今ではお馴染みになった「韓流」という言葉。なんとなく使っているこの言葉には、広い範囲の文化とその流れが含まれています。
最近雑誌などのメディアを中心に聞かれるようになった「韓流サードウェーブ」という言葉も、その変遷を辿った上で今の韓流を語ろうとする姿勢から生まれたものでしょう。
では、この「韓流サードウェーブ」とはどのような経緯から生まれ、またどのような特徴があるのでしょうか。これまでの韓流の流れから今の韓流「第3の波」を見てみましょう。
「韓流サードウェーブ」概論
〜今巻き起こる韓国ムーブメントの系譜〜
ファーストウェーブ:冬ソナとBoAの大ヒット
「冬のソナタOST」RYU‐처음부터 지금까지(始めから今まで)
「韓流」という言葉は、実は韓国で生まれたものではありません。時は1992年、韓国と中国との国交が正常化し、韓国ドラマ『ジルトゥ(질투/嫉妬)』を筆頭に、韓国の大衆文化が続々と中国に紹介されるようになりました。
1998年には韓国でも大人気だったドラマ『サランイムォギルレ(사랑이 뭐길래, 恋がなんだと)』が中国で大ヒットし、2000年前後にはH.O.T.、Baby Voxなどの韓国アイドルが中国でのヒットを記録。このブームを捉えるべく、中国のメディアが使用したのが「韓流」という言葉でした。すなわち、「韓流」は1990年代から2000年代初めにかけて中国や台湾、東南アジアを中心に発生した韓国コンテンツブームを示す言葉だったのです。
一方、日本では2002年のサッカーワールドカップの日韓共同開催をきっかけに韓国文化への関心が高まり、文化交流も多く行われるようになりました。
「韓流」と聞くと誰もがまず思い浮かべるであろうドラマ『冬のソナタ(겨울연가)』が放送されたのは、ちょうどこの頃。俳優の来日時にはファンが空港に殺到し、旅行代理店が競うように仕掛けたドラマのロケ地ツアーが大人気になるなど、ドラマの枠を越えた、その年を代表する社会現象となりました。
冬ソナの放映の少し前には、J-POPで多数の「韓国人初」のタイトルを持つシンガー・BoAがデビューしています。彼女はデビュー前から日本市場を目指してトレーニングを重ね、実際に大成功を果たした最初のK-POPアイドルでもあります。BoAの成功は以降続くK-POPを軸とした韓流カルチャーの、大きなマイルストーンになりました。各国に撒かれた「韓流」や「K-POP」の芽は、セカンドウェーブでより大きな事象へと花開いていきます。
セカンドウェーブ:K-POPを軸とした市場規模の拡大
KARA – ミスター(日本語版)
2000年代半ば頃から、「韓流」は徐々にアジア各国へとその活動の幅を拡大していきます。
例えば、歌手で女優のチャン・ナラは2004年活動頃から中国での活動を開始。翌年には「チャイナゴールデン・ディスクアワード」で最高人気歌手賞を受賞し、一躍大スターになりました。2003年から2004年にわたって放送されたドラマ『宮廷女官チャングムの誓い(대장금)』は日韓中の三カ国以外にも、台湾、トルコ、香港、タイなどアジアの広い領域でヒットし、イラン、スリランカ、ルーマニア、ジンバブエでも国民的な人気を得ました。
これらのシンドローム的な成功により、「韓流」は多くの国において文化的な土壌を確立します。「K-POP」が一つのジャンルとして定着し始めたのも、この頃と言ってよいでしょう。日本でも、少女時代、KARA、東方神起など、「新・韓流」と呼ばれるアイドルが登場。この三組は2011年の紅白歌合戦に出場しています。
アジアにおけるファーストウェーブが俳優個人や、作品単体が引き起こした現象だったとすれば、セカンドウェーブでは、それ自体が一つの文化として各国で定着したのが特徴です。韓流は、アジアでの成功によってその勢いは更に広がりを増していきます。
韓流サードウェーブ:「K-POP」以外も巻き込んだユースカルチャーとして
防弾少年団(BTS) – DNA(Live at AMA 2017)
2010年以降から今に至る韓流サードウェーブは、また傾向が違います。2000年代から広まってきた活動範囲は、今や大衆文化の中心であるアメリカにまで及んでいます。2000年代にもアメリカ進出を試みたことはありますが、目立った実績を残した例はありませんでした。しかし、今ではK-POPアイドルが世界中でコンサートを開催し、KCONなどK-POPイベントが欧米でも定期的に開かれるようになりました。PSYの『Gangnam Style』が世界中で話題になったり、防弾少年団がビルボード・アワードで受賞し、AMAでパフォーマンスしたりすることは単なる奇跡ではなかったということです。
しかし、「規模の拡大」だけが今の韓流の特徴ではありません。今の韓流では、それまでと比較し、情報伝播のプロセスが変わった点がポイントと言えます。発生と消費のタイムラグが無くなったSNS以降のメディア環境が、韓流の伝播に大きな役割を果たしています。
TWICE – TT (韓国語版)
例えば、今は世界中のファンたちがみんな同じ時刻に新しいMVやSNSライブを見てコミュニケーションをします。日本でも人気のアイドル・TWICEはデビュー前から『TT』の振り付けである「TTポーズ」がかわいいとSNSなどで話題になり、若者の間で流行ってから日本でデビューしました。
デビュー後も、日本では披露したことのないハングルの楽曲が日本でチャート・インしたりすることもありました。BoAが日本活動のために日本語を勉強し、日本の事務所との協力で勝負した時とは違い、TWICEは韓国でヒットしたものがそのまま日本でも愛され、メンバーたちの日本語が苦手な点までもがかわいらしさとして受け入れられています。このような傾向はK-POPだけに限りません。韓国から積極的に世界市場を狙っていた時代とは全く違うと言っていいかもしれません。
lute live:Dok2 「Beverly 1lls」
K-POP以外の動きも非常に活発です。特にヒップホップにおいては、2014年のMCバトル番組『Show Me The Money』シーズン3が火付け役となって、韓国は若い女性をも取り込んだ一大ブームに。番組内で制作された楽曲がリリースされるとランキングの上位を独占する、という事態が頻発するようになります。
この番組によって多数のスターが誕生しました。Jay Park率いるヒップホップ・レーベル〈AOMG〉や〈Illionaire Records〉、〈Hi-Lite Records〉などが海外でライブをしています。国のインディーズ文化が世界で紹介されることで韓流のパイが大きくなり、その多様性も富むようになりました。
Reddy, Sway D, Paloalto, YunB, G2, Huckleberry P & Camo Starr – Break Bread [Official Video]
この影響は日本においても多くの面で見られます。その一つの特徴が「K-POPではない韓国音楽」が国内カルチャーの流れとクロスオーバーし始めていること。
例えば、王子出身のラッパー・KOHHが、韓国のアーティスト・Keith Apeの楽曲にフィーチャリングアーティストとして参加した『It G Ma』は、アメリカをはじめ世界中で話題となり、両アーティストの知名度を上げる足がかりになりました。韓国でも、この曲でKOHHの名を知った人が多かったはずです。
Keith Ape – (It G Ma) (feat. JayAllDay, Loota, Okasian & Kohh) [Official Video]
また(少しヒップホップからはズレますが、)シンガー・IU(アイユー)のフックアップによって人気を獲得したバンド・HYUKOH(ヒョゴ)も、日本でのヒットを記録しました。感度の高い音楽ファンなら、彼らが日本のカルチャーを紹介する代表的な雑誌『EYESCREAM』で表紙を飾ったことや、昨年never young beachと共演したことなど、その実を知っていることでしょう。なお、HYUKOHは今年の〈GREEN ROOM FESTIVAL〉への出演も決まっています。
さらに、ファッション領域でも韓国カルチャーの影響力が強まっています。R&BのシンガーソングライターであるDEANは、今年1月にアーバンリサーチ(URBAN RESEARCH)がさまざまなジャンルのアーティストを迎える企画「PORT」に参加し、コラボ商品を発売。ローンチの際にはオンラインサイトにアクセスが集中してサーバーダウンするほどの人気だったといいます。
また、今年4月には韓国のブランド「ADER ERROR(アーダー・エラー)」と、フランスのブランド「KITSUNE(キツネ)」がコラボコレクションを発表、ローンチを祝し渋谷の〈SOUND MUSEUM VISION〉で開催された音楽イベント「キツネ クラブ ナイト(KITSUNE CLUB NIGHT)」も大盛況に終わったそうです。
このように、日本国内でも「K-POPを必要としない韓国カルチャー」がユースの心を掴んでいる状況も、徐々に出来つつあるのです。
国境を越えた新たな潮流は生まれるか
これまで見てきたように、サードウェーブにおける韓流の受け入れ方は複合的です。
ファーストとセカンドウェーブで形成された既存のK-POPファン層だけではなく(もちろんそういったファン層も含まれるとは思いますが)、理解度の高いカルチャーファンに対して、より多角的に定着しつつあるのが「韓流サードウェーブ」最大の特徴です。
これはSNSを軸としたメディア環境の役割の上に、好印象を与えてきたこれまでのヒットが重なった結果でもあるでしょう。そして(日本の例でもよく分かるように)、消費者の年齢が低くなったため、そして一つの文化として定着したため、国家間の紛争や政治問題などで業界の事情が変わっても消費者の趣味はあまり影響されなくなったことも、要因の一つかもしれません。
ついに始まった「韓流サードウェーブ」。その潮流に気づいている人は、決して少なくないはずです。きっと、日本国内はもちろん、多くの国において、そして色んな分野で自然と拡大していくのだと思います。そして、その先にあるものとは? 2020年代の新しいスターやムーブメントは、国を越えたクロスカルチャーの先にあるのかもしれません。
text by soulitude