ジェイムス・ブレイク、マウント・キンビー、ラスティ 等、ここ数年の音楽シーンには新たな才能が続々と現れ、実に刺激的なシーンが構築されている。ダブステップ、ベース・ミュージック、ヒップホップ…様々な音楽が自由に交わり、ジャンルというものの境界線が極めて曖昧となっている現在の流れにおいて、世界的にその動向が注目されているレーベルと言えば、何と言っても〈ブレインフィーダー〉を忘れることは出来ない。そして、LAを拠点とするこのレーベルが唯一リリースするUKのアーティストこそが、今回紹介するラパラックスだ。
ラパラックスことスチュワート・ハワードは、イギリスのエセックス出身の若干25歳。2011年3月にロンドンのレーベル〈ピクチャーズ・ミュージック〉から、カセットテープというフォーマットでリリースした”Many Faces Out Of Focus”が話題となり、その後、〈ブレインフィーダー〉にトラックを送った直後に、主宰のフライング・ロータス本人から返事が届き、即契約が決まったというのは有名な話である。2012年には、”When You’re Gone” “Some Other Time”と、素晴らしい内容のEPを立て続けにリリースし、10月には待望の来日公演も実現したばかり。そしていよいよ、デビュー・アルバムとなる最新作『ノスタルシック』が、3月16日(土)にリリースされる。
「ノスタルジック」+「シック」=「洗練されたノスタルジー」という意味合いも持つ最新作『ノスタルシック』は、カセットテープへの憧憬を感じさせるような Tape Intro から静かに始まる。続く “Guuurl” では、彼の唯一無二の世界観がはっきりと輪郭を見せ、エモーショナルなビートの上を漂うディストーションされたヴォーカル、暖かみのあるビートがループしてゆく高揚感はとても印象的。そして、先行シングル “Without You” でフィーチャーされているのは、「Peter & Kerry」というユニットでも注目されている女性シンガー、ケリー・リーサム。彼女の力強くかつ繊細で、息を飲むような唄声が、ラパラックスの深みのあるトラックと溶け合う様は、今作のハイライトと言えるだろう。また、アルバムの後半で聴くことが出来る “The Dead Sea”。ノイズ、耳元で囁く声、ドラマティックなサックスの響き等の様々なテクスチャーが重なって行く様は圧巻であり、このアルバムの完成度の高さを強く印象づけてくれた。
収録曲 “Guuurl”
現代は、自宅のPCで音楽を作り、インターネットを通して誰もがより簡単に作品を発表出来る時代。しかし、その中で注目を集め評価されることは、並大抵のクオリティでは難しいのが現実。そこで必要になるのは、やはりその人だけにしか持ち得ないアイデンティティだろう。ラパラックスのクリエイションは、エレクトロニック・ミュージックの先進性と、暖かみと深みのあるテクスチャーがとても自然に調和している。そして何より、エモーショナルな「ソウル」が彼の音楽には溢れている。彼は、エレクトロニック・ミュージックの可能性を最大限に引き出したとも言えるし、エレクトロニック・ミュージックの発展の中で、いつの間にか忘れられていた「ソウル」を、多くの人に思い出させてくれたのでは無いだろうか。このような作品が世界できちんと評価されるのであれば、エレクトロニック・ミュージックの未来は間違いなく明るいものになる…そう確信させてくれたアルバムである。
(text by Yasumasa Okada[DESTINATION MAGAZINE])
Music Video:先行シングル”Without You (ft. Kerry Leatham) “
★アルバム未収録の新曲”Forlorn (ft. Busdriver) “を無料ダウンロード中!
Release Information
2013.03.16 on sale! Artist:LAPALUX(ラパラックス) Title:Nostalchic(ノスタルシック) BRAINFEEDER / BEAT RECORDS BRC-367 ¥1,980(tax incl.) 日本盤特典:ボーナス・トラック追加収録 Tracklist |