スコット・マーフィーによる日本語カヴァー曲全て
スコット・マーフィー(ex-ALLiSTER)- “乾杯”
こちらもメロコア系パンクミュージシャンによる日本語カヴァー曲。メロコアブーム期に日本でも若者から支持を受けていたアメリカのバンド、アリスターのヴォーカル&ベース担当のスコット・マーフィー。彼は、ソロ転向後に数多くのJ-POPカヴァー曲をリリースした。元々、アリスター時代からJ-POPカヴァーを歌っていたスコット・マーフィーだが、ソロ活動後は、より広い層の音楽リスナーにその名を知られることとなり、あっという間に人気者となった。
アリスターでの活動と並行して、同じく親日家なウィーザーのリヴァース・クオモとユニット“スコット&リバース”を結成して、日本語詞のオリジナル曲を発表したりと、日本語を大事にした音楽活動を継続中。どの曲も、ポップでパンクな音楽性と日本語の響きが上手く融合したグレートな楽曲だ。
クラフトワークの“Dentaku”
自身の楽曲を日本語でカヴァーする……という試みの初期作であり代表格でもあるのが、クラフトワークの“Dentaku”(電卓)だろう。“Dentaku”は、日本語版のタイトルで、英語版のタイトルは“Pocket Calculator”。ロボットヴォイスで歌われる「ボクハ、オンガクカ、デンタクカタテニ……」という歌詞は、バンドの音楽性や楽曲のサウンドコンセプトとも見事に合致しており、この曲に特別な個性を与えることに成功している。
電卓(=小型コンピューター)を片手に、次々と楽曲を作り出す……なんて歌詞世界も今聴き返してみると、レトロフーチャーな感覚に満ち満ちており素晴らしい。
スコーピオンズの“Kojo No Tsuki”
“蠍団”の愛称で日本のファンからも半世紀に渡って愛され続けているスコーピオンズ。そんなスコーピオンズが瀧廉太郎の歌曲『荒城の月』をカヴァーしているという凄い曲がこれだ。バンドが1978年に行った来日公演をパッケージしたライヴ盤『Tokyo Tapes』(邦題『蠍団爆発!!』)に当時の演奏がパッケージされている。
この一曲の為に沢山の練習を積んだのか、ヴォーカルのクラウス・マイネが歌う奥ゆかしい日本語詞は、比較的ナチュラルに聴こえるし、哀愁タップリの歌声も原曲のイメージによく合っている。このライヴ盤が世界的ヒット作となった為、ライヴの定番ナンバーとなっていたそうだが、この曲を聴いた諸外国の蠍団ファンは、一体どんな感想を抱いたのだろうか?
かつては、スコーピオンズ人気が高く、こんなカヴァー曲も生み出した日本。いわば、”蠍団先進国”だったわけだが、バンドの世界的人気と名声に反して、いまや”蠍団後進国”となってしまった印象がある。数年前の解散ツアー(後に撤回)の日程にも今年開催されているバンドの結成50周年を記念したワールドツアーのスケジュールにも、日本は入っていなかった。近い将来、また日本で”Kojo No Tsuki”をやってもらいたいものだ。
ロスト・グリンゴスの“Nippon Samba”
80年代のニューウェーヴ・ムーヴメントが生み出した珍品中の珍品。ドイツのニューウェーヴ(ノイエ・ドイッチェ・ヴェレ)グループ、ロスト・グリンゴスによる“Nippon Samba”は、ビザールなジャポニズムが全編に渡って炸裂しまくる怪曲だ。ロスト・グリンゴスには、様々なワールド・ミュージックをチャンポンにした個性的な楽曲が多く、この曲もニッポンなのにサンバというタイトルからも分かる通リ、アヴァンギャルドでエキセントリックなナンバーとなっている。
「イ〜ケ〜イ〜ケ〜ニッポンサンバ〜」という奇妙奇天烈かつフリーキーな歌を歌っているのは、どうやらドイツ在住の日本人女性らしく、正確には「外国人によるカタコトの日本語洋楽」とはニュアンスが少しばかり異なるのだが、それにしたって日本語の発音や歌唱力が怪しく、ここまで紹介してきた楽曲と肩を並べる脱力感と破壊力を秘めている。ニューウェーヴ期の奇々怪々なレア・グルーヴとして、この曲が収録されたアルバムはプレミア化していたが、2000年代に入って、ゆらゆら帝国を輩出したことでも知られる日本のインディーズレーベル、キャプテン・トリップ・レコードによってリイシューされた。
この他の有名ドコロだとベン・フォールズ・ファイヴの“Song for the Dumped”(金を返せ)あたりが、ロックファンが即座に連想する定番ナンバーだろうか?
思えば、カタコトの日本語曲は、古くはヘドバとダビデやチャダといった外国人歌謡歌手から、現在のK-POP、ジェロやクリス・ハートといった卓越した歌唱力を持つミュージシャンに至るまで、日本のポップ・ミュージックのヒストリーの中に綿々と続く文化だと言える。外国人による独特の日本語と音楽が結び付いた時の独特の快楽性は、何かしら日本人の琴線に触れるものがあるのだろう。
LADYBABY – “ニッポン饅頭/Nippon Manju”
最近、ネットの世界でスマッシュヒットとなったレディビアードの楽曲のように、“kawaii”カルチャーに影響を受けたカタコト日本語楽曲も生まれているし、こうした音楽を追っていくとなかなかに興味深いものが見えてくるのではないかと筆者は思うのである。