ゼロ年代随一の細やかな感性を披露したフォー・テット

3組目はオマール・スレイマンのアルバムもプロデュースしたキエラン・ヘブデンことフォー・テット。直前のオマールがフロアを温め過ぎた状態でのやや不利なシチュエーションでのバトン・タッチ。しかしそのパフォーマンスはといえば相変わらずのクオリティ。細部まで美意識を行き渡らせながらミニマルにループを積み重ね空間を作り上げていくその手捌きは流石という他ない。

【第6回HCWレポ(後編)】シリアのタモさん(!?) で踊り狂い、ディアハンターの轟音に心酔した2日目のレポートをお届け! music131210_hcw_fourtet_kaz6928

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最新作『ビューティフル・リワインド』からのスペーシーなサイケ・トラック”Ba Teaches Yoga”に始まり、じっくりと30分ほど掛けて丹念にフロアを温め、後半では近作、特にブリアルとのコラボ以降に顕著になってきている上モノの流麗さに頼らないベースを有効活用したダンス・オリエンテッドなモードを発動。その緻密に工芸品を組み上げていく様にフロアに熱気を与える。ダテに場数を踏んでいないキエラン、与えられた条件下で着実にフアナ・モリーナを迎え入れる下地も用意した充実のステージ。

音響の魔術師=フアナ・モリーナが魅せた幽玄の美

フォー・テットのストイックな音像にすっかり整えられたステージに現れたのはブエノスアイレス出身のフアナ・モリーナ。ミュージシャンとしてのキャリアが日本で広く知られるようになったのはこの10年ほど。ベスト・アクトの呼び声も高かったこの日の彼女のパフォーマンスは細野晴臣の「“どう見られたいか”ではなく、“どう見せたいか”を軸に表現の研鑽を積み重ねてきた」というフアナの評そのもの。

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完璧な腕前のギターを瞬間的にサンプリングし、ループしながらダビングしていくその手さばきはまるでマジックのように鮮やかだ。ギターもアンプからではなく、ライン出力しているのも音色のニュアンスをコントロールしやすくする為なのだろう。そして鳴らされる音には一切無駄がない。前半は新作『Wed21』の肩慣らし的な雰囲気もあったと思うが、持ち時間の間違えに気が付いてからの、フアナ単独でのループや多重コーラスをマニピュレートした即興パフォーマンスは新作にも通じる肉体性が最良の形で現れていて、我々の心を鷲掴みにした。そして繊細に構築された音像でありながら、チャーミングでキュートな歌声が同居していることころが必要以上にハイブロウな印象を与えずオーディエンスを惹き込める強みかもとも思ったり。想像以上の素晴らしいパフォーマンスに恵比寿ガーデン全体から大きな喝采を浴びたこの日随一のアクト。

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