若手トラックメイカー/プロデューサーの代表格として人気を集め、2015年の『Adventure』がUSダンス・チャートで1位を獲得。EDM系フェスを筆頭に世界各地の大型フェスに出演するなど、母国フランスを越えて注目されるマデオン(Madeon)ことヒューゴ・ルクレール。彼が「Good Faith」をテーマに掲げ、今年の5月より新曲のリリースをはじめている。ポーター・ロビンソンとのコラボ曲「Shelter」が2016年だと考えると、彼が新曲を発表するのは実に約3年ぶり。改めてこれまでの活動を振り返りつつ、新曲について紐解いてみたい。

1. 2010年代の新たなエレクトロニック・ミュージック

EDMの先駆者、マデオンの軌跡。新プロジェクト<Good Faith>が向かう先とは? music190816_Madeon_lollapalooza_1

マデオンはフランスのナント出身の現在25歳のプロデューサー。幼少期にダフト・パンクのドキュメンタリーを観てトラックメイカー/DJに憧れ、当初は「Daemon」として音楽活動をスタート。2011年にそのアナグラムでもある「Madeon」名義での活動をはじめ、若手屈指のプロデューサーとして人気を集めていった。中でも、彼の才能を広く伝えることになったのが、2011年7月にYouTube上で公開された “Pop Culture (live mashup)”だ。

Madeon – Pop Culture (live mashup)

この動画では、8×8=64個のパッドにそれぞれ音源を登録し、指で叩くことで様々なサンプル音源をライブ演奏できるLaunchpadを使用して、ジャンルも年代も多岐にわたる39曲を1曲にマッシュアップ。ダフト・パンク(Daft Punk)の”Around the World”や”Aerodynamic”、ジャスティス(Justice)の”DVNO”といったフランスのプロデューサーの楽曲から、日本のCapsuleの”Can I Have a Word”、ゴリラズ(Gorillaz)の”Dare”やクローメオ(Chromeo)の”Mamma’s Boy”、レディー・ガガ(Lady Gaga)の”Alejandro”やエリー・ゴールディング(Ellie Goulding)の”Starry Eyed”、果てはバグルス(The Buggles)の”Video Killed the Radio Star”やザ・フー(The Who)の”Baba O’Riley”(セバスチャンによるリミックスVer.)まであらゆる音楽を約3分半に詰め込み、この動画は現在までに5000万回以上再生されている。

こうした初期の活動にも顕著な通り、マデオンは当時のEDMの主流とは、少し異なる魅力を持っていた。当時は欧米のEDMブームの全盛期。特にアメリカでは「初めてエレクトロニック・ミュージックがアメリカを制した」とまで言われ、ビッグルームハウスを筆頭に大箱で映えるサウンドを鳴らすプロデューサーが続々と人気を獲得していた。その中にあって、『Discovery』期のダフト・パンクを思わせるポップなメロディやシンセフレーズ、ビートを持ちながら、同時にネット世代特有の奇抜なエディット感覚を前面にした彼の楽曲は、むしろエディットによって生まれる不規則なビートを強調。もちろん、こうした音楽性自体は、2010年代初頭からインターネットを中心に広がっていったフューチャーベースを筆頭に様々なアーティストが追求してきたものだったが、マデオンはそうした実験性と、大会場でも映えるスケール感を融合。ポーター・ロビンソン(Poter Robinson)らとともに2010年代のエレクトロニック・ミュージックの新たな王道を担う若手アーティストとして人気を集めていった。

Madeon – Nonsense (Official Video) ft. Mark Foster

以降は2015年にファースト・アルバム『Adventure』をリリース。この作品では楽曲ごとに、バスティル(Bastille)のダン・スミスやパッション・ピット(Passion Pit)、フォスター・ザ・ピープル(Foster The People)のマーク・フォスターら様々なゲスト・ボーカリストを招集。同時に自身も”Beings”などでボーカルを担当し、彼の音楽の特徴でもあるキャッチーなシンセとメロディ、モダンなプロダクションを詰め込んだエレクトロニックアルバムを完成させた。この頃顕著だったのは、彼の「プロデューサー」としての側面。サマーソニック/ソニックマニアでの来日公演でも、Launchpadを使ったDJセットを披露。自身の楽曲から様々なリミックスまでをDJ的に繋いでいった。

Madeon – Pay No Mind ft. Passion Pit

2. “Shelter”がマデオンにもたらした影響

EDMの先駆者、マデオンの軌跡。新プロジェクト<Good Faith>が向かう先とは? music190816_Madeon_lollapalooza_2

そして2016年には、ポーター・ロビンソンとのコラボ曲「Shelter」を発表。もともとインターネットの音楽コミュニティを通して出会い、10年来の友人だった2人は、マデオンの実家で実際に顔を突き合わせて楽曲のアイディアを練り、お互いの作品からサンプルした音やマデオンが担当するメインボーカルを加えて楽曲を制作した。また、この曲のMVは『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』などで知られるアニメ制作会社、A-1 Picturesが制作。シェルターに残された少女と父親との絆を描いた映像と楽曲との相乗効果で、現在までに4000万回再生を越える2人の代表曲のひとつになっている。

Porter Robinson & Madeon – Shelter(A-1 Pictures&Crunchyrollによるショートフィルム)

このコラボレーションに伴って実現した2人のジョイントライブツアーでは、ドラムを筆頭にライブインストゥルメンツを演奏に加え、互いの楽曲をリアレンジし合ったり、互いにボーカルを取り合ったりするなど、「DJセット」ではなく「ライブセット」としての魅力を追求。互いの友情を祝福するためのコラボだからこそ、生演奏を加えた即興性のあるセット=互いのアイディアがリアルタイムで反映されていく、音楽を通して会話をするようなライブを追求した。

こうした「Shelter」での経験は、マデオンに大きな影響を与えたようだ。彼が今年5月に公開された新曲“All My Friends”に際して語ったインタビューでは、「Shelter」での経験がこの楽曲のインスピレーション源になったと明かし、あの楽曲/ツアーを通してより多くの人々が自分の歌声を受け入れてくれたこと、自分で書いた言葉を自分で歌うことの大切さを実感したことが大きな経験だったと話している。また、現在彼はLAに移住。この環境の変化も、よりポップになった新曲に影響を与えているようだ。現在公開されている新曲群は、すべて自身のボーカルをメインに据え、モダンなプロダクションに生楽器や生のコーラスを加えるなど、よりシンガーソングライター的な側面を感じさせるポップ曲になっている。

Madeon – All My Friends

たとえば、”All My Friends”は、自身の歌からはじまってスローディスコ風のグルーヴとドラムビートが広がり、印象的なボーカルエディットが加えられた構成で、メロディや楽曲そのものの魅力が伝わりやすい雰囲気が大切に残されている。また、2019年7月に自身が担当するApple Music「Beats 1」のラジオプログラム「Good Faith Radio」で公開した”Dream Dream Dream”では、エディットされたゴスペル風コーラスとエレクトロ・ビートのうえで、いつになく温かな雰囲気の歌声を披露している。こうした2曲のサウンドを聴いても、今のマデオンがより自身のパーソナルな側面、代えのきかないその人だけが持つ人間性に焦点を当てて音楽をつくりはじめていることが伝わってくるようだ。彼が新曲群の公開に際して「Good Faith」をテーマに掲げているのも、そうした人それぞれに異なる要素=フロアでの様々な人々の「表情」を見てきたこれまでの経験を反映したものなのかもしれない。

Madeon – Dream Dream Dream (Official Audio)

3. ニューアルバムへの期待

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Apple Musicで公開中の『Good Faith Radio Playlist』では、”All My Friends”と”Dream Dream Dream”に挟む形で彼が様々なインスピレーション源を公開しているが、ここにジャスティスやアヴァランチーズ(The Avalanches)のようなルーツ、The 1975やタイラー・ザ・クリエイター(Tyler, The Creator)らの楽曲に加えて、アース・ウィンド・アンド・ファイアー(Earth,Wind & Fire)の”September”を加えていることを考えても、彼がプロデューサーとしての魅力を引き続き曲に反映させながら、同時にそれだけにとどまらない要素を加えることで、新作に向けて新しい場所に向かっていることが想像できる。この『Good Faith Radio Playlist』は現在までに第2回までが更新されていて、2回目のプレイリストではボン・イヴェール(Bon Iver)の新曲”U (Man Like)”やビートルズ(The Beatles)の”Magical Mystery Tour”、フューチャーベースの始祖のひとりとして知られるウェーヴ・レーサー(Wave Racer)の”AUTO”、チャンス・ザ・ラッパー(Chance The Rapper)の新曲”Do You Remember (feat. Death Cab For Cutie)”など、引き続きジャンルも年代も様々な楽曲がまとめられている。

Good Faith Radio Playlist

また、8月初旬に行なわれた<Lollapalooza 2019>では、スタンドマイクをセットの中央に据え、観客をこれまで以上に煽ったり、ときにはシンガーとしての自分を前面に出したりと、よりライブセットとしての魅力を追求。会場からも終始合唱が起こり、フロア一面に熱気が充満していた。

9月6日(金)には東京の代官山SPACE ODDで、前回の来日から約6年ぶり、一夜限りの緊急来日も実現。DJセットでの出演ではあるものの、現在のマデオンの興味を反映したものになることは間違いなさそうだ。果たして、当日のDJセットはどんなものになるのか。そして、来たるアルバムはどんな作品になるのかだろうか? 楽しみに待ちたい。

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text by 杉山仁

RELEASE INFORMATION

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ALl My Friends

Madeon
配信中(2019年5月31日配信)

再生/購入はこちら

Dream Dream Dream

Madeon
配信中(2019年7月12日配信)

再生/購入はこちら

EVENT INFORMATION

Madeon<DJ SET>

2019.09.06(金)
OPEN 18:00/START 19:00
代官山SPACE ODD
ADV ¥7,500(1ドリンク別)

TICKET:08.24(土)AM 10:00〜発売
チケットぴあローソンチケットイープラス

協力:ソニーミュージック・インターナショナル
企画・政策・招聘:クリエイティブマンプロダクション

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