あなたは、台湾の音楽シーンと政治の距離が近いのをご存じでしょうか?
「2014年に興った学生運動へ、インディーズバンドが、アンセムソングを提供する」「音楽フェスティバルのメインステージに政治家が登場する」など、例を挙げれば、キリがありません。
今回は、2019年、台湾社会にとって大きなトピックのひとつである「同性婚合法化」にフォーカスし、性的マイノリティーーLGBTの方たちーーを応援するアーティストや、作品について紹介します。
台湾の音楽シーンでは、2000年代前半から性の多様性が支持されてきた。
2019年5月24日、台湾の立法院(国会)は、同性間の結婚の権利を認める法案を可決し、アジアではじめて、同性婚の合法化が実現しました。
台湾の音楽シーンでは、2000年代前半から、「性や愛の多様性」を支持する動きがあったようです。
たとえば、2004年に人気女性シンガーA-Mei(張惠妹)が、「Love Is Everything(愛是唯一)」のミュージックビデオの一部で同性同士の結婚式をフィーチャーしています。
張惠妹 A-Mei – 愛是唯一 Love Is The Only Way(華納 official 官方完整版MV)
また2006年には、中華圏でナンバーワンの人気を誇るバンド、五月天 Maydayが、男性同士の同性愛や、友情をテーマにした台湾映画「盛夏光年(邦題:花蓮の夏)」へ同名の主題歌「盛夏光年 EternalSummer」を提供しました。
MAYDAY五月天 [ 盛夏光年Eternal Summer ] Official Music Video-劇情版
そして、2010年代に大きな動きのあったアーティストといえば、安室奈美恵と数かずのコラボレーションでも知られる女性シンガー・Jolin Tsai(ジョリン・ツァイ)です。
「あなたは貴方 もしくは貴女 どっちでもいい」ーJolin Tsai 蔡依林 Jolin Tsai《玫瑰少年 Womxnly》Official Dance Video
Jolin Tsaiは、1980年生まれ、台湾新北市出身の女性シンガーです。歌唱力に加え、ダンスの才能もあり、1999年のデビュー以降、現在に至るまで高い人気があります。
Jolinにとって、性的マイノリティをテーマにした代表作といえば、2014年に発表した「不一樣又怎樣 」We’re All Different, Yet The Same(私たちはみんな違う、でも同じ)です。「不一樣又怎樣 」のミュージックビデオでは、長年連れ添った女性カップルの苦悩と夢が描かれています。歌詞の内容も、女性同士の恋愛をストレートに表現し、同性愛の方たちにエールを送るものです。
蔡依林 Jolin Tsai – 不一樣又怎樣 We’re All Different, Yet The Same (華納official 高畫質HD官方完整版MV)
このミュージックビデオは、Youtube動画再生回数は1,500万回を超え(2019年9月現在)、多くの台湾の方に、愛の多様性について考える大きなきっかけをもたらしました。
さらに、Jolinは、2000年に台湾のとある中学校で起きた事件(通称:葉永鋕事件)を題材とした楽曲、「玫瑰少年(バラの少年)」を、2018年に発表しています。
2000年、台湾屏東県の中学校で、当時中学3年生の葉永鋕(よう・えいし)という少年が学校内で亡くなりました。
子供の頃から女の子らしい遊びが好きだった葉永鋕少年は、亡くなる直前まで、「仕草が女性っぽい」という理由で、同級生達から激しいいじめに遭っていたそうです。この事件をきっかけに、台湾では適切な性別平等教育をするための動きが広がり、一人の少年の死が、社会に大きな影響を与えました。
誰かが心を込めて愛してくれるから
(「玫瑰少年 Womxnly」日本語訳より引用)
Jolinが葉永鋕少年を想い製作した「玫瑰少年 Womxnly」は、2019年に開催された、台湾最大の音楽賞、Golden Melody Awardsで年度ベスト歌曲賞を受賞し、今も戦い続ける人びとの心に大きな灯りをともしています。
レインボーフラッグを掲げ続けるインディーズバンド P!SCO
インディーズシーンからも、LGBTの方々に深く寄り添うバンドを紹介します。
P!SCOは、2010年に台北で結成した、リードシンガー・CatLun、ギター・Rachel、ベース・Omoi、ドラム・Liang、キーボード・DingDingの5人によるインディーズバンドです。
ダンスロックを基調とした音楽性と、熱いライブパフォーマンスが魅力で、ライブには多くのオーディエンスが詰めかけます。日本をはじめとした海外公演も多数実績があり、台湾インディーズシーンのなかでも、大きな存在感を放つバンドです。
P!SCOの特長といえば、楽曲やライブの魅力に加え、LGBTを公表しているメンバーが2人いることが挙げられます。
リーダーで、ギタリストのRachelは、MtF(男性から女性になった)トランスジェンダーであり、リードシンガーのCatLunもレズビアンであることを表明しています。
P!SCOが、LGBTの仲間たちへの応援をはじめたのは、遡ること約7年前の、2012年。台中市で行われたライブで、スピーカーからレインボーフラッグを吊り下げて、演奏をしたのがはじまりです。
「当時、インディーズシーンの中でP!SCOが注目を集めはじめていました。私は、自分自身がLGBTであることから、音楽活動を通して、希望や勇気を、仲間たちに届けたいと思ったんです」。2012年以降、すべてのライブでレインボーフラッグを掲げる理由についてそう語るのは、リーダーのRachelです。
また、P!SCOの活動は、ライブや音楽フェスティバルへの出演にとどまりません。
LGBT関連のイベントで講演会を行ったり、台北のゲイパレードに参加したりするなど、社会的な活動にも積極的に関わっています。
「あるとき、公演スケジュールとの調整が難航し、ゲイパレードへの参加がむずかしい年がありました。すると、そのことを知ったファンの皆さんがP!SCOのバンドユニフォームを着て、ゲイパレードに参加してくれたんですよ。この話を聞いて、とても感動しました!」
P!SCOの想いがファンの方たちにも伝わり、ともに社会に参加できることについて、Rachelは感謝を示しています。
またRachelは、「日本は、LGBTに対して比較的、保守的な環境と聞きました。台湾で同性婚が合法化したことで、日本にもこれまでとは違った考え方や影響を与えられますように。P!SCOがまた、日本でライブを行う時は、美しい虹色の旗が掲げられますように!」と、前向きなコメントを残しています。
P!SCO-BEING P!SCO(Official Music Video)
你喲!我們的愛除不盡(私たちの愛は終わらない)
(BEING P!SCOより歌詞を一部引用)
LGBTの支持を表明する彼らの代表曲「BEING P!SCO」は、明るい雰囲気です。たとえ言葉の壁があっても、「セクシャルマイノリティ=隠さなければいけないもの、悲しいもの」という雰囲気ではないことを、お分かりいただけると思います。
明るいステージから、全ての愛の権利を照らし続けるP!SCOは、移り変わりの速い台湾インディーズシーンで、大きな支持を集め続けています。
Text:中村めぐみ
Cooperation:TAIWAN BEATS Brien John, 張凱鈞 / P!SCO ShoLar Wang