約5年8ヵ月の別れを経て、Suchmos(サチモス)が煌びやかなステージの上に帰ってきた。
2021年に「修行の時期を迎えるため」という理由で突如訪れたSuchmosの活動休止は、ファンはもちろん、音楽業界全体を驚かせるニュースだった。愛するバンドの歩みが止まり、悲しみに明け暮れたファンは多かったことだろう。そこからしばしの間は、メンバーのソロ活動やライブでの交流などを心の支えに、復活の火がいつしか灯ると信じて過ごした者も多かったはずだ。
ただし、救いの神は再び、突如舞い降りる。Suchmosは2024年10月に、オフィシャルサイトで活動再開を宣言。同時に彼らのホームタウンである神奈川の横浜アリーナで、復活を高らかに告げるワンマンライブの開催を発表し、Suchmosを愛するhomieたちは歓喜に震えた。
そしてついに、日本国内の単独有観客公演としては2019年9月8日に横浜スタジアムで行った<“Suchmos THE LIVE” YOKOHAMA STADIUM>以来、5年8ヵ月ぶりのライブとなる<Suchmos The Blow Your Mind 2025>が、6月21日・22日に横浜アリーナで開催された。
2日間の公演に対して約20万の応募が届き、プラチナチケットとなった今回のライブ。その幸運を掴み取ったDAY1の1万2000人以上のファンたちは、横浜アリーナに向かう道中で、甘酸っぱい青春やほろ苦い日々を彩ったSuchmosの曲を、脳内でリフレインしたことだろう。
約2時間、アンコールを含めると全19曲。それは、単なるワンマンライブと呼ぶのでは味気ない、アーティストとファンの共鳴が作り上げる、感情を凝縮した痛快な“復活劇”だった。
帰ってきたと言うべきか
また新しく始まったと言うべきか
「早くSuchmosに会いたい」という観客の期待と興奮が、隅から隅まで充満する横浜アリーナ。その気持ちを焦らすかのように、開演時刻の18時をやや過ぎたころ、客電が落ちて暗闇となったステージに、わずかな灯りがともる。割れんばかりの拍手と歓声が場内に広がる中、幻想的なSFに誘われて定位置についた6人のシルエットだけが、ステージ上にぼんやりと浮かんだ。
TAIHEIの美しいピアノの音色と、OKのタイトなドラムの響きに続き、暗闇の中でYONCEが歌い始める。幕開けとなった1曲目は、2015年リリースのファーストアルバム『THE BAY』に収録されたデビュー当時からの代表曲であり、ライブでは欠かさず披露されている“Pacific”。ファンにとっては、久しぶりに生で聴くYONCEの歌声が、静まり返った空間を全方位に泳いで、ひとりひとりのもとへと向かってくる。まだ、顔は見えない。それゆえ音と歌声のみに意識が集中する。
始まりの余韻に浸る中、2曲目は7月2日に発売されるEP『Sunburst』からの新曲“Eye to Eye”。ここで会場内はライトON。スクリーンにYONCE、TAIKING(Guitar)、山本連(Bass)、TAIHEI(Keyboards)、Kaiki Ohara(DJ)、OK(Drums)が映し出されると、文字通りの大歓声だ。YONCEは復活後のアー写で着ていた、赤のもこもこジャケットとジーパン姿。サビではそのYONCEがマイクスタンドの前でクールに手を叩き、オ―ディエンスのクラップを誘導していく。
勢いのままに、ベースのメロディアスなリフと、Suchmosというバンドのカウンター性をよく表す「アマチュアもプロも変わんないね」という歌詞が印象的な“DUMBO”を投下。一気に演奏のギアを上げ、始まりから3曲で、すぐさま横浜アリーナをSuchmosの空気に染め上げた。
そしてBLUEとYELLOWのライトが天井に伸びる中、OKのタイトなドラムとKaiki Oharaの鋭いスクラッチが響くと、自然と鼓動が高鳴る。観客の「来た!」という反応が手に取るようにわかる空気の中、Suchmosの存在を世に知らしめたヒットソング“STAY TUNE”へ。YONCEはまるで家の近所を散歩するかのように、右から左、左から右へとふらりふらり歩きながら、余裕の表情で歌い上げる。ここでおそらく、ライブが始まってから初めて、YONCEが笑顔を浮かべた。
ややBPM早めの“STAY TUNE”から“808”へ。かつてHonda「VEZEL」のCMソングに起用された2曲を見事なアレンジで繋ぐと、ここでもKaiki Oharaのスクラッチが火を吹く。さらにYONCEが「Ladies and Gentlemen! 紹介します。オンベース、山本連!」とシャウトすると、オーディエンスから拍手の嵐。この話はもう少しあとに。感傷に浸るのはまだ早すぎる。ただし、山本連が終始見せたクオリティの高い演奏が、この日のトピックのひとつであることは間違いない。
怒涛の5曲を終え、ここでMCタイム。YONCEが会場を見渡し、静かに語り始める。
「久しぶり。Suchmosです。ああ……帰ってきたと言うべきか、また新しく始まったと言うべきか。今日この場所に来てくれて、本当にありがとう。楽しむからご自由にどうぞ」
そこから、Suchmosが2017年に設立した自主レーベル〈F.C.L.S.〉の名前の元であり、その第1弾作品『FIRST CHOICE LAST STANCE』が歌詞に出てくる“PINKVIBES”へ。“揺れてたいhomie”たちの気持ちを汲むグルーヴィーなサウンドに、YONCEも身を委ねて体を揺らす。
山本連の重厚なベース音とYONCEのメッセージ性の強い英詞で、ヘヴィな世界観を表現する“Burn”で迫力のバンドサウンドを見せつけたと思いきや、一転してサビで会場が一体となるコール&レスポンスが起こった“Alright”を爽やかに贈る。そして再びのMCでYONCEは、2020年にコロナ禍でアジアツアーが1月の台湾のみで中止となり、その年の夏にすべて新曲で配信ライブをやったことを振り返る。同時にそこからの月日でメンバーが歳を重ねたことを自虐的にからかい、笑いと拍手が起こった。
Sadness is not gone in my head but
笑おう ただの1日を
「今日は夏至ですよね。陽が一番長い日ですよ。普段いないやつもいるんじゃない? そんな気がする」と言って始まったのは、仲間への思いを綴る夏のダウンビートアンセム“MINT”。「何も無くても 笑えていればいい 何も無くても 歩けさえすればいい」──ベース音が唸る。危ない。そのメロウでスモーキーなサウンドに、また過去に感情を引っ張られそうになる。その瞬間、YONCEの「帰ってきたよ横浜!」のアドリブシャウトで、現在(いま)に気持ちを戻してもらった。
その現在に戻った気持ちが繋がる形で、7月2日(水)リリースの新作EP『Sunburst』からの先行配信楽曲“Whole of Flower”がスタート。浮遊感と切なさのあるTAIHEIのコード進行に寄り添う、OKの正確なダウンビートとKaiki Oharaの印象的なスクラッチ。そして影の主役とも言える山本連のベースが曲の輪郭を描き、TAIKINGの余韻を残すようなバッキングが装飾を加える。
そのサウンドに、ウィスパー・ボイスも駆使して「Sadness is not gone in my head but 笑おう ただの1日を」と語りかけるYONCEの言葉が融合。さまざまな経験や感情や葛藤を乗り越え、2025年の横浜アリーナに辿り着いた、最新のSuchmosを象徴するような1曲だった。
続く“Marry”もEP『Sunburst』の収録曲で、スクリーンに映るモノクロ映像をバックに、「結婚しよう 一緒に暮らそう」という直球の歌詞。OKやTAIKINGのコーラスも含め、これまでのSuchmosとはまた異なる意外性を感じた同曲は、活動休止期間が生んだ産物かもしれない。
温かで落ち着いたライトがステージを照らす中、TAIKINGのギターがドープな唸りを上げ、YONCEが燃え尽きそうな夜明けのブルースを歌う“OVERSTAND”を終えると、気持ちを落ち着かせたYONCEが、「音楽をやらせてくれてありがとうございます」と心からの言葉を届ける。
と思えば人が変わったかのように、「ラストスパート!僕らは×××××」の号令で一気にボルテージを上げて始まったのは、新作EPにも未収録の新曲“To You”。「言いたいこと言いにきたよ!」の言葉通り、悪ガキのノリ全開の狂った表情で声を張り上げるYONCE。「生きているかい!」なんて、まるで忌野清志郎だ。TAIKINGのギターソロも、この日一番レベルで荒ぶっている。追い打ちをかける“Latin”もパッケージ化されていないラテンナンバーの新曲で、演奏隊のスキルを見せつけた。YONCEはその間ずっと「思いつくままに」踊り続け、歌い続け、動き続けている。
照れ臭さを隠すように、暗転した中でメンバーひとりひとりが素直な感情を言葉にしたあと、余裕を感じさせるフリースタイルセッションを挟み、“GAGA”へと進む流れも実にスムーズだった。「甘い円盤を探して 並ぶためにパンケーキ食べて」などのフレーズで、流行に右往左往して自分らしさを失う都市生活者を風刺するこの曲は、2015年の発表から10年経った今の方が、当事者に突き刺さるのかもしれない。曲の後半で起きた高速クラップは、曲への賛同の現れだろう。
2018年のサッカーW杯ロシア大会で、NHKテーマ曲となった“VOLT-AGE”でライブの熱量をキープすると、ラストはこちらも懐かしさ全開の『THE BAY』収録曲“YMM”。Suchmosのメンバーがよく深夜に遊びに行っていたという“横浜みなとみらい”の略である“YMM”を、メンバーそれぞれのソロプレイを挟みつつ、本編最後に軽やかにお届けするあたりが実にSuchmosらしい。「もう終わりか」と思ったそのときの感情は、Suchmosへの最大の賛辞と受け取ってほしい。
だから、ずっと覚えていたいし、ずっと想っていたい
3分は続いただろうか。オーディエンスのアンコールの大歓声に誘われて戻ってきたメンバー6人は、それぞれが衣装を変え、この日を心から待ち望んでいたファンの前に再び登場した。
「こんなに大事な人たちを待たせて、見る機会がないままに、何年もの歳月が経っていたという事実を1曲目から痛感して、あっというまに終わっちゃいました。明日もあるけどね」
その言葉に続いてYONCEが、新作EPの情報に加えて、ファン歓喜のビックサプライズを用意していた。10月から、国内と海外の13都市を巡るアジアツアー<Suchmos Asia Tour Sunburst 2025>の開催を発表。今回のワンマンに来られなかったファンを安堵させたことだろう。
そしてここで唐突にYONCEが、「あの……隼人ってやついたじゃん」と語り始める。
「HSU、あいつ死んだじゃん。本当にさ、本当にいろんな気持ちで来てると思う。俺たちも共通の何かを持ってるわけじゃないかもしれない。言葉にするのはとても難しい。俺たちにとって、とても近くにいたやつがいなくなりました。こういう場所では目を瞑ってしまいがちだけど、人を殺したり殺されたりってことが実際に世の中では起こっていて、アーティストがこういうことに口を挟むと……冷める、人もいると思うけど、命は大事。失ったものは帰ってこない、絶対に。だから、ずっと覚えていたいし、ずっと想っていたいなと思います。一瞬、目を瞑って深呼吸しません?」
この純粋さこそ、YONCEがYONCE たる所以。そしてSuchmosとしても、同業者が見たら嫉妬するほど洗練された音楽を常に生み出すバンドでありながら、一歩離れて彼らを見れば、神奈川で生まれ育った音楽と友達を愛する、どこにでもいそうな兄(あん)ちゃんたちだ。
「こういうのやだって人もいるよね。クソバカな友達に贈ります」というYONCEの言葉で始まったアンコール1曲目は、こちらもEPには未収録の新曲“Stand By Mirror”。YONCEが声をかすれさせながらも泥臭い想いを言葉にする、ノスタルジックなロックンロールナンバーを聞き逃すまいと、オーディエンスはステージをじっと見つめ、その一言一句一音に耳を傾けていた。
メンバー全員の名前を呼び、「ボーカルおれ」とYONCEが告げたのち、ラストナンバーは“Life Easy”。2015年リリースの1st E.P.『Essence』の収録曲であるとともに、活動休止前の最後となった〈“Suchmos THE LIVE” YOKOHAMA STADIUM〉でも大トリを務めた曲だ。
なんでもいいよ 今 今 楽しい 嬉しい 悲しいけど
新しい場所へ 行きたいんだ 生きていたいんだ
YONCEがアドリブで歌い上げたメッセージが、Suchmosの今を表すとともに、この先の未来を明るく照らしているようにも感じた。トータル約2時間のライブを終えたメンバー6人は、「バンドがよくツアーファイナルでやるやつ」と茶化しながらステージ中央で横並びになって一礼。「あとは適当にやってよ」(YONCE)と言い残し、晴れやかな顔でステージをあとにした。
単独有観客公演から数えると、約5年8ヵ月という歳月は何をもたらしたのか。もちろん今回のライブで、メンバーそれぞれが活動休止中にソロで磨いたスキルや、新たなテイストのバンドサウンドへの進化を感じられた。ただそれ以上に、「Suchmosは変わらない」という事実が、このバンドを愛する気持ちを再び後押ししてくれたはず。そしてファンは、Suchmosという稀有なバンド──オーバーグラウンドやアンダーグランドといった概念にとらわれず、自分たちが信じる音楽のみにストイックでフリーダムな彼らを、この先もずっと応援し続けたいと思ったことだろう。適当に、自由に、自分らしく。新横浜までの帰り道、その足取りはすでにSuchmosに踊らされていた。
Text by ラスカル(NaNo.works)
Photo by Desital Natives
Suchmos – The Blow Your Mind 2025
2025年6月21日(土)@横浜アリーナ
セットリスト
01. Pacific
02. Eye to Eye
03. DUMBO
04. STAY TUNE
05. 808
06. PINKVIBES
07. Burn
08. Alright
09. MINT
10. Whole of Flower
11. Marry
12. OVERSTAND
13. To You
14. Latin
15. GAGA
16. VOLT-AGE
17. YMM
<アンコール>
18. Stand By Mirror
19. Life Easy
RELEASE INFORMATION
Suchmos 『Sunburst』
2025.07.02 ON SALE
1. Eye to Eye
2. Marry
3. Whole of Flower
4. BOY
CD予約はこちら
TOUR INFORMATION
<Suchmos Asia Tour Sunburst 2025>
10月29日(水)神奈川 KT Zepp Yokohama
11月2日(日)福岡 Zepp Fukuoka
11月3日(月)大阪 Zepp Namba
11月8日(土)広島 BLUE LIVE HIROSHIMA
11月14日(金)北海道 Zepp Sapporo
11月16日(日)宮城 仙台 PIT
11月21日(金)愛知 Zepp Nagoya
11月23日(日)韓国・ソウル YES24 LIVE HALL
11月26日(水)中国・上海 VAS est
11月28日(金)台湾 ZEPP NEW TAIPEI
11月30日(日)タイ・バンコク VOICE SPACE
12月06日(土)富山 クロスランドおやべ
12月12日(金)東京 Zepp Haneda
12月13日(土)東京 Zepp Haneda