来年初旬に自身初の長編映画『Afterglows』を公開する映像作家の木村太一が、その映画を軸に自らのキャリアを回帰するイベント<4D by Taichi Kimura “Afterglows”>を12月9日(金)、東京・渋谷WWW Xにて開催。木村と所縁のあるD.A.N.ZAKINOの出演が決定している。

『Afterglows』は、メディアリンチに遭い自殺をした元アイドル歌手の小松さゆり(MEGUMI)の夫で、それを機にタクシー運転手となる守島輝(朝香賢徹)の生き様を描いたロードムービー。海外でも高い評価を得た木村のショートフィルム『Mu』の世界観を受け継いだ、幻想的なモノクロ映像が印象的な作品である。

なお、映画と同タイトルのエンドテーマ曲は、奇しくも<4D by Taichi Kimura “Afterglows”>がラストライブとなるD.A.N.が担当している。そこで今回Qeticでは、木村とD.A.N.の櫻木大悟による対談を実施。公私ともに親交の深い2人に、お互いのクリエイティビティについて語り合ってもらった。

INTERVIEW:木村太一×櫻木大悟(D.A.N.)

映画『Afterglows』が映像と音像で捉える残光 ── 木村太一×櫻木大悟(D.A.N.)対談 interview221129_kimurataichi_sakuragidaigo_1

2人の出会い

──木村さんと櫻木さんの交流はどのように始まったのですか?

櫻木大悟(以下櫻木) アルバム『NO MOON』を制作しているときに、収録曲のミュージックビデオを撮影してくれる方を探していたんです。そのタイミングで、(市川)仁也が太一さんの自主制作映画『Mu』と『LOST YOUTH』を教えてくれて。観たら画の鋭さ、スケールの広さ、テンポやスピード感がとにかくカッコ良くて。それでオファーしたのが最初に出会ったきっかけでしたね。のちに仲良くなってから、太一さんがジャングルだったりUKのクラブミュージックを好きだと知って、そうした音楽嗜好が作品の中に影響として表れているのだろうなと気づきました。

木村太一(以下木村) 昔ちょこっとDJをやっていた時期があって、その時のレイブ体験みたいなものに大悟は興味を持ってくれたんだよね。確か最初は“Floating in Space”のMVを撮ってほしいって言われたんじゃなかったっけ。最終的にアルバム表題曲“No Moon”を撮ることになるんですけど、撮影の前に大悟が僕の住むロンドンまで遊びに来てくれたんですよ。まだそんなに面識がなかった頃でびっくりしましたけど、話してみたらサッカーが好きだとか共通点も色々多くて。それで一気に仲良くなったんだよね。D.A.N.のメンバー全員、サッカーゲーム好きだったのも仲良くなった理由の一つかな。

櫻木 『FIFA』白熱しましたよね。太一さん、めちゃめちゃ強いから3人ともボコボコにされました(笑)。

木村 大悟がロンドンに来た時、当時構想していた映画の絵コンテを見せたんですよ。後で「あれ、どうなりました?」って聞かれて、「結局できなかったんだよ」と言ったら、その絵コンテのアイデアを“No Moon”のMVで使わせてほしいという話になり。俺は俺で、アルバムを聴かせてもらったら“No Moon”に衝撃を受けて、「(“Floating in Space”ではなくて)こっちを撮らせてくれ」と言ったのを覚えています(笑)。

櫻木 俺からしてみたら、絵コンテを見るという体験自体がものすごく新鮮だったんです。「ああ、こういうところから着想を得て形にしていくんだな」と。しかもその内容が、僕らが音楽で表現したい世界観とものすごく近くて。

木村 きっと、人としてもどこか似てるところがあるのかもね。それはメンバー全員に対して感じていることでもある。

D.A.N. – No Moon (Official Video)

木村太一初長編作『Afterglows』が描く光と陰

──映画『Afterglows』は木村さんにとって初の長編作品ですが、作るに至った経緯を聞かせてもらえますか?

木村 もともと作ろうとしていた映画が別にあったんです。結構スケールの大きな作品で、パイロット版も作って、大手のいろんな配給会社にアプローチしたんですけど、全て最終段階でポシャってしまい。その理由が、「まだ長編を撮ったことがないから」だったんですよね。それにすげえ腹が立って(笑)。「だったら自分たちで撮っちゃおう」と、新たに着手したのが『Afterglows』でした。

まずストーリーをどうするか考えたんですが、「お金はかけられないけどロケ地をたくさん使うような話にしよう」というアイデアはあった。それに『レスラー』(ダーレン・アロノフスキー監督作)や『タクシードライバー』(マーティン・スコセッシ監督作)のような1人の男性、しかも「ダメな男」を追った話が個人的に好きで、できればストーリーに取り入れたかったんです。そんなアイデアはありつつも、自分のスペックがまだそんなに高くないと分かっていたし、キャラクターの作り込みもきっと未熟なものになると思っていたので、本作では「ボイスオーバー」という手法を取り入れることにしました。

──ボイスオーバーはマーティン・スコセッシがよく使う手法ですよね。それこそ『タクシードライバー』もそうですし、『グッドフェローズ』や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』もそう。

木村 例えば『タクシードライバー』は日記を読んでいるんですよね。ティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』も、年老いた主人公が過去のことを振り返りながら息子に語っている様子をボイスオーバーで描いています。それぞれ何かに書き記したり、誰かに語ったり、という目的があるわけです。つまり、何か目的がなければボイスオーバーにする意味がない。それで「どうしよう……?」と色々考えをめぐらせていた時に、後輩から「タクシーのラジオから自分の感情が流れてくる、っていうのはどうですか?」と言われて「それだ!」って。それもあって、タクシーの運転手を主人公にしたんです。

──今回、モノクロ映像にしたのはどうしてですか?

木村 冒頭で話に出た『Mu』は、僕が制作費10万円くらいで作ったモノクロのショートフィルムなのですが、それまで一度も面識がなかったヒロ・ムライさんに「めちゃくちゃ良かった」と褒めてもらったんです。それが自分の励みになっていたので、SONY α7S IIというカメラを使って、レンズやフィルターの工夫でフィルムっぽい映像にしてみました。そこは映画とはいえ、映像作家としてのこだわりもあったんですよね。とにかくデビュー作は、自分の好きなことをとことん追求しようと思って挑みました。

──先ほど木村さんは、「ダメな男の話に惹かれる」とおっしゃっていました。それは何故なのでしょうか。

木村 昔から欠落しているもの、不完全なものに惹かれる傾向があるんですよ。日本の映画って欠陥のない映像を求めるところがあるじゃないですか。きれいな風景をそのままきれいに撮るとか、美しい人をそのまま美しく撮るみたいな。今は少しずつムードが変わってきていますが、まだまだメインストリームはそんな感じですよね。そこから排除されたものに焦点を当てたくなるというか。自分も含めて「ダメなところを受け入れたい」という気持ちがあるし、そこをさらけ出すことがむしろ芸術の根本だとも思っているんですよね。

ともかく、今のままだと日本映画はまだまだ世界に太刀打ちできないと思うし、その要因の一つが映像だと思っています。僕自身は、映像作家から監督になった人たち……例えばスパイク・ジョーンズやクリス・カニンガム、ミシェル・ゴンドリーの映画を観てきた世代なので、やっぱり映像や音楽が大事なんですよ。日本の映画はどうしてもストーリーに偏りがちで、その辺がおそろかになっている気がするんですよね。音楽や映像だけで成立してしまうような映画が日本にもっとあってもいいんじゃないかと思います。

木村太一 “Mu” / Taichi Kimura “Mu”

AFTERGLOWS | Official Trailer

D.A.N.の音楽が残す映画の余韻

──櫻木さんは、『Afterglows』を観てどのような感想を持ちましたか?

櫻木 とにかく、ほとばしるような光と深い闇のコントラストに感銘を受けました。映画を撮り始める初期段階から台本を読ませてもらったり、途中経過の話もその都度聞いたりしていたので、完成した作品を試写会で観た時はかなりグッときましたね。

木村 確か大悟がロンドンに遊びに来た時にも、この映画のことを少し話した気がする。構想の段階ではかなりめちゃくちゃなこと言ってたよね。タクシーが燃えて海の中に突っ込んで……みたいな。

櫻木 うん、言っていたかも(笑)。

木村 最初に大悟が言ってくれたように、僕は作品の中で常に音楽を大事にしているし、エンディングはかっこいい曲にしたいなと思ってその時に真っ先に思い浮かんだのがD.A.N.だった。“No Moon”の映像をやることになるくらいのタイミングだったのかな。オファーを快諾してくれた時はものすごく嬉しかったですね。

──オファーを受け、エンディングテーマ曲“Afterglows”はどのようなプロセスで制作したのでしょうか。

櫻木 まず映画を見た時、タクシーのウィンカーの音が印象に残っていたんです。『Afterglows』は「残光」という意味ですが、光だけでなく音もずっと残っているような感覚。それがエンドロールでもずっと続いていたら、気持ちよさそうだなというところから着想を得ました。シネマティックな音像みたいなものはもちろん大好きなので、それをやってみたい気持ちも以前からあったんです。完成した時は、「また一つ新たな表現方法を獲得したな」という気持ちにもなれたし、すごく思い入れの強い楽曲に仕上がりました。

──やはり、映画のエンディングテーマとなると、普段の曲作りとは変わってくるものですか?

櫻木 出発点が違いますよね。映画ありきというか、映像をまず頭に思い浮かべながら曲を作っていくわけですから。そういう意味では、普段の曲作りよりもやりやすかった。そもそも太一さんの作品が醸すムードが大好きで、それを面白がり興奮しながら作っていくのも楽しかったです。

──実際に上がってきた曲を聴いたとき、木村さんはどう思いましたか?

木村 最初、スタジオで聞かせてもらったときは思わずゲラゲラ笑ってしまいました(笑)。自分が想像していた仕上がりを軽々と超えてきたというか。タクシーがずっと走っている映画なのに、まるで空を飛んでいるようなサウンドだったから「『ブレードランナー』(リドリー・スコット監督作)かよ!」って。

櫻木 あははは!

木村 でも、よく聴いてみると、映画の流れやムードをすごく深く考えて作ってくれていることに気づきました。主人公の内面を描いているようにも聞こえるし、恋人であるさゆりの「悲しみ」や「怒り」を表しているようにも聞こえるんです。僕ら映像作家は見えるものを撮っているけど、音楽家は目に見えないもの、形として存在しないものを作っているから、ある意味では小説家に近い。受け手の想像力を投影させる余白がある、というのが強みなのだろうなと。映像は、そこに写っているものが自分にフィットしないとそれだけで拒絶反応を起こすことがあるけど、音楽や小説はその時の自分の気持ちや想像力に作品をチューニングさせることができる。そこはいつも羨ましいと思いますね。

映画『Afterglows』が映像と音像で捉える残光 ── 木村太一×櫻木大悟(D.A.N.)対談 interview221129_kimurataichi_sakuragidaigo_6
映画『Afterglows』が映像と音像で捉える残光 ── 木村太一×櫻木大悟(D.A.N.)対談 interview221129_kimurataichi_sakuragidaigo_5

共通するのはクリエイティブに向き合う反骨心

──今回、一緒にタッグを組んでみてクリエイティブな部分で共感したのはどんなところですか?

櫻木 やっぱり「気持ち」じゃないですかね(笑)。

木村 それ、わかるなあ(笑)。D.A.N.とは「気持ち」が通じ合っているんですよ。とにかく反骨心が強い。

櫻木 そうかもしれないです。スポ根というかファイティングスピリッツというか、ちょっと部活っぽいんですよ(笑)。

木村 D.A.N.みたいに、めちゃくちゃ洗練されたかっこいい音楽を作っている連中が、「気持ち」とかそういう汗臭いこというところが僕は好きなんですよ(笑)。もちろんルーツや手法も大事ですけど、とにかく作品ひとつで立ち向かう強い気持ち。D.A.N.に対しては、そこが最も共感する部分だと思っています。

──その根底にあるのは「怒り」ですか?

木村 僕は特に「嫉妬」は原動力になっていると思います。「なんであの人の方が俺よりも注目されているんだ!」という嫉妬心に突き動かされることは多いですね。「あいつらに見せつけてやる」みたいな。そういう「嫉妬心」を、僕自身は悪いことだと全く思ってない。むしろ嫉妬心があるからやっていけるような気がします。

櫻木 わかります。

木村 アートって僕は科学に近いと思うんですよ。科学や医学って基本的に否定から始まるじゃないですか。それまで定説とされていたものを覆すこと。それで次の段階に進んできたわけですよね。アートも同じだと思うんです。「否定こそがすべての始まり」みたいな。そういう意味では、自分が作った作品で今の流れを否定していく行為は嫌いじゃない。もちろん、誰か1人をディスったりする行為ではなくて。たった1人で全世界に向かって戦っている感じはありますね。

──ある意味、パンクスピリッツにも通じますよね。

木村 そうですね。そういう精神はイギリスから学んだところはあるかもしれない。“No Moon”のビデオを作っている時とか、「これで殴りにいこうぜ」って言ってたもんね?(笑)

櫻木 言ってましたね(笑)。僕もパンクを聴いて育ってきたし、反骨精神みたいなものは音楽を始めた時からずっと変わらずあると思います。「抗う」という行為は、生き物として自然なことだと思うんですよ。原始人の時代から、自然の厳しさに対して抗い続けてきたからこそ今の自分たちがある。何かに抗って生きることは、最もエネルギーの必要な「生命行為」じゃないのかなと。何にも抗う必要のない環境にいたら、僕は音楽をやっていたかどうかわかりませんし。まさに今、自分たちはまた環境を変えて、「生きなければ!」と思えるようにしたいし、それが音楽をやり続けている理由だと思っています。

──奇しくも本作の公開記念イベント<4D by Taichi Kimura “Afterglows”>が、D.A.N.にとって活動休止前のラストライブになるそうですね。

櫻木 そうなんですよ。まさかそんなことになるとは。こればっかりはコントロールできないことですが、それこそ“Afterglows”がD.A.N.としては(活動休止前)最後の曲になるわけで、結果的にいい着地のし方になるなと思っています。

──D.A.N.としての活動は、いったんここで区切りをつけるという感じなのですか?

櫻木 オフィシャルでは「ライブ活動を休止」と発表しましたけど、今後どうなっていくかは何も決まっていないし、正直分からないところが大きいんです。ただ、自分のソロ活動はやろうと思っていて。それこそバチバチに戦っていきたいですね。

木村 D.A.N.は日本で一番好きなバンドだから、ライブが見られなくなるのは寂しいですけど、絶頂期でストップするっていうのもD.A.N.らしいし美しいですよね。とにかく最初から最後までおしゃれな奴らだったなと。中身は全然おしゃれじゃないんですけどね(笑)。作り手って、どんな状況でも創作中はハッピーでいられるんですよ。なので、今後も定期的に頭と手を動かし続けてほしいです。

櫻木 頑張ります!

映画『Afterglows』が映像と音像で捉える残光 ── 木村太一×櫻木大悟(D.A.N.)対談 interview221129_kimurataichi_sakuragidaigo_main

Interview, Text:Takanori Kuroda
Photo:YUTARO TAGAWA

INFORMATION

映画『Afterglows』が映像と音像で捉える残光 ── 木村太一×櫻木大悟(D.A.N.)対談 interview221129_kimurataichi_sakuragidaigo_3

AFTERGLOWS

【キャスト】
朝香賢徹:守島 輝
MEGUMI:小松 さゆり/ 永山ちさよ
小家山晃:袴田
竹下景子:ラジオの声
【スタッフ】
監督:木村太一
脚本:木村太一、平松卓真
エグゼクティブ・プロデューサー:平松卓真、白田尋晞、木谷謙介、志村龍之介
プロデューサー:田川優太郎
撮影:上原晴也
照明:熊野信人
音響:小野川浩幸
美術:安田昂弘、福田哲丸
音楽:トーマス・ヤードリー

詳細はこちら

EVENT INFORMATION

映画『Afterglows』が映像と音像で捉える残光 ── 木村太一×櫻木大悟(D.A.N.)対談 interview221129_kimurataichi_sakuragidaigo_2

4D by Taichi Kimura “Afterglows”

2022年12月9日(金)
会場:WWW X
OPEN 18:00 / START 19:00
料金:ADV ¥4,000 +1D  
出演者:D.A.N. / ZAKINO
展示:木村太一
・一般発売:11月26日(土)10:00
問い合わせ:WWW X:03-5458-7688
4D by Taichi Kimura “Afterglows”
[Live]D.A.N./ ZAKINO
[Exhibition]Taichi Kimura
Main Visual
Graphic Design:Heijiro Yagi
Photography:Yutaro Tagawa
Exhibition
Art Direction:Tetsumaru Fukuda
Producer:Takuma Hiramatsu / Yutaro Tagawa
VJ:Takahiro Yasuda
Curation:Hajime Matsuo
Presented by WWW/4D

チケットはこちら