いよいよ、ジェフ・ミルズの登場!

一時間強に渡る第一部と休憩を挟んで、第ニ部開演。お待ちかね、ジェフ・ミルズの登場時には、思わず会場から歓声が湧きあがった。音楽とは関係ないが、2000人収容のコンサート会場で眺めるジェフ・ミルズの顔の小さいこと!(日本人の半分であることは間違いない)  

さて、日本初公演一曲目は、“Where Light Ends”。宇宙飛行士の毛利衛との対話から着想し、宇宙飛行の体験にインスパイアされて楽曲を制作したという同名のアルバムに収録された楽曲群を、オーケストラバージョンにアレンジしたものである。

打ち上げから地球帰還までのストーリーが、管楽器の繊細な音色、バイオリンの伸びやかな旋律、大太鼓から伝わる豪快な振動によって豊かに再現され、2,000人の乗客を乗せたスペースシャトルは、ジェフ・ミルズが誘導する電子音と生音をいっぱいに含んでゆらゆらと宇宙の中を飛行しているかのよう。30分を超える演奏が終わったときには、地球に無事到着したかのような安堵感が会場に漂った。

ジェフ・ミルズと東京フィルハーモニー交響楽団による音楽の宇宙飛行を体験! music160330_jeffmils6-780x521

二曲目はUR時代の代表曲“Amazon”。アマゾンの森林伐採や環境の危機を伝えようとジェフ・ミルズとマイク・バンクスによって制作されたもの。弦楽器から環境破壊の深刻さを感じさせる音色が奏でられ、ティンパニの力強いビートがドン・ドン・ドーン・ドンと刻まれる。そこにジェフ・ミルズの手から放たれるハイハットの電子音がまるでオーケストラの間を自由に行き来するかのように滑り込んでゆく。シリアスに、私たちへ地球の危機を感じさせる警告のようなメロディが畳み込まれ、気がつくと手にびっしょり汗が滲んでいた。

ジェフ・ミルズと東京フィルハーモニー交響楽団による音楽の宇宙飛行を体験! music160330_jeffmils5-780x519

三曲目はアナログレコード50万枚以上の売り上げを記録した大ヒット作“The Bells”。この曲の演奏が始まった瞬間、「わあっ」と声があがり、静寂を保っていた会場の空気がダンスフロアへと変貌した。ジェフ・ミルズのドラムマシンから発されるミニマルなビートにオーケストラチャイムの鐘の音が高らかに鳴り響き、弦とマリンバがその特徴的なリフをループさせていく。そう、会場の半数以上を占めるクラブミュージックファンの琴線を震わせるこのフレーズが体中に駆け巡った瞬間こそ、イベントの盛り上がりがピークに達した瞬間だった。誰もが立ち上がりたい気持ちを足の指先で辛うじて堪えていたが、ほとんどの客が着席したまま体を揺らし、各々でクラシックとクラブミュージックが織りなす宇宙を楽しんでいた。(アルコールが1、2杯入っていればきっとみんな立ち上がっていたと思う(笑)。)

ジェフ・ミルズと東京フィルハーモニー交響楽団による音楽の宇宙飛行を体験! music160330_jeffmils3-780x519

裏方の素晴らしさこそ成功の鍵

ラストはスタンディングオーベーションにてジェフ・ミルズと東京フィルハーモニー交響楽団を拍手で見送った。ジェフ・ミルズが退出した後も拍手は鳴り止まず、アンコールの声があがり、追加の演奏はなかったものの、ジェフ・ミルズが何度も舞台に登場し、笑顔で歓声に応え続けた。この歴史的なイベントが成功したのは、アーティストであるジェフ・ミルズのカリスマ性や交響楽団の演奏の素晴らしさは言うまでもないが、当日MCを務めた湯山玲子、指揮者の栗田博文、宇宙から来たかのようなジェフ・ミルズが語った、このイベントを実現し得た経緯や、協力者への感謝の言葉を的確かつスピーディ、そして気持ちの込もった日本語に訳して伝えた通訳の女性、さらに、クラシックの生音と電子音のみで構築されるエレクトロニックミュージックのバランスをライブで調整するという超難解な仕事を見事なテクニックで達成したサウンドエンジニア、近藤健一朗(YMOのワールドツアーや久石譲の音響を手がけたことで有名)まで、全ての表・裏舞台の方たちが最高のパフォーマンスをしていたことが大きな要因ではないかと思う。

ジェフ・ミルズと東京フィルハーモニー交響楽団による音楽の宇宙飛行を体験! music160330_jeffmils1-780x521

そして、観客。「ジェフ×東京フィル」での体験はこの先のどこかで、きっと思い起こされることになるだろう。「時間、音響、宇宙」というキーワードは、物事を大きな視点で捉えるときに、強力な指針になってくれるはずだ。この公演で体感した「間」や「沈黙」、「響き」、「振動」、「音」は全て「宇宙」と繋がっており、私たちの心の闇もまた、ひとつの宇宙なのだとジェフ・ミルズの音楽は教えてくれる。何かに迷ったとき、この日の感覚を呼び覚ましてみてはどうだろうか。自分の進むべき道が見えてくるかもしれない。

さぁ、次は宇宙の先、ジェフ・ミルズの新作『Planets』を首を長くして待つことにしよう。

RELEASE INFORMATION

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text by Nao Asakura