2016年3月21日、日没頃。渋谷のBunkamuraオーチャードホールの入り口付近には、クラシックコンサート客らしからぬカジュアルなファッションに身を包んだ人たちで溢れかえっていた。欧米人の顔も多く、「チケット売ってください!」のカードを掲げた女性まで立っている。この日、幸運にもここにいる人たちは、音楽界で歴史的な瞬間に立ち会えることになるだろう。クラブミュージックとクラシックの融合を試みる前衛的なイベント<爆クラ!presents ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモニー交響楽団 クラシック体感系 ~時間、音響、そして、宇宙を踊れ!~(以下ジェフ×東京フィル)>が、開催されるのだ。

時間、音響、宇宙を踊れ!

本公演のサブタイトルに、「時間、音響、そして、宇宙を踊れ!」とある。なんのこっちゃと思ってしまうワードの並びだが、クラシックとクラブミュージックは対極にある思想の音楽のように思えて、実は「時間」「音響」「宇宙」のキーワードを頭に入れて聴き比べてみると、共通する部分が多くあることに気づくと、<ジェフ×東京フィル>のプロデューサーであり、ナビゲーターの湯山玲子は言う。<爆クラ!>は湯山氏が主宰するクラシックをクラブ仕様のサウンドシステムで聴き、トークするイベントで、<ジェフ×東京フィル>はそれをコンサートで体感する初のリアルイベントとして企画された。ジェフ・ミルズはエレクトロニックミュージック・シーンの代表的なアーティストだが、既にヨーロッパでは彼の電子音楽と交響楽団とのコラボレーション公演を何度も行っており、これまでのべ5万人以上を動員している。そして2016年、<爆クラ!>プレゼンツによって、東京フィルハーモニー交響楽団との公演が決定し、彼の宇宙的なライブが日本に初上陸することになった。

ジェフ・ミルズと東京フィルハーモニー交響楽団による音楽の宇宙飛行を体験! music160330_jeffmils2-780x521

冒頭でも記載したが、<ジェフ×東京フィル>の観客はおそらくクラシック初心者がほとんど。ジーパン×パーカー×スニーカーという出立ちの客も目立たないほどに多い。筆者もクラブミュージックの大ファンで、ジェフ・ミルズのプレイは何度も拝聴しているが、クラシックは幼少期にピアノを齧っていた位で教養は恥ずかしながら無いに等しく、Bunkamuraオーチャードホールに入場したのも初めて。<ジェフ×東京フィル>は、そんなクラシック初心者でも楽しめるように、湯山氏がわかりやすく演目を解説してくれる。

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「無音」の演奏という体験

第一部は、東京フィルハーモニー交響楽団による、アラム・ハチャトゥリアン“バレエ音楽「ガイーヌ」よりレズギンカ”で幕開け。ホールが一気に多彩な楽器の音色に包まれる。出だしから圧倒的な演奏力の交響楽団に釘付けになった。続いて若干21歳のピアニスト、反田恭平による単独演奏で、武満徹“遮られない休息I、II、III”とモーリス・ラヴェル“水の戯れ”。武満徹は不協和音の編み出し方が特徴的で、邦人作曲家ならではの「間」や「沈黙」を多く取り入れている。一方、“水の戯れ”はフランスの絵画にも通ずる色彩豊かな瑞々しい曲調。東洋と西洋の思想や感覚の違いが、反田氏のピアニズムによって見事に表現された。「(演奏の)後半、一気にテンポを落としましたね。」という湯山氏のコメントに対して、「作曲家の意図を読み取って楽譜に忠実に演奏することも大切ですが、どこかで自分のオリジナリティを出していきたい」とロシアから帰国したばかりの若きピアニストは答えていた。

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オーケストラの演奏に戻り、坂本龍一“Anger – from untitled 01”、ジョン・ケージ“4分33秒”、オットリーノ・レスピーギ“交響詩「ローマの祭り」より主顕祭”と続く。いったい、無音の“4分33秒”をオーケストラの演奏で聴くことができる人はどれくらいいるだろうか? 第一部の演目の中でSNSでのコメントが一番多かったのは、“4分33秒”だ。確かに、2000人満席のコンサートホールでの無音(4分33秒のなんて長いこと!)は緊張感が漂い、かなりスリリングな体験であった。湯山氏は、この居心地の悪さや、笑い出しそうになってしまったりする感情(=心の声)と対峙することこそが、この曲の制作意図のひとつなのでは、と解説。筆者はひたすら「しーん」とする大ホールで、思わず叫びたい衝動に駆られてしまったが(笑)。この演目のユニークさも、<爆クラ!>プレゼンツのイベントの醍醐味かもしれない。

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