第二のデビュー作? 3作目『キング・オブ・ザ・ウェーヴス』
ウェイン・フルウッドの後任として『スタンド・ユア・グラウンド』製作途中に加入したドラマー、ビリー・スキナーは08年に脱退。その後任にイエスやエイジア等のプログレ・バンドで活躍したスティーヴ・ハウの息子、ヴァージル・ハウが加入して現在のメンバー編成となり、2010年には4年振りとなった3作目『キング・オブ・ザ・ウェーヴス』をリリースすることに。本作は、バンド自身の自主レーベル〈Non Delux〉立ち上げを経た初作品であり、そのプロデューサーにはデビュー作同様エドウィン・コリンズが選ばれ、レコーディングも彼のスタジオで行われるなど、「第二のデビュー作」とでもいうべきフレッシュな再始動作となった。
これまでのブルージーな質感に加えて、ガレージ・ロックの躍動感やカラフルなサイケデリック・ロックの酩酊が渾然一体となったサウンドからは、プライマル・スクリームをはじめとする他アーティストとの活動を血肉化した様子も伺える。
Little Barrie – Surf Hell
『キング・オブ・ザ・ウェーヴス』に伴うツアー、プライマル・スクリームとしてのツアーに多忙な日々を送る中で書き溜めた曲をレコーディングした4作目『シャドウ』は、前作からちょうど3年経った2013年10月に発表された。同作は、これまで彼らが着実に積み上げてきたライブ・バンドとしての地力を録音するだけでなく、スタジオでの作業によってさらに深く掘り下げた意欲作となった。
Little Barrie – Shadow
隙間を活かした空間的な音の配置、音の鳴りに対する配慮が細部まで行き届き、これまでのリトル・バーリーの作品とは一線を画す仕上がりに。本作の制作時、彼らは映画音楽のようなサウンドをイメージしていたそうだが、ゆったりとしたビートを主体にして、音を差し引きすることで全体のムードを作り上げていく様は、確かに映画のスコアにも近いものがある。そして、彼らがここで挑戦した新しいアプローチは、彼らに意外とも言える仕事をもたらすことになった。
その意外な仕事とは、TVドラマ『ベター・コール・ソウル』のオープニング・テーマへの起用だ。アメリカで数多くの記録を塗り替えた『ブレイキング・バッド』のスピンオフである同ドラマ・シリーズのオープニング・シークエンスで流れる印象的なサウンドは、彼らの楽曲“Why Don’t You Do It”からの引用。
イギリス出身のバンドであるリトル・バーリーと、アメリカ南部を舞台にしたクライム・サスペンスとは一見アンバランスにも思えるが、『シャドウ』以降のサイケデリックでブルージーな音楽は映像にもテーマにも抜群にマッチしている。『ブレイキング・バッド』『ベター・コール・ソウル』といえば、音楽家にもファンが多く、音楽使用の面でも高い評価を得てきたシリーズ。この意外な起用も、リトル・バーリーに対する玄人筋からの信頼性の高さを裏付けるものと言えるだろう。