今や韓国の若者の間では、ヒップホップがメインストリームとなりつつあることをご存知だろうか?
2012年、ケーブルテレビ・Mnetにてスタートしたラッパーサバイバルオーディション番組「SHOW ME THE MONEY」によって、空前のヒップホップブームが巻き起こった韓国音楽シーン。
韓国ヒップホップは、アンダーグラウンドやHIPHOPレーベルで活躍するアーティストだけでなく、フィメール/アイドルラッパーのクオリティーも高く評価されており、他国とは一線を画した広がり方を見せているのがその特徴だ。
今回は、世界でも異彩を放つ韓国ヒップホップのリアルな姿を目撃すべく、現行のシーンで活躍中のアーティストが一堂に集うと噂のフェス<HIPHOP PLAYA FESTIVAL 2018>に潜入。
あまり聞き馴染みのないアジアの音楽フェス。出演者や会場の様子、日本のフェスとの比較など、気になる実態を徹底レポート! さらには、当日、圧巻のパフォーマンスを見せつけたクルー LEGIT GOONSのステージについても、フォトレポートとしてご紹介。
フェスを通して、韓国の音楽シーンにおけるヒップホップカルチャーの立ち位置が少しずつ見えてきた。
<HIPHOP PLAYA FESTIVAL 2018>
一体、どんなフェス? 出演者は?
桜が咲き乱れる4月1週目。ソウル市内にある蘭芝漢江公園にて、春のヒップホップフェス<HIPHOP PLAYA FESTIVAL 2018>が開催。
<HIPHOP PLAYA FESTIVAL>は、韓国ヒップホップの最新情報を伝えるウェブメディア「HIPHOP PLAYA」が主催する大型ヒップホップフェス。毎年、韓国ヒップホップシーンのオーバーグラウンドで活躍する大御所から新人アーティストまで、幅広く出演する。
今年は、「HIPHOPPLAYA」と、同じくヒップホップメディアの「HIPHOPLE」の共同主催で行われる韓国ヒップホップの授賞式<Korean Hiphop Awards 2018>の受賞アーティストが続々と登場した。
・DPR LIVE(「New Artist of the Year」受賞)
DPR LIVE – Laputa (ft. CRUSH(크러쉬)) OFFICIAL M/V
・Jay Park(「Artist of the Year」受賞)
[MV] SiK-K, pH-1, Jay Park – iffy (prod by. GroovyRoom)
その他にも、Hip-hop Album of the Yearを受賞したLEGIT GOONSや人気レーベル〈Hi Lite Records〉所属のHuckleberry P、2004年から第一線で活動を続けるベテランユニット Dynamic Duoや2016年の<Korean Hiphop Awards>にて受賞経験のあるNucksalなど、豪華なアーティストが出演。
今年のラインナップは2回に分けて発表されたが、名だたるメンツに開催前からヘッズの間ではかなりの期待が高まっていたようだ。
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・日本人はまだ知らないソウルの最新ヒップホップシーン事情 (Hi-Lite Records 社長 Paloalto 単独ロングインタビュー part.1)
季節はまるで冬!? 会場前の雰囲気は……
この日の朝の気温はなんと3度。4月とは思えないほど冷たい風が吹く中、入場前のチケット引換所ではカイロの配布が行われていた。
日本では寒い時期にフェスが行われること自体が少ないため不思議な感覚ではあったが、運営スタップの優しさによりオープン前から心と身体が温まる……!
気になる客層は、10代〜20代の現地の若者が9割を占めており、残りの1割は欧米系を中心とした外国人。意外なことに、日本人はほとんど居なかったように感じた。
鑑賞しやすい2つのステージ
ステージはSEOUL StageとTSINGTAO Stageの2つ。SEOUL Stageは大型フェスらしく、大きなDJブースとステージが設置。そこから歩いて2分ほどのテントの付いたTSINGTAO Stageは、りんご音楽祭でいう「おやきステージ」ほどのサイズ感で、2つのステージにて交互にパフォーマンスが行われるスタイルでフェスは進行していく。
また、SEOUL Stageの後方にはブルーシートを敷いて寛げるスペースも! ゆっくりとフェスを堪能するには「ちょうどいい」会場の作りとタイムテーブルに、早くも確信する「いいフェス」感……!
音楽だけじゃない! 充実の会場内
会場には他にも、グラフィックアーティスト Jay flowの作品や、複数のフォトジェニックなスポットも用意されていた。可愛い韓国女子たちが一生懸命自撮りをしている姿を横目で見ながら、ステージの名前にもなっているTSINGTAO BEER(青島ビール)の特設ブースでビールを飲むのもまた、趣深いものがある。
さらには、出演のが終わったアーティストのサイン会場や、HIPHOP PLAYAのYouTubeチャンネルで放送されている番組「내일의 숙취 Tomorrow’s hangover」の公開収録ブースも設置。
アミューズメント要素の強い会場は歩き回るだけでも面白く、丸一日いても飽きないような素敵空間となっていた。
実感! 日本のフェスとここが違う!
重低音が心臓まで響く!?
スピーカーから響き渡る、驚くほどドッスドスの重低音。その鳴りには、大都市の中にある公園のステージでこんなに響かせて大丈夫……? と、心配になるほどの衝撃を受けた。
近隣事情は分からないので割愛するが、とにかく音がデカい! 心臓まで響く! フェスにおいて(特にヒップホップであることも加担して)、こんなに気持ちのいいシチュエーションは他にない。
なぜあんなにも重低音が出ていたのかというと、一説によると韓国の電圧の問題が関係しているようだ(日本の電圧が100Vであるのに対し、韓国で流れているのは220V)。諸説あるが、とにかくバイブスが上がったことには違いない。体内にバスドラが染み込んでいくような、日本では味わえないあの感覚がすでに恋しい……。
踊る! 騒ぐ! ハイテンションのヘッズたち
さらに圧倒的に感じた日本との違いとして、来場者の雰囲気が挙げられる。日本のヒップホップ要素の強いフェス(りんご音楽祭や、頂-ITADAKI-など)では、お酒を片手にゆる〜く揺れて楽しんでいるお客さんが多い印象であるのに対し、今回のフェスでは、アーティストと観客がステージの垣根を超えて、一体となっている姿が印象的であった。
日本ではよく目にする、お酒を飲みまくって泥酔しているような人はあまり見受けられず、とにかく常にハイテンションで出演しているアーティストを応援。「8mile」のライブシーンばりの臨場感に圧倒される……! 普段はあまり激しく揺れない私も思わず雰囲気に飲まれ、気づけば踊り狂っていたことは言うまでもない。
【フォトレポ】LEGIT GOONS 圧巻のステージ
今一番熱いクルー LEGIT GOONSとは?
<HIPHOP PLAYA FESTIVAL 2018>トップバッターを務めた、韓国唯一のビンテージクルー LEGIT GOONS。
彼らは2012年に結成され、4MC+ビートメーカー、映像ディレクターをはじめとした制作メンバー数人を含む大型クルー。結成時からじわじわと増員を続けており、その全容は謎に包まれている。
先述の<KOREAN HIPHOP AWARDS 2018>でアルバム『Junk Drunk Love』がHip-hop Album of the Yearを受賞したことで国内外でも注目を浴び始めている、2018年最重要クルーだ。
ここからは、トップバッターでありながら、そのオーラとスキルが光るパフォーマンスで観客を魅了したLEGIT GOONSの圧倒的&衝撃的で最高のステージをフォトレポートとしてご紹介。
熱気に包まれた30分間
溢れんばかりの風格を身にまとい、ゾロゾロとSEOUL Stageに現れた4MC。開演直後にも関わらずいっぱいになった観客を前に、受賞した最新アルバム『Junk Drunk Love』からパーティーチューン“ Trucker”を披露し、初っ端からバッチリ沸かせる。2000年代のJ-HIPHOPっぽいおチャラけたギターリフが特徴のこの楽曲とハイテンションなメンバーの動きとが相まって、会場は一気に熱くなる。
続けてBPMを落として披露したのは、2016年発売のアルバム『Camp』から“야자수”。チルで気持ちいいビートと気が抜けたラップの間に、ちょっと不思議なフロウやフックでスパイスが加えられた名作だ。
리짓군즈 (Legit Goons) – 야자수
MCでは、受賞した<KOREAN HIPHOP AWARDS 2018>の表彰盾を掲げてファンと共に喜ぶ姿も。さらに、ステージの上からファンと会話をしたり、突如彼らのグッズ(パーカー)を客席に投げるプレゼントコーナーが開催されたりなど、楽曲の雰囲気と同様にかなり自由奔放なクルーのようだ。
MCが終わると、再び最新アルバムから、きめ細かいベース音に乗せてワルそうな雰囲気を漂わせた“Bad Things”、寝ながら聞きたい、最高のダラダラチューン“Very Paradise”を立て続けに披露。心地よくて、そのまま寝ちゃいたい気分……。
そしてライブも終盤に差し掛かり、フロア全体に絶妙なゆるい時間が流れはじめたそんなタイミングでスタートしたのは、『Junk Drunk Love』リード曲“Junk Drunk Love”。イントロが始まるや否や、その日一番の熱狂に包まれた。
この曲の秀逸さはもはや説明不要。とにかくチェックしてほしい。センスしか感じないMVにも注目だ。
리짓군즈 (Legit Goons) – Junk Drunk Love MV
最後は同アルバムより同じく人気曲、“Young Scooter”でクールに決めてパフォーマンスは終了した。
韓国ではじわじわと人気をあげてきているLEGIT GOONSだが、実は日本ではまだほとんど話題になっていない。気になった方は、今のうちに彼らの最新アルバムを聴いてみることをオススメする。
日本よりもアーティストと観客の距離が近く、そこから生まれるライブの一体感が印象的であった今回のフェス。
表現者のファン思いな姿勢やお互いのリスペクトが、韓国にヒップホップカルチャーを根付かせている一因となっているのではないだろうか……?
毎年開催されている<HIPHOP PLAYA FESTIVAL>だが、一度足を運べば誰もが韓国ヒップホップの魅力にハマってしまうはず。今後のシーンからも、まだまだ目が離せない!