「THE」は取らなくてよかったの?
世間はチルなアンビエントR&BやらPBR&B(インターネットR&B)やらが全盛ですが、いま一番聴きたいのはSEXYで、チャラくて、あま〜い官能的なサウンドなんスよ! 普段着よりもフォーマルにキメてほしいんスよ!! あと音楽ってエンターテインメントだから、ダンスも上手いと最高ッスよね。…そんなあなたは、稀代の色男ジャスティン・ティンバーレイク(JT)に骨抜きにされてしまいましょう。JTといえば映画『ソーシャル・ネットワーク』(10年)の当たり役ショーン・パーカーを演じて以降、順当に俳優としてのキャリアも歩んでいるアメリカ・ショービズ界屈指のスーパー・スターだが、この度6年半ぶりのスタジオ・アルバム『20/20 エクスペリエンス』でミュージシャン活動を本格的に再始動することになった。
歌、ダンス、仕草、着こなし、目線、とにかくもうすべてがエロい、エロすぎる。まあ、2013年がビーバーではなくティンバーレイク一色になるであろうことは、リード・シングルの“Suit & Tie”があっさりと証明していた。恐るべきキャッチーさを持ったシンセのメロディーと、中毒性抜群のヴァース&コーラス、ホーン・セクションを招いたゴージャス極まりないサウンド・プロダクション、そして主役=JTの色褪せぬファルセット・ヴォイス。この曲の中間でジェイ・Zは《No papers, catch vapors(書類がどうこうじゃねえ、成功を掴むんだ) / Get high, out Vegas(高みを目指せよ、ラスベガスで演るくらい)》とラップしている。しかも、衣装はトム・フォードで、ビデオの監督はデヴィッド・フィンチャーだ。勝ち組にしか作れないし、勝ち組にしか歌えないこの珠玉のトラックは、当然のように世界31カ国のiTunesでチャートで1位を獲得。宅録アーティストが何百人と束になっても、ショービズの「本気(ガチ)」には敵わない。また、4曲目“Strawberry Bubblegum”や9曲目“Mirrors”は、“Suit & Tie”に負けずとも劣らぬネオ・ソウルな名曲で、全盛期のマイケル・ジャクソンやプリンスさえ想起する人もいるかもしれない。
今作の共同プロデューサーに抜擢されたのは、お馴染みティンバランド。長いブランクを感じさせないくらいJTのカムバックを完璧に演出しているが、唯一苦言を呈するならば1曲1曲が長すぎることか。なにせ収録された全10曲中7曲が7分超え、トータル・タイムはほぼ70分。焦らしまくりのイントロ&アウトロ(つーか前戯?)はJTの旺盛なサービス精神をうかがわせたりもする。しかし、すでにフル・ストリーミング試聴を体験したリスナーならばわかるように、この曲順でなければありえないほどトラックごとの繋がりが計算され尽くしているし、飽きさせない。DXエディションやヴァイナルもリリースされるようだし、あえてMP3時代に逆行してアルバム・トータルでの完成度を高めたのだろう。そして、年内には早くも続編となるアルバムを準備中だとザ・ルーツのクエストラブが自身のサイトで示唆した。どうやらタイトルの「20/20」とは、英語で正常な視力があることを示す表現(日本の視力検査なら1.0に相当)であり、JTがレンズの機械を覗くアートワークと同じく、“視覚的”なイメージが基本コンセプトにあるのだという。つまり、『20/20 エクスペリエンス』は今回の10曲+残りの10曲=20vision、2枚のアルバムが揃った時にはじめて完成するのだ。
ジャスティン・ティンバーレイクはこの夏、イギリスで開催される<Wireless Festival>でのWヘッドライナー出演を皮切りに、<Legends Of The Summer>と銘打ったジェイ・Zとの合同ツアーに乗り出す。会場にはスタジアムも含まれているようで、『20/20 エクスペリエンス』と同様、音楽史におけるエポックメイキングとなりそうだ。あ〜、俺もトム・フォードのスーツが似合うオトコになりたい!
(text by Kohei Ueno)
Music Video:Suit & Tie ft. JAY Z
Release Information
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