のワルガキでした。「おいおい静かだなあ。ギャーッ!!!」と奇声を上げたのも束の間、「テメーら、あとでダイヴするから絶対キャッチしろよ」と最前列にいた明らかに“トラヴィス待ち”と思しきお客さんをヒヤヒヤさせ、後方で見ていた筆者は爆笑しながらその光景を見つめていた。静と動のコントラストがスリリングな新曲“Demon To Lean On”や、物販のTシャツのデザインがまんまニルヴァーナだったりして、今の気分はグランジ/オルタナなのかな? と考えていたら出ました、まさかのソニック・ユース“100%”のカヴァー! 原曲よりもルーズでぐちゃぐちゃなアシッド感はもちろん、そのまま“Green Eyes”~“No Hope Kids”へと繋げるコンボにはモッシュピットも大変な狂騒に。ネイサンのダイヴは失敗しまくりだったけど、バンドとして着実に成長していることがわかって大充実のパフォーマンスだった。そういえば、リトル・バーリーのアルバム・タイトルは『キング・オブ・ザ・ウェーヴス』で、ウェーヴスの前作は『キング・オブ・ザ・ビーチ』なんですよね。もしかして〈ホステス〉さん、確信犯?
トリ前となる4組目は、およそ7年ぶりの来日となったエディターズ。この時を待っていファンがどれほど多かったことか! もうね、オープナーの新曲“Sugar”からして音、良すぎ。ギターの響き、ヤバすぎ。恵比寿ガーデンホールの歴史に残るほどの超クリア&ハイブリッドなサウンド・スケープと、軟体動物のようにステージ上を動き回るフロントマン=トム・スミスの色褪せぬバリトン・ヴォイスだけでもうお腹いっぱいなのに、前半から“Munich”や“Bullets”などの特大アンセムを次々とブチ込んでくるもんだから、当然オーディエンスも全身全霊で受け止めるほかないわけです。大学時代より苦楽を共にしているメンバー同士の信頼感も並大抵のものではなく、ゴスペルすら彷彿とさせるコーラス・ワークにはお世辞抜きに震えた。そして“The Racing Rats”でオルガンを弾きながら歌うトムの貫禄たっぷりなヴォーカルは、もうイアン・カーティスと比べられることはないだろう。フィナーレに新曲の“Honesty”を持ってくるあたりも、バンドとしての充実感と自信をうかがわせた。6月末にリリースされる4thアルバム『ザ・ウェイト・オブ・ユア・ラヴ』の全貌も楽しみだが、次はぜひワンマン・ツアーで帰って来てほしいところ。でも、7年はもう勘弁してください(涙)。
フランの歌心・親心に泣いた名曲オンパレードのトラヴィス
さあ、2日間のイベントを締めくくるのはもちろんこのバンド、UK音楽界の良心トラヴィスだ。英国ではフェスティバルのヘッドライナー・クラスであるエディターズとトラヴィスが、1,500人規模のキャパでまとめて見られてしまうなんて、イギリス人が聞いたら卒倒ものだろう。尋常ではない大歓声に迎えられる中、なんと1曲目にプレイされたのは新曲“Mother”。8月にリリース予定の最新アルバム『ウェア・ユー・スタンド』のオープニング・ナンバーでもあるが、前評判では本国でもほとんど新曲をやっていない…と聞いていただけにビックリ。前作『オード・トゥ・ジェイ・スミス』のハードなサウンドに戸惑ったファンも安心・納得できる、相変わらずのメロディー・メーカーぶりが際立っている素晴らしい楽曲だった。
サービス精神旺盛な彼らのこと、以降はファンの期待を1ミリも裏切らないオールタイム・ベストな曲目で、“Selfish Jean”や“Writing to Reach You”、“Driftwood”といった世紀の名曲たちを惜しげもなく連発。フェルトハットを被ったフラン・ヒーリィはじめメンバーの調子もすこぶる良く、“Moving”や“Where You Stand”のような新曲群も完璧にハマっていたし、フランがこれまたよく喋る喋る。“Selfish Jean”の演奏前に「ワン・ツー・ス…おっと、日本語でやろう。イチ・ニィ・サン・シ」とカウントしてファンの心をガッチリつかむと、「この曲では僕はギターを弾かなくていいんだ。フレディ・マーキュリーみたいに歌えるね!」と言ってモノマネを披露してオーディエンスをドッと沸かせ(演奏中にはボノのモノマネも混ぜてました・笑)、“My Eyes”では「これはパパになった時の気持ちを書いた歌なんだよ」と息子へのデレデレっぷりを語っていたら歌詞をド忘れしてしまったり、とにかく終始アットホームで優しいステージ。新曲を「ベイビー」と呼んでしまうあたり、1曲1曲に込められた愛情やストーリーの深さがハンパじゃないのだ。ああ、フランの子どもが羨ましい!
“Closer”での大合唱を挟んだ終盤は“Sing”、“Side”、といった超ド級のアンセムを立て続けに投下し、「ソングス(楽曲そのもの)についての歌」と紹介された“Slide Show”では音楽への感謝を歌い上げ、『ザ・マン・フー』の隠しトラック“Blue Flashing light”というレア曲までプレイすると、本編ラストはやはり“Turn”。だが、これほど予定調和が嬉しいバンドも他にいないんじゃなかろうか。メンバーみんなが1本のアコギに寄り添ってアカペラするアンコールの“Flowers in The Window”も、お馴染みの雨唄“Why Does It Always Rain On Me?”も、数年前とまったく変わってないし、色褪せない。そう、トラヴィスが素晴らしいのは、いつまでもその普遍(不変)性が失われないからだ。MCで「今のメンバーが引退したら、僕らの子どもたちにバンドを継いでもらおうよ(笑)」なんて冗談めかして言っていたフランだけど、トラヴィスの残してきた楽曲は永遠に人々に聴かれ続けていくんだろうなーーと確信した夜だった。もちろん、まだまだ現役ですけどね!
相変わらず「次」を見通すのが上手い<HCW>だが、年末開催の次回=第6回は再びUSインディー・モードにシフト。奇跡の再始動を遂げたニュートラル・ミルク・ホテルと、新作『モノマニア』も絶好調なディアハンターをヘッドライナーに冠して、同じく恵比寿ガーデンホールにて行われる。NMHのフロントマンであるジェフ・マンガムとディアハンターはいずれも<オール・トゥモローズ・パーティーズ(以下、ATP)>のキュレーターを務めた経験があるが、その<ATP>が年内で終了(デイ・イベントとしては続けると思われるが)をアナウンスした今、もはや<Hostess Club Weekender>こそがインディペンデントな音楽イベントの未来なんじゃないかと、筆者は本気で思っている。これからのラインナップ続報にも期待・大だ。
text by Kohei Ueno
photo by 古溪 一道(コケイ カズミチ)