“推し”がいるから音楽を聴く。そしてその推しを辿って知らなかった音楽に出会う──そんな聴き方が、最近の音楽体験のスタンダードかもしれない。ジャンルや国境を越えて音楽を知る感覚は、ストリーミングやSNSによって日常のものになったけれど、その延長線上にあるリアルな体験として改めて注目したいのが<FUJI ROCK FESTIVAL(以下、フジロック)>だ。今回は出演するアーティストを起点に、「〇〇が好きならこのアーティストもきっと刺さるかも」という超個人的な数珠繋ぎで、フジロックのラインナップ&レコメンドを「推し活」の感覚で紹介していく。
「推し活」で変わった音楽との出会い方
昨今の音楽体験を語る上で、「推し活」という言葉は欠かせない(と今回は言い切ってしまおう)。かつてのようにジャンルやシーン単位で音楽を把握するのではなく、まず「この人が好き」という感情を起点に、推しのアーティストから連想ゲーム的に次の音楽へと辿り着いていく。
ストリーミングやSNSが当たり前に存在している世代は特に、その流れを自然に享受している。Spotifyのレコメンド、TikTokで流れてきた数十秒の音、友人のストーリーズに映り込むライブ映像など。そうやって受け取った情報は断片的でありながらも、感覚的には地続きだ。
そしてこれまで無意識に出会ってきた音楽の点と点を、リアルな体験としてつなげてくれる場所が、今年は7月24日(金)・25日(土)・26日(日)に開催される<フジロック>だ。
この巨大な音楽カタログのようなフェスは、3日間にわたって、ロック・ポップス・ヒップホップ・エレクトロニカ・ワールドミュージックなど幅広い音楽が多様なステージで鳴り続ける。
重要なのはそれらを学ぶのではなく、「推し活」の延長として体験できること。知識がなくても、予習をしなくても、好きな音に耳を傾ければいい。リスナーにとって<フジロック>というフェスは、推し起点の音楽を聴き回れる、贅沢極まりない巨大なフィールドとして存在している。
国内アーティストを起点に広がる数珠つなぎ
ここからは国内アーティストを起点に、ラインナップを数珠つなぎでいくつかレコメンド。
まずはやはり、今年のラインナップにおいてとりわけ話題を集めている初登場のFujii Kaze(25日・GREEN STAGE)。たとえば彼が大好きなら、インディ・ロック界で“最も魅力的で謎めいた存在”と称されるMITSKI(26日・WHITE STAGE)はいかがだろう。感情の機微を丁寧にすくい取る歌と、ライブでの圧倒的なパフォーマンス力は、Fujii Kazeのリスナーとも深く共鳴しそうだ。
一方で、現行バンドシーンが近い存在の人は、Kroi (25日・WHITE STAGE)や Bialystocks(25日・GREEN STAGE)を起点に。その先にはファンク・サイケデリックを横断する米ヒューストンのトリオで、土曜のヘッドライナー・KHRUANGBIN(25日・GREEN STAGE)が待つ。
日本のロックリスナーから支持される結成30周年の ASIAN KUNG-FU GENERATION(24日・WHITE STAGE)推しなら、独創的なポップセンスで聴く者を虜にするTHE LEMON TWIGS(26日・RED MARQUEE)をぜひ。27年ぶりに出演するHi-STANDARD(24日・GREEN STAGE)が好きなら、米ボルチモア出身のハードコア・バンド・TURNSTILE(24日・GREEN STAGE)も必聴か。どんなジャンルでも好きなアーティストとリンクする、同等かそれ以上に最高なアーティストが世界にはいる。
海外アーティストは「感覚」でつながる
<フジロック>における海外アーティストは、初見だとしても、詳しくなくてもいい。重要なのはジャンルや国籍ではなく、どんな感覚を持った音楽なのかという点でつながりにいこう。
たとえば「静と動のコントラスト」や「美しい余白」といった空気に惹かれる人は、2010年の初出演から数えて4度目の<フジロック>で初のヘッドライナーを務めるThe xx(24日・GREEN STAGE)をぜひお見逃しなく。2025年にアルバム制作に向けて再集結した彼らの、ダンス・エレクトロニック志向に進化したサウンドは、夜のGREEN STAGEでこそ真価を発揮するはずだ。
「重低音とビート」「社会性を帯びたムード」に惹かれるのなら、MASSIVE ATTACK(26日・GREEN STAGE)のステージへ。ヘッドフォンで聴いていた音楽が開放的な空間で鳴ったときの、まったく異なる感動を浴びてほしい。ダンスミュージックの文脈なら、幾度となくフジロックの夜を熱狂の渦に巻き込んできたBASEMENT JAXX(25日・GREEN STAGE)も外せない。世界中のダンスフロアを揺らしてきた彼らが苗場に帰ってくる。クラブともライブハウスとも違う野外フェスならではの開放感と多幸感に包まれた、まさに巨大なダンスフロアと化す祝祭空間を全身で体感してほしい。
これらの体験は、アルゴリズムでは提示されない。 だが、あなたの信じる好きを頼りに苗場中を練り歩いていれば、自然と辿り着ける距離にある。それが<フジロック>の醍醐味だ。
偶然が「次の推し」を連れてくる場所
音楽に詳しい人からしたら、ベタなアーティストのラインナップを例に挙げて紹介したが、近年の<フジロック>はとりわけ、そういう玄人だけが集まるフェスではないと感じる。ゆえに筆者も含めて、知識や経験にとらわれずに、自分らしく今年の<フジロック>を楽しんでみたい。
<フジロック>の魅力は、ほかの国内フェスと比べても、予定外の出来事がより肯定されていることにある。タイムテーブル通りに動かなくてもよくて、むしろ少し迷子になるくらいがちょうどいい。食事中に聴こえてくる歌声、休憩中に遠くから響くベースライン、移動中に聞こえてくる観客の声。それらに誘われて、なんとなく立ち寄ったステージに素敵の出会いがあるだろう。
そうした偶然が「推し活」を次のフェーズへと進めてくれる。ビギナーほど<フジロック>では知識よりも感覚を優先。「知らないから行ってみる」選択に寛容な空気が、苗場にはある。
2026年の夏、<フジロック>での体験を通して、あなたのプレイリストにはきっと新しい名前が刻まれる。その始まりは、すでにあなたが愛している音楽のすぐそばにあるはずだ。
Text by ラスカル (NaNo.works)
Edit by Qetic編集部
