2000年代以降のブルックリンという街は、奇天烈バンドの特別保護区にでも指定されてるんじゃなかろうかと思うほど、次々とエクスペリメンタルでおかしな連中が登場し続けているのだが、ブラック・ダイスと並ぶブルックリン珍獣派の第一世代であり、かつその極めつけとも言うべき3人組バンドが、今回7作目となる新作『Mess(メス)』をドロップしたライアーズである。

最初にミもフタもない言い方をすると、彼らは実に節操がなく奔放である。2001年のデビュー作『They Threw Us All in a Trench and Stuck a Monument on Top(哀しみのモニュメント)』で強烈なダンス・パンク・サウンドを鳴らして時代の先端に躍り出たかと思いきや、次作『They Were Wrong, So We Drowned(魔女狩りの物語)』ではなぜか中世の魔女狩りをテーマに、不穏なノイズが跋扈するポップ度ゼロの前衛カオス絵巻を展開。周囲が唖然としている隙に突如ベルリンへと引越して、クラウト・ロックのミニマル作法を摂取した野蛮でアヴァンな『Drum’s Not Dead(果てしなきドラム)』と、狂騒的ロックンロール大会を繰り広げる『Liars(ライアーズ)』をリリース。その後L.A.に移住して作られた2010年の『Sisterworld』のデラックス盤にはトム・ヨークやデヴェンドラ・バンハートらがリミキサーとして参加したことで話題を呼ぶものの、本人たちはいたってマイペースに2012年、ダーク・アンビエントな雰囲気も漂うライアーズ流インダストリアルめいた『WIXIW』を上梓。

Liars “They Threw Us All in a Trench and Stuck a Monument on Top”

アルバム毎に必ず異なる脱ポップなサウンドスケープを提示しちゃう律儀な変態的探究心こそがライアーズの魅力なのだが、安易なスタイル化を執拗に拒む奔放なスタンスが、定型を好む日本においては「難解なバンド」と捉えられている節もあり、ちょっと口惜しい。

だが、そう思っている人たちにこそ、新作『メス』を猛烈にオススメしたい。冒頭の “Mask Maker”をはじめ半数近いナンバーで鳴らされるシンプルかつ直線的に疾走するビートは、いつになく曲の輪郭を明確に浮かび上がらせているし、そこに乗る巨魁フロントマン、アンガス・アンドリューの歌声も、仄暗い低音とファルセットを巧みに使い分けてメリハリを利かせている。明らかに今までで最も耳馴染みがイイ。

Liars“Mask Maker”

もう一つ本作を特徴付けているのがトリッキーでときにコズミックな電子音の上物で、とりわけリード・トラック“Mess On A Mission”で聴ける大昔のテレビゲーム=ポンテニスやブロック崩しのようなギミックはインパクト大(笑える意味でも)。実験性も強いが、それ以上に享楽的な下世話さを感じるのがまた本作の面白いところ。

Liars“Mess On A Mission”

さらに今までに試みてきたミニマルやインダストリアル、シャーマニックなテイストも随所に表出して、さながら「ライアーズの音楽大見本市」のごとき様相を呈しており、その点でも初めてこの珍獣バンドに触れるリスナーにとっての第一次接近遭遇としてはバッチリの内容だといえる。ぜひ恐れずに聴いて欲しい、たぶん噛み付いたりはしないから。

(text by 北爪啓之)

Release Information

2014.03.19 on sale!
Artist:Liars(ライアーズ)
Title:Mess(メス)
MUTE/TRAFFIC
TRCP-151
¥2,100(tax incl.)

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