点と点を繋げたかったんです
ーーファーストアルバムのリミックス EPである本作『Fractured Holy Symmetry』の動機や意図を教えてもらえますか。
S 最初は家にカセットが沢山あって。Naliza Moo(※1)と一緒に海外に注文したんですけど、なにか考えてた訳ではなくって。それがCold Name(※2) のリリースが決まったのでカセットの使い道が無くなって。
※1. 本作にもリミックスを提供する東京のプロデューサー。ダーク・アシッドとでも呼ばれるであろう硬質なサウンドのダンスミュージックを奏でる。
※2. Nobuyuki Sakumaのソロの別名儀。インダストリアルにダークな映画の要素を足しつつも微かに光りが見える踊れないダンスミュージック。USの〈Living Tapes〉等からリリース。
Cold Name “Intent to Kill”
ーーそれは生のカセットテープということですか。
S そうです。業者に送って録音しようと思って。Jesse Ruinsの音源を自主でやろうかなと考えていてリミックスがいいかなと。そろそろ海外の人達と絡んでもいいんじゃないかなと。なんか自分のリリースだけではなくコラボ的なこともしていないし、そういうのをしたいと思って。いろんなところからリリースしてるんで繋がりがあるので。それでそこになんか日本の若い人も混ざったらそれは面白いかなと思いました。
ーーどういうところが面白いと思ったのでしょうか。
S 2011年にJesse Ruinsが海外からリリースして、それで日本人でも海外から結構出す人が増えるかなと思ってたんです。でも思った程ではなかった。ちょっとずつはいるんだけど、でもそれが線になってない。点だけだとなんかもったいないんで、その点と点を繋げたかったんです。
ーーSapphire Slows(※3)も自分が出たときにもっと日本のバンドの海外でのリリースが続くんじゃないかと思ったと言っていました。例えばどういう人達がリリースすると思っていましたか。
S 〈Cuz Me Pain(※4)〉の人達とか、ブログ文化があったときに結構、海外の音楽ブログにあがってたじゃないですか。あと、Teen Runnings(※5)とかMöscow Çlub(※6)とか。知り合いのバンドとかですね。
※3. USの〈Not Not Fun〉、東京の〈BIG LOVE〉からリリースする東京の女子。自身の心象を繊細に描写するような等身大のインディー・エレクトリック。
※4. フィジカルのリリースにこだわり、海外のシーンともリンクする東京のインディーレーベル。Nobuyuki Sakumaも創立メンバーの1人。
※5. 東京の3ピースバンド。2009年頃のUSインディーのガレージサウンドとリンクしつつ爽やかなサウンドが魅力。
※6. 東京の4ピースバンド。ファインなギターサウンドを基本に時折見せるブルーアイドソウル的ソングライティングが魅力。時にエレクトリックにも接近。
Sapphire Slows “Animal Dreams”
ーーリリースされるという話が無くなったバンドもありました。
S リリースの話が無くなるのはよくあることで、Jesse Ruinsもリリースに限らずツアーの計画がなくなるのは何回も経験してます。タイミングもあったんだと思います。Jesse Ruinsは運みたいなものもあった。タイミングと運が。出たら凄い面白かったなと思いますけどね。Möscow Çlubの『Ç86(※7)』とか知らない人が沢山入ってて、海外のブログとかにも取り上げられていて。なんかそこから展開していくのかなと思ったけど、なぜそれ以上広がらなかったでしょうかね。なぜですかね?
※7. Möscow Çlub主催の日本の洋楽指向なインディーコンピ。元ネタはもちろん「NME」が1986年に出したコンピュレーション・カセット『C86』。
ーーシーンとして外に見せることができなかったからじゃないですかね。それらをまとめたレーベルもなければ、同じライブハウスでイベントが続いてた訳でもない。なにかが起こるっていうワクワク感はそこにいる人達にはすぐに伝わるけど、外の人にはこれでもかこれでもかってやっていかないと伝わらないのかなと思います。僕らにしてもコペンハーゲン(※8)で起きたことをすぐに理解できた訳ではないです。
S その流れもありつつ、点と点を繋ぐきっかけになればと。なるかならないかは本人達次第なとこもあるだろうけど、全然使ってくださいっていう気持ちです。
※8. デンマークのコペンハーゲン。ここではレコードレーベル〈Posh Isolation〉とライブハウス「Mayhem」を中心としたコペンハーゲンのインディーシーンをさす。
ーー今回の EPもファーストアルバムもそうですがジャケットは Masatoo Hiranoさんが写真とデザインを、別名義の Cold Nameのジャケットは Fin Acidという DJチームでも一緒に活動している Kazuki Sakuraiさんがデザインを担当しています。それはできる限り友達や自分達でやるというDIY的な精神からでしょうか。
S DIYというか、まわりを巻き込むっていうのはさっきのシーンの話もあったけど、デザイナーだったり、ライナーノーツを書いてくれる人もそうだし、そういうまわりに、こういう人たちがいる、その中で自分達がやってて、みたいなところは表に出す必要があるのかなと思ったり。
『A Film』(ファーストアルバム)
『FRACTURED HOLY SYMMETRY』
ーーシーンは音楽だけじゃなくって、デザインとかアートとかっていうのも含めてのものですよね。
S それが同じだとは言わないけど要はDIIV(※9)だってSandy Kim(※10)がいてSky Ferreira(※11)がいてGrant Singer(※12)がいてみたいな。やっぱりなんかあるんだろうなって見えるし、DIIVを聴かない人でも今そのへんに興味津々な人が多いですよね。実際周りの人たちがやってくれたほうが、自分のやりたい事を伝えやすくて、表現しや
すいっていうのもあります。
※9. 現在の〈Captured Tracks〉を代表する人気バンド。『C86』的インディー感を持ちグランジの態度でクラウトロックを演奏する。
※10. NYC在住のストリート系フォトグラファー。DIIVのMVの監督も。DIIVのドラマーの彼女でもある。
※11. モデルで女優で歌も唄うポップ・アイコン。DIIVの中心人物=Zachary Cole Smithの彼女。
※12. 映像作家、MV監督。DIIVやThe Soft MoonのMVの監督も。Sky FerreiraやSandy Kim、DIIVのメンバーも出演する短編映画(以下参照)も製作。
ーー『Fractured Holy Symmetry』とはどういう意味でしょうか。
S 『壊された・神聖な・均整』ですね直訳だと。日本と海外のインディーの均整というかクオリティーの差は無い(神聖なって言ってるのは皮肉ですが)、その差は壊わされた、という意味です。あとは、日本のインディーの立ち位置、環境。アーティストが海外では日本よりサポートされている。その差を皮肉で神聖な均整と言ってます。
ーー日本では活動しにくいというのがある。
S 例えばアメリカだとラジオ局が一杯あって、インディーでも全米でかかるし、企業も新しいものに目がいっている。それはJesse Ruinsをやっていても契約の話が来るし、この曲使わせてくれとかCMや映画であったり、新しいのを探してバックアップしてく体制があって、それがインディーバンドにもちゃんと還元されている。だからメジャーからインディーに戻っても変わらず活動しているバンドも結構いるように見えます。全てとは言わないですが、ライブハウスも日本だとノルマもあるけど、向こうだとギャラとして返ってくるシステムがある。そういうアーティストに対する対価が、お金が絡んでくると日本だと、いやらしいとかって感覚があるけど、向こうにはなくって、日本だと雑草魂で終わるような、もうお金とか関係無いよっていうかライブやれば交通費いりませんみたいな。それも大事なのかもしれないし、気持ちは否定はしないけどそういうのが向こうの人はたぶんあんまり無くて、日本よりも対価が得られる中で活動している。それがアーティストにも周りの人達にも感覚としてあるから、それが活動費になって機材を買ったりとか、新しい活動に活かせるのは良いことだなと。
次ページ:CMで使いたいって話が来て、それが契約料が 1万ドルくらいだったんです