音楽フェスと聞いてまず思い浮かぶのは、もちろん熱狂的なライブ体験。しかし<FUJI ROCK FESTIVAL(以下、フジロック)>の魅力は、それだけでは語り尽くせない。ライブの合間に森を歩き、川に入り、山の景色を眺めてチルする時間。ドラゴンドラ、森のピアノ、苗場温泉、THE PALACE OF WONDER……そこにあるのは音楽とともに、あらゆる感覚を解放する非日常の時間だ。今回は「チル」や「非日常」をキーワードに、テーマパークとしての<フジロック>をガイド! ライブを観るだけでは終わらない、苗場で過ごす時間そのものの豊かさに目を向けてみよう。

フィールド全体が“遊び場”として解放
1997年の富士天神山スキー場と1998年の豊洲ベイサイドスクエアを経て、1999年からは苗場スキー場を舞台に開催されてきた<フジロック>。日本最大級の野外フェスティバルとして、GREEN STAGE・WHITE STAGE・RED MARQUEE・FIELD OF HEAVENといった多様なステージでの国際色の豊かなライブはもちろん、フィールド全体が“遊び場”として解放されている。

ここで挙げた遊び場とは、単に音楽を聴くためだけの場所ではない。歩き、眺め、触れ、立ち止まり、感じるという一連の行為すべてが、<フジロック>ならではの体験価値として成立。アクティブでありながら「チル」できる余白が、随所に存在しているのが大きな魅力と言えるだろう。
その体験の豊かさというのは、SNSなどで目にするハイライト映像だけでは伝わりづらい。太陽の眩しさ、風の気持ち良さ、土や草の匂い、水の冷たさなどを五感で受け取りながら、苗場にいる時間を特別なものにしていく。それこそが<フジロック>でこそ味わえる「非日常」だ。
そして今年の<フジロック>もまた、音楽ファンだけではなく「とにかく非日常を味わいたい」という人々をひきつける多彩な体験型コンテンツが、フィールドのいたるところに点在している。何度も言うが<フジロック>は、ライブ以外の時間だって十分すぎるほどスペシャルなのだ。
絶景と自然体験が誘う苗場ワールド


<フジロック>を語る上で欠かせない自然との対話。大自然に囲まれたロケーションそのものがオンリーワンの特徴であり、その象徴とも言えるアトラクションが「ドラゴンドラ」だ。
RED MARQUEEの横から歩いて乗り場に直行できるドラゴンドラ(乗車料金・往復2,500円)は、フジロック全エリアが見渡せる日本最長のロープウェー。片道・約25分にわたって湖・森・渓流などの大パノラマを楽しめる空中散歩は、このフェスが持つスケールを感じられる。


そして会場内で最も高い位置にある「Sky Grass」は、民族楽器体験・キッズDJ体験・ジャムセッションなどを大人から子供まで楽しめるエリアで、ワークショップや軽食なども用意。
フェスの喧噪からしばし離れ、目の前にある雄大な風景のみを眺めることで、解放されていくテンション。<フジロック>ならではの自然との融合を、ぜひゆったりと体験してほしい。
“音楽+α”の価値を生むアートやカルチャー
<フジロック>は音楽だけではなく、アートやカルチャーの表現にも満ちている。会場内の各所にある個性豊かな作品は、単なる飾りではなく、訪れた者に問いかけてくるような存在だ。

中でも象徴的なのが「森のピアノ」。木漏れ日が差し込む空間にひっそりと置かれたピアノは、ギャラリーのように眺めるのではなく、実際に触れ、周囲の環境と共鳴させながら自分自身で音を鳴らすためのものだ。知らない誰かが残したフレーズと交差し、自分の音が風に溶けて消える。そんな即興性を楽しむスポットでは、臆することなく、そのときの気分であなたも弾いてみよう。
また、リサイクルアートやインスタレーションは、苗場の森をキャンバスにした展覧会のように随所に配置されている。それらは視覚的な驚きだけではなく、現代社会における“循環”や“共存”といったテーマを暗示。会場の至るところで、見る者の感受性をいつの間にか刺激している。

音楽だけを目的にやって来た人も、気が付けばアートピースの前で立ち止まり、写真を撮ったり、言葉を交わしたりしている。これは来場者が、<フジロック>の“音楽+α”の価値に共感している証拠。 余白を活かした文化体験が、このフェスの世界観を生み出す一端を担っているのだ。
心身のペースを整える休憩時間をデザイン

長丁場のフェスを楽しむうえでは、ライブとライブの間で身体の疲れをリセットするために、休憩ポイントを設けることが快適に過ごせるかどうかの決め手になる。<フジロック>では万全な状態で音楽を浴びるために、自分のペースで非日常の中での休息時間をデザインしてみよう。
まず知っておきたいのが、キャンプサイト利用者向けのシャワーと「苗場温泉」の存在だ。キャンプサイトには簡易シャワーが設置されており、汗や泥を流してさっぱりできるスペースとして多くの参加者が利用。また有料で利用できる苗場温泉は、身体の疲れが一気に抜けていく感覚を味わえる。こうした設備は、数日にわたって現地で過ごす人は積極的に利用したいサービスだ。
また会場内では、休憩スポットやラウンジのサービスパス(例:FUJI ROCK go round)なども用意されている。専用ラウンジは休憩スペースやトイレなどを完備し、場内奥まで移動する際のバス移動や優先乗車が可能なサービスなども付帯。特に日差しが強い日中や、夕方の涼しい時間帯をゆったりと過ごしたいときに、こうしたサービスを活用することで体力を温存できるだろう

そして、観客自身が“自然の休憩スポット”として使っているのが、川辺や森の木陰。ステージの合間に森を散策したり、せせらぎの音を聞きながら座ったりするだけで、都会では味わえない特別なチェアリング時間が生まれる。それらは<フジロック>の参加者が親しんできた過ごし方であり、何もしない時間を持つことを許容する文化が、このフェスの自由な雰囲気を生み出している。
カオティックな夜のフジロック空間へ
<フジロック>の夜は、一度体験したら忘れられない幻想性を抱いている。日中のステージが熱を帯びて観客を巻き込む熱狂の舞台だとすれば、夜の空間はむしろ、知らず知らずのうちに迷い込んでしまった異世界のよう。その筆頭と言える場所が「THE PALACE OF WONDER」だ。

THE PALACE OF WONDERは入場ゲート手前に出現する、チケットがなくても無料で楽しめる大人の遊び場。光と音が交錯する巨大なインスタレーション空間で、レーザーやイルミネーションが暗闇に浮かび上がる光景が、苗場の夜にあなたを誘う。廃材を使った巨大なオブジェや遊具などのアート作品、パフォーマーたちによる息を呑むサーカスなども空間に花を添えている。
そして「THE PALACE OF WONDER」エリア内には、カジノバー「Vegas in Milk」が店を構え、さらに“世界一美しい移動式テント”と呼ばれる「CRYSTAL PALACE TENT」も鎮座する。テント内にはステージが階段状に並び、その中央には木製ダンスフロアが広がる。厳選されたバンドとDJによるパフォーマンスが夜通し繰り広げられるこの場所では、音と食と酒と眠気が混ざり合ったカオスな空間が爆誕。この場所こそ、フジロック民が最後に行き着く夜の居場所だ。
そうした夜の体験は、タイムテーブルを軸にしたフェスの昼の時間とは異なる、自由で曖昧な過ごし方に浸れる。それはある意味、非日常が日常になる時間。音楽を聴きに来たはずなのに、いつの間にか景色・時間・空気そのものを目的にいるような感覚がそこには存在しているだろう。
1年に1度の感覚を味わうテーマパークへ
<フジロック>が唯一無二の存在であり続ける理由のひとつに、他の国内フェスと比べてもとびきり、ライブ以外の時間で観客それぞれが自由で心地よい過ごし方を享受している点にある。
<フジロック>では、観客自身のペースでフェスそのものが再構築される。そこには「なにをしなくてはいけない」「どこに行かなくてはならない」という焦りはない。どのように過ごすのかはあなたの自由であり、それこそがこのフェスの本質的な魅力。ただフィールドにいるだけで、チルと非日常が身体の中に浸透していく。それこそ<フジロック>がテーマパークと呼べる所以だ。
音楽をメインの目的に来てもいい。音楽以外の時間を贅沢に味わうことを目的に来てもいい。どちらにせよ、今年の夏の苗場で浸る時間では、音楽・自然・遊び・カルチャーなどが有機的に混ざり合う。その1年に1度の感覚を、ぜひ自分自身の身体と感性で存分に味わってほしい。
Text by ラスカル (NaNo.works)
Edit by Qetic編集部
