今年2月12日、Spotify O-WESTでのライブで新体制を発表し、7月19日には新体制初の作品集『NEW WORLD e.p.』をリリース。そして9月3日から新体制初の全国ツアーをスタートしたlyrical school(リリスク)が10月1日(日)に恵比寿LIQUIDROOMで開催したツアーファイナル公演。その模様を、文筆家のつやちゃんがお届けする。(Qetic編集部)
REPORT:
2023.10.01(SUN)@LIQUIDROOM
lyrical school oneman live tour 2023 “NEW WORLD” final
バーカン前で並んでいると「久しぶり~!」という声が響き、ふと視線を向ける。ちょっと照れながら恥ずかしそうにグループの輪に入った女性が、皆と再会を喜びあう。そうか、久しぶりだよね。この日のライブは、そこかしこで「久しぶり」と「はじめまして」が飛び交っていた。数年ぶりに帰ってきた人、初めて来た人。色々な人が集いながらも、どこか温いアットホームな空気が漂うのはリリスクのライブならではだ。中には、半ば強引に連れてこられた人もいるかもしれない。そろそろ新しいリリスクを受け入れられそうだと意を決して足を運んだ人もいるかもしれない。いつものファンだって、どのくらいの人が集まっているかちょっとドキドキしていたかもしれない。皆が、それぞれに違う緊張を抱えながら参加した恵比寿LIQUIDROOM。
しかし、アイドルというゲームはなぜこんなにも厳しい試練ばかり起こるのだろう。今年2月の新体制お披露目ライブから8か月、多くの現場をこなす中で、メンバーたちが一つのマイルストーンとして捉えていたのがこの日のツアーファイナルだった。全国ツアーで各所を行脚し、大型イベントにも出演し、対バンも果たし、場数をこなすことで鍛え上げてきたこの8か月。ただ、立ちはだかる壁は高かった。集客が目標に届かず、熟考を重ねた結果、奇策を仕掛けることになった。チケット1枚あたり3名まで入場できるというキャンペーン。諸刃の剣だろう。どうしたってプライドというものがあるし、何か秘策を打ったとしても、普通ならきっと表向きは何事もなかったかのようにやり過ごすはずだ。
でもリリスクは嘘のないグループだから、全力でキャンペーンを呼びかけて恵比寿LIQUIDROOMを満員にしてしまった。エフォートレスでヘルシーというのが今のアイドルシーンにおけるリリスクの独自性だと思うのだが、その確固たる強みがここでも生きている。ありのままを見せ、自然体から生まれるチームのヴァイブスを育てていくこと。だからこそこのグループは、これまでも数々の逆境を好機に変えてきた。パンデミックの時も、世の中のアーティストがまだ途方に暮れていた時期に斬新なリモートライブを演じてあっと驚かせた。あまりにも劇的なメンバー脱退の時も、男女混合8人組という新たなコンセプトでここぞとばかりに再起を図った。いつだって逆境を逆手にとるのがリリスクで、その度に成長の機会へと変えてきた。
この日も、専用のアンケートフォームを用意しライブの感想を積極的に募ったのはその良い例だが、(狙ってかは分からないが)演目自体にも過去曲の掘り起こし――つまりリリスク史を再解釈するようなアプローチが見られた。何せ、この夏久しぶりに再演された“ワンダーグラウンド”や“ひとりぼっちのラビリンス”から始まり、新体制初となる“Bring the noise”、さらにはtengal6時代の“fallin’ night”(2012年リリースの『CITY』収録!)までもが披露されたのだ。その他にも、manaの自作曲“外カメ壊れてる”や“IDOL SONG RAP”など、夏に配布されたMIX CDからもしっかりプレイ。今回のツアーの流れを踏まえつつレアな過去曲も持ってくるという、客層を踏まえバランスよく練られた選曲だったように思う。とは言え、最大の熱気を生んでいたのは最新EPからの楽曲というのが頼もしい。2月の新体制お披露目ライブ以降、筆者は6月の新曲卸しライブVol.4(Spotify O-nest)と7月のEPリリースパーティ(渋谷WWW)を観てきたが、“House Party”と“DRIVE ME CRAZY”は披露する度に熱狂が高まっており、セットリストでもどんどん終盤の方へと格上げされていった感がある。特に“House Party”の男性三人のドライブ感あふれるマイクリレーはすばらしく、リリスクの新たな武器になりつつあることを確信した。“NIGHT FLIGHT”から“TOKYO BURNING”にかけての男性三人+minanの表現もだいぶ板についてきたし、minanのソロ曲“ttyl”で重要な役を演じ切ってしまうtmrwは、全編に渡る軽快な身のこなし含めてこの日のMVPだった。
途中、新曲“moonlight”のバキバキに歪んだ音に身体をさらし、心地良い爆音の中でステージを眺めながら、今のリリスクは一体何者なのだろうとふと考えてしまった。もうアイドルラップではないのかもしれない。新メンバーたちは、このグループにもっと広い解釈を持ち込んでくれたから。そう捉えると、以前のリリスクも別のものとして少しずつ聴けるようになる。帰り道、気がついたら『L.S.』を流していた。めくるめく研ぎ澄まされたラップ、目に浮かぶ一人ひとりの躍動する姿。ヘッズたちの中に生きている、瑞々しく鮮やかなサウンドたち。完璧な時間はいつだって一瞬で過ぎてしまうし、楽しいことなんていつもすぐに終わってしまう。もっと見ておけばよかった。まだまだたくさん記憶に残しておけばよかった。だから、今のリリスクはもっともっとたくさん曲を出して、たくさんライブをして、アイドルラップなんてどこへやら、ずっとずっと遠く彼方へ行くべきだと思う。このファイナルで、光り輝く才能をたくさん見つけることができたのは嬉しかった。“BRING THE NOISE”を笑顔で全力で歌っていたsayoは凄かった。終始ステージを疾走しまくっていたtmrwには惚れ惚れしたし、“HOMETENOBIRU”を完全に自分のものにしていたhanaは素敵だった。“The Light”でどんどん巧くなるキレキレのラップを披露していたmanaはさすがで、“fallin’ night”でありったけの力を込めて歌っていたmalikもカッコよかった。“TOKYO BURNING”を丁寧にしっかりと歌い込むryuyaも最高だったし、“mada mada da!”で完璧なポージングを決めてくれたreinaは盤石の安定感だった。この日駆けつけた多くのヘッズが8人に賛辞を送っていたから、もっともっと弾けて、昔のリリスクをどんどん置き去りにしてほしいと心から思った。minanの想像を超えるような、minanが驚いて慌ててしまうような、それくらい爆走するリリスクになって、未だ見たことのない世界へと突っ走っていって――想像するだけでわくわくする。
ファイナルのあの景色を思い出すたびに、私たちの新たなアンセム“NEW WORLD”がいきいきと鳴りはじめる。軽やかなフロウで歌われる、minanのパートが好きだ。――久しぶりだね、はじめまして。
皆、久しぶりに会えてよかった。はじめましての人たち、これからもよろしくね。さぁ、未来に繰り出して、何描いてく?
INFORMATION
『NEW WORLD e.p.』
2023.07.19(水)
VICL-65851
POS:4988002 93178 1
2,200円(税込)