トロイ・シヴァン(Troye Sivan)とコラボレーションしたシングル「I’m so tired…」に続き、チャーチズ(Chvrches)がリミックスを担当した最新シングル「Drugs & The Internet」を先頃リリースして新章の扉を開けた新世代のポップスター、ラウヴ(Lauv)。この絶好のタイミングで行なわれる2度目の日本公演は彼のパフォーマーとしての実力も強く印象付けるものになるに違いない。
そんなラウヴの魅力を5つのポイントに絞って解き明かしていこう。
Lauv ー Drugs & The Internet [Official Video]
1.引っ越しの多さが柔軟性と広角型の音楽性に結びついている
ラウヴが生まれたのはサンフランシスコ。とはいえ、すぐに対岸の港湾都市オークランドに移って4歳まで住んだそうなので、恐らく最初の記憶はオークランドだろう。オークランドはカリフォルニア州のなかでもロングビーチと並んで人種の混成率が高く、ロックもパンクもR&Bもファンクもわりと等しく聴かれている土地。よって幼少のラウヴもそれらを偏りなく自然に耳にしていたのだろう。
オークランドから登場した有名なバンドといえば、グリーン・デイ(Green Day)、トニー・トニー・トニー(Tony! Toni! Tone!)、タワー・オブ・パワー(Tower of Power)などが挙げられる。ラウヴはそのひとつ、グリーン・デイに影響されてギターを弾き始めたそうだ。といっても、それは10歳の頃だと言うから、オークランドからはとっくに離れ、その頃はジョージア州のアトランタに住んでいた。恐らくアトランタに住みながらも、幼少時に自分も住んでいたオークランドから羽ばたいて世界的に成功を収めたグリーン・デイを誇りに感じていたのだろう。「グリーン・デイを聴きながらギターを練習して、曲の構成を学んで、それで13歳から曲を作るようになったんだ」と彼は言っていた。
2000年代、成長期にあったラウヴはアトランタで暮らした。アトランタと言えばなんといってもヒップホップとネオソウル系のアーティストを数多く輩出してきた地だ。90年代前半にTLCからアレステッド・ディベロップメント(Arrested Development)までが登場し、半ば以降はアウトキャスト(Outkast)ら“ソウルの精神を有したヒップホップ”のアーティストがシーンを盛り上げ、2000年代に入るとT.I.、リュダクリス(Lucacris)、リル・ジョン(Lil Jon)らがデビューしてクランクが主流となった。「その当時のヒップホップやR&Bにはずいぶん影響されたよ」とラウヴ。彼の楽曲にはヒップホップ特有のつんのめるビート感があるものや、滑らかなフロウに聴き惚れてしまうものもあるが、それは成長期にアトランタに住んでヒップホップとR&Bをたんまり吸収していたからにほかならない。
そんなラウヴはアトランタの次に今度はフィラデルフィアに移住し、そしてそのあとニューヨークに移り住んだ。ニューヨークの大学に通っていたときにはスタジオでインターンをやりながら録音や曲制作について勉強していたそうだ。その頃に作った自信作「The Other」をネットにアップしたことで音楽出版社やレーベルから連絡がくるようになり、ミュージシャンとしてのキャリアが本格的にスタートした。そして、その音楽キャリアを一層強靭なものにするため、ショービジネスの盛んなL.A.に引っ越したのだった。
サンフランシスコ→オークランド→アトランタ→フィラデルフィア→ニューヨーク→L.A.。まだ20代前半でありながら、そのように彼はこれまでいろんな場所に移り住んできた。小さな町にも住んだし、ニューヨークのような大都市にも住んだ。その住む先々に根付いている音楽を吸収し、よって音楽性も考え方も広角的になった。多様な音楽を自身のものとし、軽々とジャンルを横断、そして混合させていく、その柔軟さ、身軽さが、ラウヴの大きな魅力であり可能性の大きさであることは間違いない。
2.ヒットポテンシャルの高い曲を量産
ラウヴは“いい曲”を書けて、しかもそれを“量産できる”アーティストだ。“いい曲”とはどういうものかというと、心の琴線に触れるメロディということ。あるいは、聴き手が自身の経験に重ね合わせることのできる共感性の高い歌詞ということ。どうしようもなく切なかったり、ロマンティックだったり、気分がアガッたり。ひとが生きていろんな経験をしていくなかで芽生える様々な感情に、彼はとてもしっくりくる、あるいは寄り添うような歌詞とメロディを書くシンガー・ソングライターなのだ。
そしてその曲調は一辺倒じゃない。インタビューした際にこれまで影響を受けたミュージシャンを尋ねると、彼は先述のグリーン・デイのほかに、ポール・サイモン(Paul Simon)、ジョン・メイヤー(John Mayer)、コールドプレイ(Coldplay)といった名前を挙げていたが、なるほど、ポール・サイモンのような正統派シンガー・ソングライターから受け継いだと思しき抒情性が表われた曲があれば、ジョン・メイヤーのようにフロウを重視した曲もあり、コールドプレイのようにドラマチックでスケール感を有した曲もある。つまり彼の考える“いい曲”の幅はとても広いということだ。
そして、これが肝心なのだが、ただ単に“いい曲”を書くだけでなく、彼はヒットポテンシャルの高い曲を書くことができる。例えば彼の名前を一躍世界に轟かせることとなった「I Like Me Better」。この曲のヒットの要因は、イントロ部分のエキゾチックな旋律の繰り返しがどうしようもなく耳に残るものだったからというのが大きいと自分は考えているのだが、それを伝えるとラウヴはこう言ったものだった。「以前はただ“いい曲”を書くことしか考えてなかったんだけど、16~18歳の頃に、どうやったらヒットソングが書けるようになるのか、その頃に流行っていたヒットソングを聴きまくって曲の構造を徹底的に分析したんだ。ケイティ・ペリー(Katy Perry)のヒット曲は特に参考になったよ。そうやっていろいろ試行錯誤して、ようやく印象に残るフレーズや曲が書けるようになったんだ」。
そうして彼は、“いい曲”である上、“ヒットポテンシャルの高いモダンな楽曲”を次々に生み落とすようになった。自身が歌う曲のみならず、チャーリーXCX(Charlie XCX)の「Boys」やチート・コーズ(Cheat Codes)の「No Promises(feat.Demi Lavato)」といった提供曲のヒットでもその才は証明されている。
Charli XCX ー Boys [Official Video]
Cheat Codes ー No Promises ft. Demi Lovato [Official Video]
心の琴線に触れるグッド・メロディを書きながら、現代的なサウンドやループなどで強い印象付けもできる、そんな才能を有するゆえ、デビュー当時にポスト・エド・シーラン(Ed Sheeran)的な言われ方をしていたのもよくわかることだ。因みにエド・シーランは『÷(ディバイド)』世界ツアーの一部公演のオープニングアクトにラウヴを指名。2017年秋に予定されていた日本公演はエドが怪我して延期になったため叶わなかったが、東南アジアや北米の大会場ではまだ無名ながらエドのオープニングアクトを立派に務めたものだった。
3.ストリーミングで人気を獲得。アルバム・デビューはまだ。
日本独自企画の『ラウヴEP:ジャパン・エディション』が出たのは2017年11月のこと。そこから数えてまだ1年半しか経ってないが、ラウヴは曲を量産し、あまり間をあけることなくどんどん発表している。それらはどれも、まずはネットでリリース。まあ今の時代はそういうものだが、ストリーミングでの公開が先で、フィジカルは後回しだ。いや、後回しというか、正確にはラウヴはまだワールドワイドでフィジカルの作品をひとつも出していない。2017年の『ラウヴEP:ジャパン・エディション』も先頃出た『アイ・メット・ユー・ホエン・アイ・ワズ・18.』も、ストリーミングで先に公開されたものを、未だCDが音楽メディアの主流である日本に限ってあとからCD化したものなのだ。
今年4月に2枚組の盤として発売された『アイ・メット・ユー・ホエン・アイ・ワズ・18.』。そのディスクー1に収録された17曲は、昨年5月に「プレイリストとして」公開されたもの。ストリーミングの普及によって、この2年くらいの間にアルバムに対する意識や価値感は聴き手のみならず送り手の間でも大きく変化した。アーティストにとっては作る速度やまとめ方もずいぶん変わった。特にラップ・ミュージックの世界は顕著で、2017年にドレイク(Drake)が『More Life』をいち早くプレイリストとして公開したり、チャンス・ザ・ラッパー(Chance The Rapper)がミックステープを再定義したり。若きシンガー・ソングライターであるラウヴもまた、いい曲をすぐに聴いてもらえるのならアルバムという形態にこだわる必要などないじゃないかと言わんばかりに、この数年の曲をまとめて、まずプレイリストとして公開したわけだ。
「で、正式なアルバムはいつ出すの?」前回来日時のインタビューで筆者がそう訊くと、彼は「まあ、そのうちね」と言って笑い、「曲のストックはめちゃめちゃあってね。たくさんありすぎて困るくらいなんだ」と続けたものだったが、未だアルバムの形は見えてこず(制作は実際、している途中だそうだが)、それとは別に相変わらず新曲をランダムにストリーミングで発表し続けているところ。フォーマットにこだわることなく、このような形でどんどん人気を上昇させているラウヴは、まさにストリーミング時代の申し子と言えるだろう。
4.さまざまなコラボレーションで音楽性を拡張
現代のアーティストにとって、誰かとのコラボレーションでキャパシティと可能性を広げていくのはごく当たり前のことだが、ラウヴも早くから多様なジャンルのアーティストと積極的にコラボレーションしてきた。DJスネイク(DJ SNAKE)の2017年楽曲「A Different Way」(エド・シーランも作曲で関与)にラウヴはヴォーカリストとして起用されたが、それはラウヴが確かなキャリアを築いていく大きなきっかけとなるコラボだった。
DJ Snake, Lauv ー A Different Way
また、『アイ・メット・ユー・ホエン・アイ・ワズ・18.』にも収録された「QUESTION」ではラップでトラヴィス・マイルズ(Travis Miles)をフィーチャー。「大きなスタジオでの作業は得意じゃない。自宅で音を録るか、ホテルの部屋にマイクを持ち込んでPCで作業したりするほうがリラックスしてできる」と言いながらも、年をおうごとに外で誰かとコラボすることの楽しさが彼のなかで増していってるようだ。
その証拠に、昨年9月にリリースされたシングル「There’s No Way」ではカリフォルニア州サンタクラリタ出身のシンガー・ソングライターであるジュリア・マイケルズ(Julia Michaels)をフィーチャー。「僕にとってこの曲は、誰かと知り合った途端、何か激しい化学反応が起こったみたいに急接近する感覚を歌った曲」と、まさにコラボの興奮を言葉にするように語っていた。
Lauv ft. Julia Michaels ー There’s No Way[Official Video]
そして今年1月にリリースされ、Spotifyの週間バイラルチャートで連続1位を記録するヒットとなったシングル「I’m so tired…」だ。御存じの通りこの曲は美貌のシンガー、トロイ・シヴァンとコラボレーションしたもの。「アイデアが浮かんでラウヴと一緒にこの曲を書き始めたんだけど、偶然が重なって結局デュエットもすることになった」と言うトロイに対し、ラウヴは「ここ数年の彼の活動を目にして大ファンになっていた。彼とコラボレーションできたのは光栄なことだよ」と話していたものだった。
Lauv & Troye Sivan ー i’m so tired… [Official Audio]
また、つい先頃の新曲「Drugs & The Internet」を、ラウヴはチャーチズのリミックスで発表。「チャーチズは学生の頃からずっとファンだったので、とても光栄」と言うラウヴだが、実はこれこそが来たるべき1stアルバムへの導入となる曲でもあるのだそうだ。なるほど、新章突入を感じさせもする会心の1曲。こうしたいろんな人たちとのコラボが、間違いなく彼のソングライト能力の進化に結び付いている。
5.観るものを熱狂させるライブパフォーマンスの魅力
宅録を好むアーティストでありながら、ラウヴはしかしライブにおいて、とても開かれた行き方をする男だ。2018年3月に彼は代官山UNITで2日間の初来日公演を行なったのだが、エド・シーランのようにじっくり歌って聴かせるシンガー・ソングライター的なステージを想像して観に行ったら、いい意味で大きく裏切られた。ラウヴはステージ狭しと動き回ったり、ダンスをしたり、アイドルばりにポーズをキメたりもしながら歌い、そのパッション溢れる動的パフォーマンスで観客たちを魅了したのだ。そこにはスターとして邁進していこうとする意志と覚悟もハッキリと感じ取れ、「こんなにも熱い男だったのか!」と自分は軽く衝撃を受けた。そのことをインタビューの際に伝えると、彼はこう話したものだ。「10代の頃からライブをやってるけど、ある時期までは“ライブは抑えるところは抑えて、ちゃんと歌を聴かせなきゃダメだ”って考えにとらわれすぎていたんだ。でもあるとき、“そんなに自分を抑え込まないで、もっと曝け出したほうがいいんじゃないか。やりたいことを好きなようにやって、自分を開放したほうがいいんじゃないか”と気づいて、実際そういうふうにしたらみんなも盛り上がってくれてね」。
また、彼はライブにおいて、ロックスターのようにエレクトリックギターを弾きまくったりもしていて、それもまた観る者たちを熱狂させていた。あの初来日公演から1年ちょっと。この原稿は2度目の日本公演の直前に書いているのだが、昨年のライブから楽曲数がうんと増え、音楽性も拡大させたラウヴは、さらにビッグでエキサイティングなライブを見せることだろう。ライブもイケてるポップスター、ラウヴ。その可能性は無限大だ。
Text by 内本順一
ラウヴ
RELEASE INFORMATION
I met you when I was 18.(the playlist)
2019年4月24日(水)
¥2,200(+tax)
*CD:2枚組
解説:内本順一/歌詞対訳付
Tracklist
CDー1
1. I Like Me Better
2. Paris In The Rain
3. Comfortable
4. Paranoid
5. The Other
6. Reforget
7. The Story Never Ends
8. Enemies
9. Come Back Home
10. Question(ft. Travis Mills)
11. Easy Love
12. Adrenaline
13. Chasing Fire
14. Breathe
15 . Bracelet
16. Getting Over You
17. Never Not
CDー2
1. i’m so tired…
2. There’s No Way
3. Superhero
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EVENT INFORMATION
LAUV JAPAN TOUR 2019
2019年5月28日(火)@大阪・BIGCAT
OPEN 18:00 / START 19:00
¥6,000(1ドリンク別)
後援:FM802
2019年5月29日(水)@名古屋・CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
¥6,000(1ドリンク別)
主催:ZIP-FM
5月30日(木)@東京・マイナビBLITZ
赤坂
OPEN 18:00 / START 19:00
SOLD OUT
主催:J-WAVE
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