80年代のニューウェーヴや元祖ポストパンクに感じる、
前例がないゆえの不気味さ
「どうやってこの5人は出会ったんだろう?」――まず、そこに興味をそそられるバンド、それがJohnnivan(ジョニバン)だ。これまでシングル「Nobody’s Awake in This House」、「Tomorrow Night/I Think I Know You」、「Community」をリリース。ライブ活動たった4ヶ月でオーディションを勝ち抜き出演した、昨年の<りんご音楽祭>でのライブの模様がYouTubeにアップされている以外に、動いている彼らはライブでしか確認することはできない(その後、MVが制作されたが)。だが、その<りんご音楽祭>の動画はえらく雄弁だ。シュッとした外国人ボーカリスト以外は、大学の音楽サークル、それも中にはハードロックかポストロック・バンドにいそうなルックスのギタリストやドラマー、ギタリスト、ナードな雰囲気を漂わせるキーボーディストという、一見、同じバンドのメンバーに見えない5人がアイデア一発、ポストパンクもファンクもニューウェーヴも言語化以前の「ビートの感覚」だけで偶発的に「何これ、かっこいい」演奏を意外にもパッションを同心円の真ん中に据えた感じの演奏をしているのである。で、そのシュッとしたボーカリストが一番、意表を突くアクションーーカウベルをぶっ叩き、美声ながらメロディらしいメロディを極力歌わない、80sニューウェーヴのごとき素っ頓狂な部分もある歌を聴かせている。いやもう、これだけでかなりの破壊力だ。
Johnnivan – Nobody’s Awake in This House(Video)
そして今回、1stEP『Pilot』のリリースと相成り、次第に情報が掴めてきた。メンバーは日本、アメリカ、韓国からなる多国籍。「生楽器とダンスミュージックの融合」をテーマに活動し、これまでの公開音源は全て完全D.I.Y.セルフプロデュースだという。だがしかし。生楽器とダンスミュージックの融合なんて、ほとんど現行のバンドがそうだろう。完全に現実の楽曲がボキャブラリーを超えている。
ライブは未見なので、それなりに音圧はあるのかもしれないが、音源を聴く限り、4点セットのバンドとは思えない圧のなさ、そしてミックスにおけるギミックのなさが、音色とアレンジ時点でのアイデアの豊富さを明快に伝える。全員がジャンルや音楽的なバックボーンと言う意味で、てんで別々の方向を見ていても、むしろそれがユニークでシニカルな楽曲に「なる」とうべきだろうか。メンバーの誰かの背景にLCDサウンドシステムなど00年代半ばのダンスパンクを持つ人間がいるのかもしれないが、個人的にはさらにその元祖である80年代のニューウェーヴ、WireやDEVO、ボーカルスタイルの観点からデヴィッド・バーン的な何かという意味でTALKING HEADSを想起した。80年代のニューウェーヴや元祖ポストパンクに感じる、前例がないゆえの不気味さ、登場したばかりのシンセサウンドの今となっては懐かしい「いかにも」なサウンド。それらがいびつなまま鳴らされることで生まれるラジカルさ。Johnnivanがどこまで意識的かはわからないが、彼らもいびつゆえに妙に突き放したドライな聴感を残す。
Review:EP『PILOT』
EP『PILOT』を聴いていこう。M1の“downer”は鍵盤全般を担うShogoのどうにも居心地の悪い一音が混ざるエレピのフレーズがまさにダウナー。Johnathanの憂いを帯びたボーカルと、その裏を這うJunsooのギターも不気味。圧のない音像で一瞬心地良いのだが、美しいものに必ず違和感が紛れているこの感じ。彼らが結成して早い段階でミツメのイベントに呼ばれたのもなんとなく納得する。さらにシングルリリースしたものの再録であるM2の“NOBODY’S AWAKE IN THIS HOUSE”は、抽象度の高いディストーションギターという、ちょっとSt. Vincentを思い出させるギターのアプローチ、ぐっとマシンライクな縦のビート感がタイトなYusakuの手数の少ないビートで、醒めたムードで踊るこのバンドの名刺がわりになりそうなトラックといえそう。しかしこの曲でもさらっとクレイジーなのは鍵盤だ。一瞬クリアなピアノの音が入ってきた時、笑いを禁じ得ない。なんなんだろう、この人のセンスは。最高である。
M3の“HEADBAND#2”はヴァースのマジカルさが突出している。DEVOの突飛さとシアトリカルなメロが合体したニュアンス。M4“Late“は80sのエレポップ的なチープなシンセと、悪趣味スレスレなシンセソロと、イーブルなギターがユニゾンする聴感が面白くもあり、強烈にシニカルでもある。歌詞は寂しいような可笑しみがあるような男の独白といった感じだが、ただ事実が投げ出されているようで感覚的にはドライだ。
M5はシンセやピアノを重ねたインストの“Green Screen”。このコード感もそこはかとなく怖い。場面転換は功を奏し、ラストの“My man”のピアノリフへ繋がり、ここでも不穏な転調を挟むピアノがポイントになっている印象。ボトムはシンセベースなのか、キーボードがベースラインを担っているのか、圧は薄め。人を食ったようなアレンジで、エンディングも唐突にやってくる。全体的に3分に満たない曲が多く、感情移入する隙のない(実際の音の隙間はありまくりだが)、エモーションを軽くいなすような構成で成り立っている。もちろん情景や感覚は聴き手に何かを思い出させるかもしれない。でも、寄りかかられることを無意識的に拒絶している。意味を漂白して、踊るなり、サウンドに反応するなり、アレンジのユニークさにこちらも純度高めにリアクションせざるを得ない。
媚びないつもりすらなさそうな、そのままで違和感の塊のようなバンド、それがJohnnivanなのかもしれない。ちなみにジャケットのアートワークはボーカルのJohnathanが手がけているそうだが、この線画の男性はこれから楽しそうにダンスするのだろうか、それともこの動きはストップしたままなのだろうか?――いい意味でムズムズする感じもこのEPをかなり表現している。いや、正直、まだまだ底が見えないバンドである。
1st EP『Pilot』
Release
2019.04.19
Tracklist
1.Downer
2.Nobody’s Awake in This House
3.Headband #2
4.Late
5.Green Screen
6.My Man
Johnnivan