ブラック・ミュージック、黒人文化のルーツを見直す傑作『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』へ。
2014年8月に18歳の黒人少年が警官と尋問中に諍いとなり、逃げたところを射殺されたファーガソン事件をはじめ、警官による黒人少年への殺害がこの時期相次ぎ、また、こうした警官に対し無罪評決が下った事からBlack Lives Matter運動が全米で起こる。その最中にケンドリックはシングル曲“i”をリリース、運動へのリアクションと同時に、自分自身を果たして愛せるか?といった深いテーマを持った、今までになくポジティヴでピースフルな雰囲気が漂う力強いナンバーだった。
Kendrick Lamar – i
そして2015年3月に『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』はリリースされる。制作期間中アフリカに訪れた事が多大なインスピレーションとなっているこのアルバムでは、ケンドリック自身の、ひいては黒人音楽のルーツを辿った内容となっており、ソウル界からは御大アイズレー・ブラザーズよりロナルド・アイズレー、ファンク界からはPファンクの創始者ジョージ・クリントン、ジャズ界からはロバート・グラスパー、そしてビートミュージック界からはフライング・ロータスをはじめとする超強力ゲストを結集させ、また作中ではマイケル・ジャクソン、ジェームズ・ブラウン、フェラ・クティのサンプリングを使用、様々な引用と共にこれまでの黒人音楽の歴史を凝縮したような、とても隙のない密度の濃い作品を作り上げた。特筆したいのは、これが単純な黒人賛美の内容ではなく、過去の先人たちの過ちを繰り返す事が無いように、省みるべきだとする内容であったことだ。そして、最終曲で生前2パックが残したインタヴュー音声を元にケンドリックは2パックと対話する。疑似的にではあるが、ケンドリックはかつてのヒーローとの邂逅を果たし、実際に大きな反響を以てこのアルバムは迎えられた。
Kendrick Lamar – King Kunta
以上のケンドリックのストーリーを読んでもらえれば分かるように彼はギャングスタではなく、まっとうなストレート・エッジとしてのやり方で評価を獲得し、今回の<グラミー賞>最多11部門ノミネートされるに至った。それは非常に微笑ましいことのように思う。MTVでは、彼のこれまでの歩みを、『ケンドリック・ラマー VideoSelects』と題して過去の関連MVを抜粋して一挙放送する。16日の<グラミー受賞式>がどうなるかは見逃せないが、まずはこちらで彼の活躍をおさらいしてみてはどうだろうか。
Getty Images for BET
EVENT INFORMATION
ケンドリック・ラマー VideoSelects
2016.02.10(水)24:30 – 25:30
2016.02.23(火)22:00 – 23:00
MTV
詳細はこちら
RELEASE INFORMATION
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text by Yu Nakazato