2年ぶりの開催となったライブツアー<米津玄師2022 TOUR / 変身>が全国5会場で全10公演が行われ、各地で大きな盛り上がりを生み出してきた。
今回、Qeticでは10月27日にさいたまスーパーアリーナで行われたツアーファイナル公演のライブレポートを実施した。
2022.10.27(THU)
米津玄師 2022 TOUR / 変身
at さいたまスーパーアリーナ
米津玄師のライブを初めて目撃した。それは米津玄師というもはや言うに及ばぬビッグアーティストと、言葉を交わさずに一対一の関係性を結ぶような、不思議な体験だった。
10月27日、平日にも関わらず大勢の人々が集まったさいたまスーパーアリーナ。約2年半振りのツアーとなった「米津玄師 2022 TOUR / 変身」。東京体育館を皮切りに大阪、神戸、愛知と全て2日間ずつ回り、この日はいよいよ関東に戻ってきて2日目、ツアーファイナルだ。開演前の会場にはワクワク感と緊張感が混じり合った、少しぎこちない空気が充満していたように思う。
まず驚かされたのは、このアリーナという規模感では考えられないほど極めてパーソナルな表現、つまり米津の歌がどこまでも中心にあったということだ。語弊のないように書いておくと、ステージ後方には巨大な縦長のLEDスクリーンがあり、ステージの左右にもスクリーンが設置されていたり、会場の中央に向かって伸びるオートウォークを内蔵した花道があったりと無論手が込んだものではあったし、銀テープが降り注ぐいわゆるお決まりの演出もたしかにあった。
しかしそれらが過剰だと感じることは一切なかった。それほどまでに(前日もほとんど同じセットリストでライブをしていたとは思えないほどの)圧倒的歌唱で、チープな表現にはなるが、音源と同等、いや音源を超える歌声だった。
このように感じたのは、もちろんその歌声が素晴らしかったという事実もあるが、米津はそのようなステージを描いた理由をライブのいたるところで伝えているようだったからだ。特にライブ前半はスクリーンに米津本人の映像が映ることはほとんどなく、比較的MCも言葉少なで、しかし少ない言葉で可能な限り広大なフロアの一人ひとりに語りかけていた。
例えば“まちがいさがし”をプレイする前に「次やる曲は、こないだ結婚した友達がいて。そいつに捧げた曲です」(ここでの友人とはおそらく楽曲を提供した菅田将暉のことだろう)と口にしたこと。「今日だけ、次の曲、もういない親友のために歌っていいですか?」(ここでの親友とは2019年に急逝したwowakaのことだろう。“ひまわり”には2人の共通の友人であるLAMP IN TERRENの松本大がギターで制作に参加している)と話して“ひまわり”を歌ったこと。短い言葉から、米津がいかに自分にとって重要なことを作品に反映させてきたかがうかがい知れる。
何より、直接的にそれを伝えていたのはアンコールでのメンバー紹介を含むMCを除いて、このライブで一番長く米津が話した“ひまわり”の演奏前の時間だった。そこで語られたことは大規模なライブが行われる度に何かと問題になっていた「声出し」についての米津の考えでもあったが、「つまらなかったら帰ってもいい」とまで話す「自由に楽しんでくれ」という強い想いであった。それは言い換えれば、「好きなように判断してくれ」という、どれだけ規模感の大きなアーティストになっても米津玄師作品に通底するアティチュードなのかもしれない。
1曲目で演奏された“POP SONG”での「君だけの歌歌ってくれ」という、どこか突き放すような、でも確かに温かい印象を受けるラインひとつからも感じることではあるが、米津はおそらくエンターテイメントの世界で過剰な演出や言動がある程度効果的に機能することをわかっていながら、できる限り観客に楽しみ方を、感じ方を強いるようなそぶりは見せなかった。
ライブ中の動きや表情を見てもそうだ。“アンビリーバーズ”で「楽しんでこうね!」と率先して自らが身体を揺らして楽しんでみせたり、中ちゃん(中島宏士)のダンスを「俺が見たいから」と煽ってこの日一番の笑顔を見せたり、米津が自分が楽しんでいることは伝えても、観客に大げさな反応を促したりすることはない。
中島宏士(G)、須藤優(B)、堀正輝(Dr)といった長くライブを共にするバンドメンバーとの一糸乱れぬ演奏も、辻本知彦率いるダンサーチームとの艶やかなパフォーマンスも、美しいライティングも、こだわりの詰まっているであろうスクリーンに映し出される映像やステージセットも、きっと入念にケアされていたであろう米津自身の喉も、常田大希(King Gnu、millennium parade)のサプライズ出演も、ここに集まった観客一人ひとりを楽しませるための準備は怠らない。それでいて楽しみ方や感じ方を強制しない。ここに、米津玄師というアーティストの器の大きさを痛いほど感じてしまう。そして、だからこそ、ありのままの自分で米津の歌を受け止めたくなる。そうして、米津玄師の歌と自分が一対一で向き合っているような瞬間が訪れるのだ。
過去のインタビューで米津はこんなことを話している。
「互いに変わっていくことを受け入れた上で、その都度その都度、あなたがあなたじゃなくなってもいいと確認し合うのが、美しい関係性なんじゃないかなとすごく思います」
今回のツアータイトルは「変身」。その意味は米津のオリジナルキャラクター“NIGI Chanに関わるものかもしれないし、あるいはステージの外とステージ上にいる米津の変化を指すのかもしれないし、米津のキャリアの変化を指すのかもしれないし、もっと深く内省的なことを指しているのかもしれない。その答えはわからないが、今回のツアーに限らず、米津の歌と向き合った一人ひとりが次にまた米津の歌と向き合うとき、誰もが何かしらの変化を経験しているだろう。そのときはまた違った楽しみ方で、また違った感じ方で米津の歌と一対一の関係を結ぶのだと思う。終演後には<米津玄師 2023 TOUR / 空想>が告知された。遠くはないその日はこの一夜と同じようにきっと得難い一日になるはずだ。
Text:高久大輝
Photo:太田好治/立脇卓/横山マサト/八尾武志
EVENT
INFORMATION
米津玄師 2023 TOUR / 空想
受付期間:
2022年11月22日(火) 10:00 〜 2022年11月27日(日) 23:59
*CD封入先行(抽選)
*公演概要
4/22(土) 開場15:30 開演17:00 兵庫 神戸ワールド記念ホール
4/23(日) 開場15:30 開演17:00 兵庫 神戸ワールド記念ホール
4/26(水) 開場16:30 開演18:00 大阪 大阪城ホール
4/27(木) 開場16:30 開演18:00 大阪 大阪城ホール
5/2(火) 開場16:30 開演18:00 熊本 グランメッセ熊本
5/3(水祝) 開場15:30 開演17:00 熊本 グランメッセ熊本
5/7(日) 開場15:30 開演17:00 愛知 日本ガイシホール
5/8(月) 開場16:30 開演18:00 愛知 日本ガイシホール
5/13(土) 開場15:30 開演17:00 宮城 宮城セキスイハイムスーパーアリーナ
5/14(日) 開場15:30 開演17:00 宮城 宮城セキスイハイムスーパーアリーナ
5/20(土) 開場15:30 開演17:00 北海道 北海きたえーる
5/21(日) 開場15:30 開演17:00 北海道 北海きたえーる
5/27(土) 開場15:30 開演17:00 福井 サンドーム福井
5/28(日) 開場15:30 開演17:00 福井 サンドーム福井
6/3(土) 開場15:30 開演17:00 徳島 アスティとくしま
6/4(日) 開場15:30 開演17:00 徳島 アスティとくしま
6/10(土) 開場15:30 開演17:00 広島 広島グリーンアリーナ
6/11(日) 開場15:30 開演17:00 広島 広島グリーンアリーナ
6/14(水) 開場16:30 開演18:00 埼玉 さいたまスーパーアリーナ
6/15(木) 開場16:30 開演18:00 埼玉 さいたまスーパーアリーナ
6/28(水) 開場16:30 開演18:00 神奈川 横浜アリーナ
6/29(木) 開場16:30 開演18:00 神奈川 横浜アリーナ
7/1(土) 開場15:30 開演17:00 神奈川 横浜アリーナ
7/2(日) 開場15:30 開演17:00 神奈川 横浜アリーナ
*チケット料金
指定席 ¥9,000(tax incl.)
ファミリー席 (大人) ¥9,000(tax incl.)
ファミリー席 (お子様3歳〜15歳) ¥6,800(tax incl.)