今年の<Jazz World Beat>の観どころ
4年前の初回から、このジャズ・フェスティバル<Jazz World Beat>の司会をさせていただいている、中川ヨウと申します。世界から集うユニークな出演者たちに惹かれ、ジャズ研究者としても、一音楽ファンとしても観たかったので、それなら司会をしながらガッチリ拝見しようという算段で、MCを担当しています。
2019年の第4回も、さまざまな国で生まれた多彩な音楽が、めぐろパーシモンホールの舞台に並ぶのが楽しみです。夕方17時から大ホールで行われる3つの大編成バンドの共演は、凄いことになりそうです。まず、12名ほどの編成の“ファンファーレ・チォカリーア”はルーマニア出身の、ジプシー・ブラス・バンド。伝統音楽からポップスまで、どんな音楽でも自分流に演奏してしまう、驚異の消化力、音楽力をもったバンドです。ルーマニアに、地図にも載っていない、ゼチェ・ブラジーニという人口400人の小さな村があります。成人男性は約100名しかいないのですが、その内90名が管楽器を吹くという、驚異のブラス村なのです。ロマでもある彼らは、元来音楽の才能もあったのでしょう。農業に従事しながら、管楽器の演奏に邁進しているうちに、高速プレイの技術を身につけ、世界から注目されるようになりました。それが、今回6度目の来日を飾る“ファンファーレ・チォカリーア”なのです。
映画『アンダーグラウンド』や『黒猫・白猫』にもその音楽が使われましたから、ご存知の方も多いと思いますが、とにかく熱量が凄い。ブラスの音圧に加え、高速ですから、ますますエネルギーが高くなります。そこにジプシー音楽ならではの、オスマン帝国から続く長きに渡る伝統も加わり、「お客さんにはどんなに難易度の高い演奏でも、簡単にやっているように見せなければいけない」というロマの鉄則が加わりますから、平気な顔をしてエモーションいっぱい、テクニックも抜群の演奏を展開します。そこに日本側からベリー・ダンサーのNourahや、元上々颱風のシンガー、白崎映美が加わるというのですから、祝祭的な気分と妖しさが常より増すのではないでしょうか。
ファンファーレ・チォカリーアとは2014年のフジロック・フェスで共演。今回のファンファーレ・チォカリーア来日公演(大阪を除く)に同行する。
そして、ジェントル久保田率いる、人気の“ジェントル・フォレスト・ジャズ・バンド”です。スタイルは、1930年代にアメリカで大流行したスウィングのビッグバンドですが、演奏しているミュージシャンは気鋭の凄腕ばかり。勢い、演奏もキレッキレ。その彼らがオリジナルや往年の甘いメロディを演奏するのですから、カッコいいのです。歌はジェントル・フォレスト・シンガーズという3人組が担当しますが、歌も日本語のオリジナル曲が多く、その独自の世界に多くのファンが魅せられているわけです。
GENTLE FOREST JAZZ BAND「月見るドール」
もう一つの“たをやめオルケスタ”は、リーダーの岡村トモ子が率いる女子ばかりのビッグ・バンド。ラテン・アレンジが得意で、ジャズやシャンソン、はたまたオリジナル曲を自ら編曲し、楽しく踊れるラテン・ジャズを展開します。私が、この”たをやめ“を好きな理由を一つ書くと、「自分たちがやりたくて女子だけのビッグバンドを作り活動している」点ですね。当たり前だと思うかもしれませんが、他にある女性だけのビッグバンドは、男性のリーダーや編曲家が組んでいるところがほとんどです。どちらがいいとは言いませんが、女が作るか、男が作るかでちょっと視線に違いがあるのは、この”たをやめ”の元気さ、底抜けの明るさを観ていただければ分かると思います。
たをやめオルケスタ – DVDすてきな10執念ダイジェスト / Tawoyame Orquesta – DVD digest
今年は、3バンドとも、エンターテインメント精神120%の大編成グループばかりです。どうぞお楽しみになさってください!私も音圧に負けないように、体力を作って司会に臨みたいと思います。
さて、今回の“Jazz World Beat 2019”では、午後から響きの素晴らしい小ホールで、”アフタヌーン・サロン・ジャズ“も開催されています。質の高いジャズ・ビヨンドをお聴きいただいて、高い評価を得ています。今年は、オレンジペコーのギタリストである「藤本一馬」と鬼才ピアニスト「伊藤志宏」が美しいデュオを繰り広げ、大きな話題になりそうです。また、夜の部にも出演する「白崎映美」の、昭和歌謡を中心としたボーダレスかつ深い歌。「TokyoRomany」のジプシー音楽、ジャズ、民謡などが融合した音楽+ベリーダンス。そして「nouon Unplugged」という先鋭的な室内楽トリオと、例年に増して盛り沢山です。
今年は、エンターテインメントに優れたグループの参加が多いですね。ジャズは19世紀の終わりに生まれた時から、半世紀は踊るための音楽でした。さまざまな時代と21世紀の今が、ステージ上で混じり合う、ちょっと不思議で楽しいひと時を、ご一緒に過ごしませんか。お待ちしております!
Text by 中川ヨウ(ジャズ研究者、洗足学園音楽大学名誉教授)
小ホール『アフタヌーン・サロン・ジャズ』
出演者参考映像(出演者順不同)
Kazuma Fujimoto / Shikou Ito “Wavenir”
「月夜のらくだは泣いているだろうか」白崎映美
CLEAR Otoji +Ray +Nourah
nouon ▶︎ tsuyu
EVENT INFORMATION
Jazz World Beat 2019
2019.07.06(土)
めぐろパーシモンホール
大ホール
OPEN 16:15/START 17:00
¥6,500
小ホール
OPEN 13:00/START 13:30
¥4,000
1日通し券(大ホール+小ホール)
特別価格:¥9,000
大ホールのみ高校生以下 ¥3,000
EVENT INFORMATION
大ブラス・フェスティバル!
ファンファーレ・チォカリーア & 2ビッグ バンド
~たをやめオルケスタ、Gentle Forest Jazz Band~
2019.06.30(日)
よこすか芸術劇場
OPEN 15:30/START 16:00
S席:¥6,000
A席:¥4,500
ペア券(S席):¥11,000
プレミアム倶楽部サンクス料金(S席):¥5,000
※未就学児童は入場できません。
※学割はS席、A席。
※会員割はA席のみ。
EVENT INFORMATION
ファンファーレ・チォカリーア
2019.06.29(土)Chiba、船橋市民文化ホール
2019.06.30(日)Kanagawa、横須賀芸術劇場「大ブラス・フェスティバル!」出演
2019.07.02(火)Miyagi、えずこホール(宮城)
2019.07.04(木)Tokyo、武蔵野市民文化会館
2019.07.06(土)Tokyo、めぐろパーシモンホール「Jazz World Beat」出演
2019.07.07(日)Aichi、穂の国とよはし芸術劇場PLAT
2019.07.08(月)OSAKA、ビルボードライブ大阪
2019.07.09(火)Hyogo、兵庫県立芸術文化センター(完売)